名探偵もよ 怪盗登場回
ここはルォンドゥンのカーベー街にあるアパートの一室。
そこはルォンドゥン一の名探偵、もよが営んでいる探偵事務所がある。
事務所の主は自らの机の奥にある上質な革でできた回転椅子に寄りかかりながら、就業前の優雅なココアタイムを楽しんでいた。
この事務所のイスで一番値の張る、もよの特等席である。
そこに慌しく階段を駆け上がる音。
「先生!大変です!!!」
部屋のドアを勢いよく開け、焦った顔をして入ってきたのはもよ助手、ミヤコである。
「おはようみやこくん。それで?あさのあいさつをわすれるほどにたいへんなこととは?」
「あぁ、すいません……おはようございます……ハァ……」
ここに来るまで全速力だったのか、ミヤコは息が切れているようだった。
「もうすこしおちついてからはなしたらどうだい?」
もよはココアを飲みながらミヤコがいつも使っているイスに座るよう促した。
「ハァ……いえ!おちついてから話をしている場合じゃないんです!!!」
「資産家のマクズ氏が持つ彫像、『カチョック』を盗むと予告状が!」
『カチョック』とは絵画から彫刻まで幅広いジャンルで活躍する天才芸術家、じゃすの代表作で、マクズ邸の庭園の中央に鎮座してる17メートルの大作である。
「……さしだしにんは?」
もよは未だマグカップに口をつけていながら聞いた。
「それが、今まで聞いたことのない名前で……怪盗兎…と。」
その名を聞いた途端、もよはマグカップ机に起いた。ココアは、飲みかけである。
「…………いきがもどってきたところでわるいがみやこくん、すぐにでるぞ。」
「はい!マクズ邸ですね!!久しぶりの大捕物ですが先生。」
「お口にココアがついて、ヒゲみたいになってますよ。」
───それにしてももよ先生がどのような依頼があっても絶対に欠かさないココアタイムを中断するなんて……
怪盗兎とは一体何者なのでしょうか……?
もよが口を拭き、事務所を出たのを反対側のビルの屋上から見届ける者がいた。
「そうそう、はやく兎を楽しませてよね。」
後ろで高く二つに束ねたその髪色は、卸したてシーツのような白、しかし毛先に染まっている色は、まるで星1つもない真夜中のような黒だった。
名探偵もよ 第38話 兎は新月の夜に跳ねる