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タレント本とは?

『本業』(水道橋博士著)より、序章の抜粋

「タレント本とは?」

  今回から、この『日経エンタテインメント!』誌に『本と誠』と題し、タレント本への「愛」ある書評を「誠」を尽くして連載することにした。
  と書いている俺もまたタレントの一人である。
  本来、タレントにとって「余技」であるべき執筆活動ではあるが、言葉遊びをすればタレント本こそ、実は「本業」なのである──。

  さて、タレントはいかにして、何を動機にタレント本の著者と成り得るのか? この連載で追って解明していきたい。

  では、本題に入る前に、
「タレント本とは何か?」──。

  今回は「日経」風に、経済の観点で定義させていただく。

  俗にタレントは一般人より、植木等が歌うところの「♪気楽な稼業ときたもんだ~」と思われる一方で一般人にはありえ無い「有名税」を払うものだとされている。
  果たして、その「有名税」とは何か?


  具体的に挙げれば……。

 街を歩けば、あからさまに後ろ指差され、ひそひそと囁かれ、ぶしつけにカメラを向けられるのが「有名税」。
 素性も知れない輩に根も薬もない噂話を垂れ流されるのも、また「有名税」。                          
  いざ、事件ともなると世間の視線に晒され市中引き回しの刑になるのも、これまた「有名税」である。

  出演料をいただけることもなく、連日、大々的かつ一方的に報じられるスキャンダル報道などは「有名税」の最たるものである。
  この、度が過ぎる人権侵害にも「気にしない、気にしない!」と一休さんの如く冷静さを装いつつ「まぁ、それも有名税、有名税!」と慰めあうのが、芸能人の常なのである。

  さて。
 タレントと名乗った瞬間より源泉徴収される、この「有名税」──。
 そのシステムはタレントの地位がビッグであればあるほど累進課税されるものである。
  しかし、この一方的に搾取される「有名税」によって大衆に産み出された「偶像」と、本人がみんなにこう見て欲しいと願望する実像とのギャップが生じるのも、これまた当然のこと。
 そのギャップにこそ、タレント本出版のモチベーションがあるのではないか。

  そこで「有名税」として片づけられたスキャンダルに、自らペンを執ることにより必要経費控除の機会を与え、独り歩きしてしまったパブリック・イメージに還付請求を行う作業こそが「タレント本」なのではないだろうか。

  これは、一般のサラリーマンには無縁なことだが個人事業主が毎年、否が応でも手間隙かけて行う、税金の申告のようなものとも言える。

  よってタレント本とは「膨大で払いきれない有名税に対するタレント本人による青色申告書」であり、自ら世間から換算して欲しい自分への価値そのものなのだ。

  つまりタレントの『本業』とは、芸能人の「本分」であり芸人の「本寸法」と言いたいのである。


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         (単行本2005年)

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         (文庫版2008年)

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