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怪物 みなより ⑴

とりあえずふたりを幸せにしたいがための
完全妄想です。二次創作です。

scene1:  でも、変わったね 

僕たちの前にもうバリケードはなかった。

「なんで……?」

「ふふ。まぁ、いいじゃんいこッ!」

「うん!」

鉄橋を走る。
思ったより高い

「うわっあぶないよ!……より、くん!!」

「え?」
依里はびっくりして、振り返る。

「まぁ、何も変わってなくても、
僕は変わりたいなって……。」

「そっか。じゃあ僕も。
……あと、くんはいらないよ。」

依里はにこっとしていうから、僕は安心する。

「うん。わかった。」

湊は草むらに腰掛けると、となりに依里も座る。
座ったとき、すこし身体のどこかを庇うように身を捩り座る依里をみて、ちゃんと言わないとって思う。

「考えたんだけど。」

「何?」

「依里がお父さんにお仕置きされてること。」

「あぁ、うん。」

「もうおばあちゃんところ行くんだろ?」

「たぶんね。」

「じゃあ言おうよ。うちのお母さんに。」

「いいよ、迷惑かけちゃうもん。」

「まぁ、だから、お父さんが依里を連れ戻そうとしてもできないようにさ、ほんとは二人で遠くに行きたかったんだけどさ、いまは僕のうちに来てよ。」

たしかに難しいかもしれない。
でも僕は依里を連れ出せたから。

「でも。」

「お仕置きって言うけどさ、虐待だよ。」

「湊のお母さんに言ったらみなとまで豚の脳って言われるかもよ。」

「僕は豚の脳でもいいよ。それ、ずっと考えてたんだけど、豚の脳でも人間だよ。レントゲンではバレない。」

「そうなの?そっか人間ならいっか。」

「それに豚って意外ときれい好きっていうし。ブヒ」 
今度は湊が豚の鳴き声を真似た。
ははっ
依里の天使のような笑い声に湊の胸は高鳴る。

「まぁ、いまこんな泥だらけだけど……。」
自分も汚れていたが、依里の顔にも泥がついている。きっと自分もだろう。
泥がついていても、依里は愛くるしい顔をしていたし、何よりそばに居られれば幸せだった。

「豚って基本こんなかんじじゃない?」
飄々と言う依里は幼いけどどこか強さを感じた。

「だね。
それに、泥だらけでも何も変わらないよ。」

「え?」

「よりはよりだよ。」

「そうだね。みなとはみなとだ。」

湊は勇気を持って、横にいる依里の肩に恐る恐る腕を回す。
こないだ突き放してしまったことを悔やんでいると伝えたくて。

湊の右の首元に依里の顔が近づき、
「みなと……」
と僕を呼ぶ。
あのときとおんなじだって思った。
その瞬間、湊の身体はまた熱を帯び、今度は身体を止められず、依里の身体を草原に押し倒して、依里の顔をみると、眩しそうに目を細めている。

「……いい?」

「あのとき、教室で止めてくれてありがとう。」

「え?あぁ。えのぐ、ごめん。
……あれは僕が嫌だったから。」

「うん。僕も。」

「よりと、したかった。」

「うん。僕もみなととしたい。」

湊はその言葉に安心し、依里に顔を近づけ、唇を合わせた。
これまでにないくらい幸せの気持ちがふつふつとした。

「好きだよ。」

「うん。僕も好きだよ。」

ふふ。お互いに顔を見合わせて笑い合う。

「うちに帰ろう。」

「僕も気を遣わないで言うよ。痛いのはやだよって。」

「一緒にいるから。」

湊は依里の手をとり繋ぐ。

「大丈夫。うちのお母さんにちゃんと言う。先生に嘘ついたことも、虐待されてるよりを放っておけないってことも。」
さっきも言ったが、気合いを入れるためにもう一度言った。

「無理しないでね。でもありがとう。」

「幸せって誰でもなれるものじゃないとしょーもないって校長先生が言ってた。」

「へぇ。校長先生が?」

「わかってもらえる人にだけ言おう。」

「そうだね、嘘ついてばっかじゃいけないよね。」

「学校で、うまくできなくてごめん。依里は僕に合わせてただろ。」

「僕はお仕置きされてるの言えなかった。」

「僕がそうなら言えないよ。少し前から気づいてたのにごめん。」

「わかって欲しかったから言ったんだ。お父さんに。みなとが好きだって。」

「だからこんなにされたんだろ。」
改めて依里をみると、みえないところにおさまないくらい腕にもあざがある。

「お母さんが出て行って、お父さんはもっと無理だった。」

「わかるよ。お母さんに普通の家庭を持ってって言われたとき、声が出なかった。」

「まぁ、そうだよね。」

「でも、行こう。」

「うん。」

───────

ふたりで来た道を戻るようにトンネルを通ろうと思ったが、トンネルの手前にきて、いつもより水かさがあることに気づく。
上をみると、昨日二人で身を寄せた宇宙基地は倒れて土砂が被っていた。

