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8.ハゲの名は。O倉T昭


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正月限定・『藝人春秋Diary』~よりぬきハカセさん企画~


「このハゲ――――――ッ!!」

 身の毛もよだつ強烈な怒声。
 多くの視聴者が釘付けになった、もしくはチャンネルを即座に変えた諸刃のワイドショーネタ。増長する自民党「魔の2回生」への鉄槌、メディアによるハゲヘイトの助長、その賛否両論は先月末からテレビと巷の話題を独占した。

 さて〝世界の北野〟として天下に冠たるビートたけしが今も十八番とするネタがある。それは何を隠そう「カツラ」だ。
 本来、漫才師・ツービートのネタの基本は「王様は裸だ!」的な偽善に切り込む少年の叫びだ。
 毒ガス漫才、本音漫才と言われたその悪ガキ・スピリットはフランスから勲章が授与されようとベネチアで映画賞を獲ろうと今も健在で、カツラへの異常な偏愛をもはや隠そうともしない。

 我々、浅草キッドも若手時代に、この師匠の意気を勝手に汲んで「カツラ・ガンガン・バラす」、その頭の文字のアルファベットを並べて、通称「カツラKGB」を極秘裏に結成して芸能界に潜伏した。
 ボク自身も番組で作ってもらった高級カツラを潜入取材と称して着用し、楽屋で堂々と着脱していると、想定内外のカツラ芸能人たちからバチバチとアイコンタクトを投げ掛けられ、この〝鮎の友釣り〟スパイ大作戦は見事な釣果を納めた。

 その釣果を披露する際は決まって実名を避けイニシャルと暗喩でネタにする、師弟相伝の〝作法〟を貫いて来たが、最近では〝ド直球〟のバレバレ系が、大手を振る異例の事態になってきた。

 まずは2015年、Tランプ米大統領候補が支援者に自らの髪の毛を引っ張らせ、カツラ疑惑を払拭する前代未聞の会見を決行した。
 一方、日本の芸能界でもレイザーラモンRGがH川たかしの〝レゴ・ブロック〟な髪型をマネして世間を驚かせた。これにはH川サイドが怒り心頭だと噂されたが、最終的にはテレビ番組での共演が実現。
 RGは「こぶしたかし」を名乗ることで、あの髪型が公認された。
 そして、極めつけの事件が、6月末の豊田真由子衆議院議員による車内暴言事件報道だったわけだが、その影で文春砲改め〝疑惑のバリカン〟は唸りを上げ、大物有名人の逢瀬に刈り込んでいった。

 2017年6月22日――。
『週刊文春』による独占スクープ「O倉智昭〝古希の恋〟人妻美人記者と週1密会!」
 中高年の星、人気司会者の古稀ロマンスを告げる一文は、中吊り広告の中でピカピカと光輝いていた。
 この号で、さらに驚きだったのは、週刊文春の長期連載「家の履歴書」が奇しくも 〝浪花のモーツァルト〟Kダ・タロー氏であったというカブりっぷりだ。『週刊文春』編集部の欲張りな二毛作農法にボクは脱帽であった。

 もちろん、ボクはこの日の朝8時、フジテレビ『とくダネ!』の第一声をかぶりつきで見た。
 アップになった司会者は冒頭「ワタクシ、文春砲にマタ撃たれました!」とシャッポを脱いだ。
 確かにこれは〝アタマ〟ではなく〝マタ〟案件なのだ。
「密会は、事務所がミニシアターになっているので、2人で映画を観ていました。去年、膀胱がんをやりましたから、そういうことはご無沙汰ですから」と釈明した。
 無論、「李下に冠を正さず」なのだが、我々カツラKGBとしてはO倉智昭と密会していたこの人妻美人記者は、他組織による潜入捜査官説、あるいは2人の密会があまりに定期的すぎるため、メーカーのメンテナンス部訪問説などヅラヅラと憶測を並べていた。
 今回〝マタ〟と言うように、実際、O倉は文春砲に再三被弾しているのだ。この機に、ボクが編集部で調べたところ1990年から2017年まで計28回もO倉智昭は『週刊文春』の記事になっている。

その半分はヅラ疑惑だ。2000年代以降だけでもこれほどある――。

●2004年5月20日号
「訊いちゃいけない『素朴な疑問』K布雅之・I田純一・O倉智昭〝ヅラ疑惑芸能人〟を直撃」

●2013年11月28日号 
「B東英二〝植毛会見〟で『とくダネ!』O倉が注目されたウラ事情」 

●2014年7月10日号
「『脱毛しなさそう』あの〝疑惑の男〟に菊川怜が爆弾発言」

 ここまで下世話にも「文春」のヅラいじりは恒例になっているのだ。
いや、ズラだけに上世話か。
 ちなみに、O倉智昭の前回の文春砲被弾は昨年9月のこと。
「覚せい剤逮捕 俳優はO倉智昭が『資金源』だった」というスクープを2週に渡って砲撃された。
〝レンブラントの生まれ変わり〟を自称していた肖像画家兼俳優の庄司哲郎が覚醒剤所持で逮捕。その古典技法の画力を長年買いカブり、小遣いを与え続け、彼から〝兄貴〟と呼ばれたのがO倉だったのだ。

