39・大竹まこと と 大滝詠一と。
2018年2月1日──。
大竹まことは自身が長期レギュラー番組を持つラジオ局・文化放送で娘の不祥事を受けて記者会見を開き謝罪。その後、そのまま番組の生放送に出演した。
ラジオパーソナリティが個人的な事情でアナを開けることは過去にも多々あった。1986年に起きたビートたけしのフライデー襲撃事件後、ニッポン放送『オールナイトニッポン』の代打として空白期間3ヶ月を埋めたのはまさに大竹まことであり、たけしの復帰と共に風のように去ったことは熱烈なリスナーであったボクには今も忘れがたい。
また、自身の長き芸能人生で何度も地獄のような窮地に陥っているが決して逃げ隠れせず常に世に身を晒し、そして必ず帰還を果たしている。
その2週間前の1月16日──。
ボクは『大竹まこと ゴールデンラジオ!』に5年ぶりに出演するため、浜松町の文化放送を訪れた。
9Fのスタジオ横のテーブルに着席し、番組構成作家の大村綾人と打ち合わせに入った。トークテーマは上梓したばかりの『藝人春秋2』について。
一通りの確認を終えると初対面だとばかり思っていた大村が「憶えてないと思いますが……ボク、昨年末に燃え殻くんと一緒に居まして……」
と切り出した。
もちろん、その夜は憶えていた。
昨年12月1日、MXテレビで生放送を終え、共演者だったオフィス北野の後輩・プチ鹿島を誘って四谷三丁目にある行きつけのスナック「アーバン」に顔を出した。
『藝人春秋2』のなかでも描いたが、ここは数多の出会いが生まれる人間交差店だ。
「行ったことないの? じゃあ一杯だけ行く?」と軽い気持ちで誘い、店の扉を開けると……なんと!
カウンター席に岡村靖幸と松尾スズキがいた。
「なんで、ここに?」と驚き、横に目を逸らすとボクの文春の担当編集者・目崎敬三もカウンターの端に居て「さっき、のん(能年玲奈)に会いました」と囁いてくる。
聞けば、彼はアニメ映画『この世界の片隅に』に与えられた菊池寛賞の授賞式に出席してきたばかりらしい。
ボクは『藝人春秋2』の帯文を彼女に書いてもらいながら、まだ一度も会っていないのに……。
夜が更け、唐突に岡村と松尾の画力対決が始まった。
ふたりとも漫画家志望だったので絵が上手い。
記憶スケッチアカデミー対決で、どちらの「がきデカ」のこまわり君が味があるかなど数々の対決が実現したのだ。
ボクが勝負をジャッジしていたら、後ろの席から『闇金ウシジマくん』の真鍋昌平先生が挨拶をして下さった。
その後、松尾スズキが帰ると、入れ替わるように宮藤官九郎が来店。
ボクが此処に居ることを知らず驚いていた。
しばし、大河ドラマ『いだてん』を巡って歓談。
松尾も宮藤も、一昨日、NHKの出演者発表会見でビートたけしと会ったばかりだった。
閉店間際、今度は二村ヒトシ、燃え殻の一行が来店。
そのまま一緒に店を出て、開店祝いの花に囲まれた近所のバーへ。
ここで立ち話のまま朝まで過ごした。
宵の酒と出会いに、皆が“酔い殻”になった。
その夜のことを大村と話していた時、大竹まことが生放送のスタジオを出て煙草を一服つけ喫煙室を出たところでボクに気付いた。
「今日はよろしく!」と手を振り真向かいに座った。
御年68歳、白髪の長身。眼鏡を外すと眼光が険し過ぎる。
「いや『藝人春秋2』、よく書いたねー。失礼ながら厚いからまだ最後まで読めてないんだけど……」
「実は、5年前にも一作目を宣伝させてもらいました。あの時は、大竹さんが、あまり気が乗らない様子でした」
「そうだっけ?」
「芸人の話を書く時の流儀が、俺とは違うってことで」
「そんなこと言ったっけ?」
「でも、その後、『週刊文春』の連載で橋下徹を取り上げた時には、放送(2013年5月16日)で大絶賛していただいて。あれは本当に、その後の文章の仕事の励みになりました」
「よく憶えているねー」
「記憶じゃないんです。記録です。音源まで取っています」
「ところで上巻の『ハカセより愛をこめて』の最後の章だけど」
「大瀧詠一さんの福生のご自宅を高田文夫先生に連れられて行った時の話ですね」
「あれ、あまりにも描写が詳しくて驚いたんだけど……大瀧詠一のことだったら俺にも話があるんだよ」
「ご交流があったんですね」
「俺のマネージャーで9年間シティボーイズの担当を務めた坂口って奴がいて。彼は音楽も大好きなんだけど実は大瀧さんの娘さんと結婚したんだよ」
‹ ん? まてよ、この話、聞き覚えがある! ぞ ›
脳の奥底に澱む記憶を探る──。
小林信彦先生が、この『ゴールデンラジオ』に出た時だ!
『週刊文春』長寿連載「本音を申せば」の単行本『「あまちゃん」はなぜ面白かったか?』の宣伝で出演されていた時に確かに、この逸話を話されていた……。
と思い出したが本音を申す間もなく、
「だから、俺は俺で大瀧さんの話をしようかなって思っているけど……お、時間だな。それではよろしく!」
そう言い放ち、大竹はせわしなくのブースの中へ消えていった。
そして、しばらくして「大竹メインディッシュ」のコーナーが始まった。
生放送は一気に時間が流れる。
「五十過ぎて、浅草キッドですからね。どこがキッドなんだって!」
「俺もシティボーイズだから。そこは他人のことは言えない!」
などと言いながら時間いっぱいに。
ブースを出る時、ボクは忘れ物に気がついた。
「あ、大竹さん、大瀧さんの話をボクから振るの忘れていました」
「いいよ、いいよ!また今度に!」
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