「早いうちに脱出して命拾いしたね。」
と依里は言って、
「そうだね。」
と湊が言った。

「そんなに深くはないかな。」
依里はトンネルに出来た川をみて、言う。

「手を繋いでいこう。」

ふたりがトンネルの川を手を繋いで歩き出したとき、向こうから大人が数人やってきた。

「おおーい!生きてたんだ!今行く!」
災害の救護の人がやってきて湊はホッとするが、
依里はその消防士みたいな格好をした人たちをみて、「ごめんなさい。」と言った。

湊はすぐにギュッと強く手を握る。
「大丈夫だよ。」

「でも。」

「もっとゆっくり考えよう。
まずはお父さんだよ。」

「そっか。そうだよね。」

ふたりはそのまま救護された。
名前を聞かれて、親を呼ばれるという場面になって、湊はすんなりと言ったが、依里は躊躇った。

「星川くんは僕の家に連れて行きます。」
と湊は言った。

「どうして?でも親御さんに連絡しないと。」

「依里は、」と湊が言いかけたとき、依里が口を開いた。
「僕は、その、」
と言葉を濁らせたあと、そろりと自分のTシャツをめくった。

「お父さんに、されました。
ずっとされてました。」

「えっ。あ、このアザ……」
後ろで大人たちがざわつきはじめ、すでに待機していたお医者さんがすぐに呼ばれた。

念のため救急車を呼んで、二人で乗って病院に運ばれた。早織が病院にかけつけて、湊は抱きしめられたが、
「ごめんなさい。」
と言った。

「生きててよかった。」

湊は母親の手を引いて、依里のところへ連れて行った。

「わかってる。星川くんも助かったのね?」

「なんで。」

「保利先生がね、来て、一緒に電車のところまで行ったの。あなたのポンチョを見つけたから。」

湊は保利の名前が出てドキリとした。

「先生、湊は星川くんといるってわかってた。
作文で気づいて私に教えてくれた。」

「先生、気づいたんだ。」

依里の病室はまだ身体の傷を確認しているのか、入らせてもらえなかったが、湊を診てくれる医師の元へ早織と行き、依里のことを話した。

「僕は星川くんの首にアザがあるのを、少し前から気づいていて、でもどうにもできなくて、でも昨日、連絡しても返信がなくて、心配で家に行ったら、お風呂場にぐったりした星川くんがいて。だからお父さんにみつかるのがこわくて、星川くんを家から連れ出しました。」

「助けたかったんだね。でもどうして、あそこに?」

「その前にあそこにお菓子を隠してて。それを食べたくて行きました。」

「そうだったんだね。でも危ないってわかってたよね?」

「ごめんなさい。」

「運がよかったんだよ。土砂に巻き込まれてたら死んでたかもしれないよ。」

「あのときは……」

「あ、お母さん、一度席を外してもらえますか。」
医師は早織にそう言うと、
「えっなんで?」と早織は不満げに言ったが、「これからは少しカウンセリングに入ります。」と医師はそう告げた。
早織は渋々待合へ行って、先生は改めて湊に質問した。

「二人で死のうとしたの?」

「……そこまでは考えてないけど。ビックランチかなって。依里が教えてくれたの、時間が戻るって。」

「え。あぁ、それが起こると思ったのか。
でも自分の家へ連れて行けばよかったじゃない?」

「……それは……お母さんをかなしませるから。」

「星川くんのことが好きなんだね。」

「依里のお父さんにももっとお仕置きされちゃうから。」
湊はだんだん涙を止められなくなってしまう。

「君たちのこと知られたの?」

湊は、ごめんなさい。と言いながら声をあげて泣いた。

「少なくとも、誰も君たちを責めたりしちゃいけない。」

「お母さんに嫌われる。」

「大丈夫。お母さんは一生懸命君を育ててくれてる。ちゃんとわかってもらおう。」

「僕は依里と家族になれる?」

「そうなれるように頑張ろう。でもまだ君たちは大人じゃない。その気持ちを成人するまで大切に育てよう。」

「成人したらいいの。」

「まだ学生かもしれない。でも成人すれば、自分のことをある程度決められるし、自分のこともうすこしハッキリわかってくると思うんだ。」

「わかった。」

「しばらくカウンセリングするから、定期的に先生とお話しよう。」

「はい。」

湊は先生からお母さんに心のうちを話すのは今日じゃなくてもいいと言い、でも依里が心配だし、家に呼びたいと訴えるが、先生は首を振った。

「星川くんはまだ身体の検査もカウンセリングもあるし、見た限り治療も必要だと思う。今回のことが正式に虐待となれば、しばらく星川くんはお父さんとの接触は禁止になる。星川くんはシェルターという身を守ってくれる施設に行くから安心して。」

「手紙は届けてもらえますか。」

「わかった。掛け合ってみよう。」


────────


◯補足◯
カウンセリングとか全く受けたことないんで、完全な想像です。
ふたりをわかってあげて、繋いでいてくれる大人がいてくれたらいいなって思っただけです。
ノベライズもシナリオブックも読んでますが、迎えにくるくだりとか、忠実にしてないです。
個人的に依里と校長先生は疑われてるだけなんじゃないかと思ってもいて。(そう思いたい)
あのあとの二人をハピエンで何通りも考えたい今日この頃です。

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