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秋の高尾山(後編)

 
 
 
 高尾山のケーブルカーを降りるとすぐ、

 ビアマウントの入り口があります。
 
 ここに来たくて、ふらりと高尾山に向かったのでした。
  

 今年の営業は、10月の15日まで。間もなくです。

 また、こんな企画も。ハーゲンダッツの期間限定メニュー。
 
 

 入り口側の階段を上がると料金所があり、代金と引き換えにチケットを渡されます。
 そのチケットに時間が記載されていて、入場後2時間の、飲み放題の食べ放題。
 
 
 席は自由で、見晴らしのいいところを探します。
 
 神馬高原方面がよく見える館外の席に一旦決めたものの、10月の午後は肌寒く、建物内に入りました。
 
 建物内の席からは、都心方面が見渡せます。


 ビアマウントは、高尾山の山頂までの行程の3分の1ほどのところに位置します。それでもかなりの高度で、見晴らしはすばらしい。眼下に首都の街並みが広がります。
 

 ずっと向こうに、高層ビル群が。
 
 こうして見おろすと、八王子から都心までわずかな距離に感じます。
 
 

 料理の品数は多く、ちょっとずつ食べても、とてもすべての品を食べられません。
 ビアマウントなので、ビールの種類も豊富です。一番搾り、黒ラベル、スーパードライなど定番から、プレミアムモルツ、マルエフ黒、ハイネケンにハートランド。
 
 もちろん、他のアルコール類も揃っています。
 
 食べては、景色を眺め、飲んでは、景色を眺め。
 

 電車が見えないので、どの方角がどの街なのか、よく分かりません。じっとじっと見つめ、高幡不動の赤い五重の塔を見つけて、京王線のラインがだいたい分かり、そこから中央線の延びる方角を割り出します。
 
 

 曇っているところ、サッと日差しが出ます。少し霞んだ日差しは、一面の青空とはちがった爽やかさを感じさせます。ずっと隠していた宝物を、チラッと見せるかのような。
 

 右の赤い建物のところを、国道16号が通っています。バイパスも、さほど離れていないと思いますが、見えません。
 

 点々と、緑の残る多摩地域。
 
 2時間、ずっと眺めていられそう。飽きません。
 

 アイスを食べるのを、忘れそう。気付いてよかった。
 パフェの形になっていました。
 

 そして2杯目も。何杯食べても飲んでも、追加料金なしです。
 
 日が傾き、景色がだんだんと褪せていきます。その経過をじっと見つめるのも、悪くはありません。むしろ、至福の時間です。
 灯りが、ところどころにともって、きらきらと光ります。日が沈むにつれ、その光度が増していきます。
 
 それでも、時間制限もあり、食器をかたしてビアマウントをあとにしました。
 帰りの階段でチケットを見せ、時間を確認されたあと、お見送りされました。あの景色には、追加料金を払ってもいいくらいでした。
 
 
 ケーブルカーを待つ間、陣馬方面を眺めます。
 都心とはちがって、山深い一帯は闇に包まれるのが早い。「夕焼け小焼けの歌」が生まれた土地ですが、この日、夕焼けは空にありませんでした。
 
 ケーブルカーの、今度は先頭に。左隣に、運転士さんがいます。
  

 すぐ、トンネルに入ります。
 
 先が闇になったトンネルは、ずっとずっと続いていくかのよう。
 
 

 トンネルを出ると、今度は線路を照らす街灯が一直線に並びます。
 
 チェーホフの『ともしび』という小説が、頭に浮かびます。1888年の小説で、今から100年以上前。
 
 鉄道建設の現場を、夜、男たちが話をしながら歩くという小説です。こうやって、線路を照らす灯りが点々としている中を、てくてくと。
 
 
 先ほどの山からの俯瞰も贅沢ですが、これもまた贅沢。こうやって先頭車輛から、闇に浮かび上がる一直線のレールを見られるところは、なかなかないものです。
 
 ケーブルカーは、ゆっくりゆっくり進みます。
 そして行きと同じようにすれちがうのですが、不思議なことに、右側通行で行き交いました。
 つまり、行きと帰りが同じ側だったのです。
 どういう仕組みになっているのか……。
 
 ケーブルカーは2つめのトンネルに入り、出たところで到着。6分間の贅沢な車窓も終了です。最も、1分くらいにしか感じられませんでしたが。
 
 高尾山口駅までの、通りに並ぶ土産屋はすべて閉まっていて、京王線もがらがら。遠方の観光地に来たかのような錯覚を受けます。
 
 高尾でJRに乗り換え、八王子でどっと人が乗り込んできて、ここで急に日常に引き戻されたのでした。
 
(おわり)

書き物が好きな人間なので、リアクションはどれも捻ったお礼文ですが、本心は素直にうれしいです。具体的に頂き物がある「サポート」だけは真面目に書こうと思いましたが、すみません、やはり捻ってあります。でも本心は、心から感謝しています。