この夢、良い夢?

亡くなった人の夢を見るのは、良い事がある前兆だと言われたような気がする。誰に言われたか忘れてしまったし、身近に亡くなった人もいなかったし、だいたい夢の内容など、覚えてもいない。
19歳の私だった。
この頃、戸籍上では父親でない実の父と母は、家庭裁判所で争っていた。本妻とは、別れることなく、帰る家は私達の家で、母の持ち家を一部改装し、会社を経営していた。従業員も数名雇い、自家用車の他に3台も営業車を持っていた。やり手の小洒落た紳士だったので、父の近くには、母以外にも女性が数人いた。車にラブレターが貼り付けてあることもあった。昭和50年代のことだ。今なら笑える。仕事はできるが、とにかく遊ぶことも同じくらいするので、いつの間にかヤクザに追っかけられるくらい借金をかかえて逃げた。もちろん会社は倒産。
経営者はいないし、営業もしてないし、家の持ち主は、母なので、私が22歳の時引っ越した。しかし、父は、母に営業権があったのに家を売ったと申し立てたのだ。
裁判で、父の言い分は、通らず終わったが、腹いせに灯油入りのビール瓶を私達の家に投げ込んできて、警察に連れていかれた。
それから、10年は、父とは会うことはなかった。
最悪の父ではあったが、私は産まれた時から溺愛されていた。社名も私の名前にするほどだった。元はといえば母の家に入り浸るようになったのは私が原因だ。
本妻には、男の子が1人いたが、父は、女の子が欲しかったのだ。
その父が倒れ、私に会いたいと言ってると父の弟が訪ねてきたが、あっさり断わった。
33歳に後6日でなろうとしてる3月3日の夜更け、母が帰宅した私に寝床から気がついて「お父さん死んだんやって」と言った。私は、びっくりすることもなく、聞いたことしかない有名人が死んだ報告をうけたように「ふ〜ん」と答えて寝た。
それだけだったし、父はそんなもんだったのだ。
それから数年が過ぎ、いつまでも独身の私は、夢を見た。
覚えている。
私は、忘れ物をしたのだ。家に取りに帰らなくてはならないが、会社に遅れてしまう。家に電話すると父が出た。夢なんで、なんで?とも思わない。「お父さん、忘れ物したよ。持ってきて」って頼む。父を待つ。でも、なかなか来ないからまた電話した。「今どこ?」そしたら父が
「すぐ後ろにいるよ」
と答えて、私が
振り向こうとした時、
目が覚めた。

父は、今も私を溺愛しているようだ。