貴方のいない日 @それみくちぇいんず

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老婆 ここは、どこですかの。あんたは、だれ、ですかの
死神 死神さ
老婆 しにがみ、へええ。それでは、あたしは、死んだのかね
死神 死ぬ前に会いにきたんです。あなたの魂を見定めに
老婆 魂。たましいね。あたしの魂なんか、そういいもんじゃありゃんせん。
   まぁ、見るっていうなら、どうぞ見ていってくださいな
死神 ばかに気風のいいおばあちゃんだ。
老婆 あたしゃね、これでもね、若い時は情熱家で通ってたんだよ。
死神 へえ、どんなふうだったんです
老婆 そうさね、恋かね
死神 恋?
老婆 恋をしたよ、そりゃあたくさん。
   あ、いやいや、ウワキモノだったわけじゃあ、ないんだよ。

   両手いっぱいからこぼれだして、
   胸から熱いものがいっぱいあふれるみたいな恋を
   そうさね、ゆたかな恋をしていたんだ。
死神 ゆたかな恋。それって、どんなふうだったんです。
老婆 暑い夏の日のように焦がれる恋もあったねえ。
   それがすうっと引いて、夕立の中泣いたこともあった。
   それから、台風が過ぎるのをじいっと待っていたこともあったねえ
死神 焦がれて泣いて嵐の中へ、
   なんだ、ちっともしあわせでないじゃないか。
老婆 ばかお言いでないよ。いちばん楽しいところでないかい。
死神 楽しい。
老婆 そうさね。みのらぬ恋ほどたのしいものはないんだよ。
死神 相変わらず変な女だ
老婆 変な女とはなんだい。失礼な奴だね
死神 あはは。変わらないな
老婆 ったく。あいつにそっくりだよ。あんたのその笑い方
死神 あいつって誰だい
老婆 言っただろう、恋をしていたって。
死神 だからあいつって誰のことなんだい。
老婆 あいつは、あいつさ。私を置いて先にいってしまった
死神 「迎えに来たよ。」

語り 空に一瞬光が差したように見えました。
   老婆となった少女の前に、何十年も前にいなくなった彼が
   むかしの姿のまま立っているのでした。

老婆 私のほうがすっかり年上になってしまった。
   ほら、待たせすぎだよ。あれ、おかしいね。手をとれないよ
   あれ、おかしいねえ。そこに手があるのに。
   はて。どうして、私の手はこんなにしわくちゃなんだろうかね
   手が、とれないよ、あんたに、さわれないよ。

(切り替えて、娘が大人の女性になったかのような気づきの声へ、そしてだんだんと、演者自身の声へ)
教えてもらったのは、世界はすべてそのまんま在るのだということでした。
喪うことも出会うこともすべてがとてもちっぽけで
世界はわたしのために何一つ変わることなどなくて
それでもそのちっぽけな私ごと、いとしいのだということを、伝えたくて。
それを教えてくれたのは貴男であり、貴女であり、あなたでした。

子供 ねえ、おばあちゃんはどこへいったの?
娘  私が越える、あなたのいない日あなたが越える、わたしのいない日。

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