 文春報道を受けて怒髪天を衝き、頭を抱えたO倉は自らの番組で「自身のガン告知より悲しかった」と目に涙を浮かべ頭を下げた。
 余計なお世話ではあるが、この時もボクはMXテレビ『バラ色ダンディ』でネタにさせてもらった。
「今回の犯人の場合、覚せい剤でも〝白い粉〟ではなく〝黒い粉〟の可能性があります。しかも、ブツの吸引方法は〝あぶり〟ではなく〝かぶり〟の可能性もあります」

 古稀になってもO倉智昭にやすらぎは訪れない……。そんな不倫報道をやり過ごしたと思った矢先――。
今度は『週刊文春』のライバル誌である『週刊新潮』が、例の豊田真由子代議士の暴行・暴言報道を裏付けるICレコーダーの音声データを公開した。
もはや「前門の文春砲、後門の新潮波」だ。
 連日の〝毛(もう)〟攻撃であった。
 果たして、O倉の冠番組『とくダネ!』で、その音声はオンエアされるのか? 朝からテレビにカブりついた。
 注目の第一声は――、
「怜ちゃんは、お肉を食べる時は、よく焼いて食べるほうですか?」
トップニュースは「焼肉店で32人食中毒」の話題だった。しかし、ガッカリした我々の意表を突くように、次のトピックで豊田真由子議員の「このハゲ――ッ!」を17分に渡って長々と映像と音声で流し続けた。
 まさに頭隠して尻隠さず。
 放送中、スタジオのMC陣はダンマリを決め込み、ゲストを含め皆がほっかむりを被った。針のむしろ、ならぬ〝ハゲのむしろ〟状態だったことだろう。この時間こそ「庇(ひさし)を貸して母屋を取られる」と喩えられようか。

 そして、スタジオにトークパートが降りてくると極めて冷静に、
「(高速道路を逆走するような)危険な運転をしたから罵詈雑言を浴びせたの?」とO倉は全マスコミ総攻撃論調の中、唯一、中立的な視座で諌めるように口を開いた。
 それは、いかにもベテランMCらしい〝ツルのひと声〟であった。

【その後のはなし】
 豊田真由子は、元秘書に対する暴言・暴行の責任を取り、自民党を離党。年末には第18回ビートたけしのエンターテインメント賞話題賞を受賞したが、恒例の本人出席はなかった。
 2017年10月の総選挙に無所属で出馬したが自民党議員に敗れて落選。その後は穏やかな日々を送っていた。
 しかし、2020年3月9日、フジテレビ「バイキング」に突如、ゲストコメンテーターとして、しれっと登場し、お茶の間を大いにザワつかせた。
このテレビ出演は、彼女が官僚時代の2009年に新型インフルエンザの担当外交官を務めた経験から、感染症の専門家としてコロナ問題の解説を行ったわけだが、『週刊新潮』で2017年に報じられたパワハライメージから一転、知識と経験に裏打ちされた論理的な解説で視聴者からも好評を得ていた。

 その豊田さんと昨年、思わぬところで出会った。
2020年9月28日――。
 日本テレビで加藤浩次と指原莉乃がMCを務めるクイズ番組『つぶし合いクイズ!悪意の矢』の生放送のスタジオ。
 参加者たちが、ほかの参加者たちをクイズを使って戦略的に“抹殺”する“つぶし合いクイズバトルロワイヤル”という趣旨。
 解答者には旬のタレントが揃っていた。
 ボクはあらかじめキャスティングされていたが二転三転して、本番前日に、急遽、豊田真由子、原田龍二、宮崎謙介、いしだ壱成などのいかにも脛に傷がありそうな人たちが加わった。役どころとしては斬られ役であろう。
 しかしながら、当日に「このハゲーーーー!」は絶対禁句と知らされ、それは彼女の番組出演の条件であったらしい。
 本番直前に豊田さんに会うと丁寧にご挨拶され、ボクも週刊文春の原稿について侘びたが、覚えてもいらっしゃられなかった。
 本番、豊田さんを真ん中に、いしだ壱成、ナダルの薄髪人が囲んで座っていた。そこを見逃さず司会の加藤浩次も巧みにその並びをイジる。
 ボクも豊田さんと向き合う瞬間があったが――。
「豊田さんと言えば「このハゲーーー!!!」問題がありましたが……」と語りつつも「このハゲーーー!」の部分は声を出さないまま唇の動きだけで表現した。
 しかし、出演者は皆、それが何を語っているかはわかるので大いに受けた。
 つまりは、いくらイニシャルにしても、何かを隠そうとしてもテレビ視聴者にはお見通しなのだ。

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