孤高の猫

うちには飼い主はおらん。

人間の家には住みとうないねん。

ずっと、1匹で生きてく。

そう決めてん。

薄茶色の毛並み。

陽にあたったら光る。ツルツル。

顔もわりかし、かわいいゆわれる。

人間の子供が

日向ぼっこして、

うとうとしてたら、

撫でようとしよる。

さわらんといて。

汚れるから。

うちは、誰とも仲良くせんよ。

そんなふうに生きてきたん。

ある日。

真っ黒の

超足長で目キラッとしたイケメン猫をみかけてん。

吸い寄せられるように、

着いてったら、

飼い猫やった。

ふん、飼い猫か。

そうおもたんや。

ほんまに初めは、そうおもたん。

「くぅ、くぅちゃ〜ん」

って呼ばれとった。

ダサッ。

けど、そいつ、

クールな顔して

玄関入って、

普通の飼い猫みたいに飼い主に

スリスリせんの。

犬と仲良うしとったわ。

目離れた、おばちゃん。

なんかしらんけど、どきどきしてな。

毎日、毎日、会いとうなって。

毎日、毎日、外で出てくるの待つの日課になってしもうた。

落ちた。

恋か。

発情か。

ダサい名前のアイツに。

そやけど、アイツ冷たいねん。

気ついとるくせに

無視。

なんで?

メスだよ。メス!

興味あるやろ。

ないんかい!

身体擦り寄せてんのに、

発情しやんと、

ふぅ〜ッて威嚇。

あきらめへん。

毎日、毎日通ってやった。

暑い日も、寒い日も。

外で待った。

いつの間にか、

人間に

「にゃんこさん」

ダサダサの名前で呼ばれるようになってしもた。

でも、うちは飼い猫にはならへん!

と決めとるから

家には入らへん。

ご飯はいただくけど。

おばちゃん犬が、お婆ちゃん犬になりよって、

散歩も行けんと寝たきりになった。

アイツは、黒い顔がさらに黒くなったみたいな

暗い顔してる事が多なった。

あの朝もうちは、

待っとったんよ。

出てくるんを。

でもな、

待っても、待っても

出てこんかった。

おかしいなおもてたら、

お婆ちゃん犬、死んでしもうたみたい。

人間が泣いとった。

アイツは、出て行ったきり、

帰ってきいひん。

人間が泣いとった。

うちも泣いとった。

でもな、

帰ってくると信じてる。

せやし、待つねん。

決めてん。

暑い日も寒い日も雨でも、雪でも待つねん。

決めてん。

帰ってくるとおもてるから。

死ぬまで待つねん。

そう、決めてん。

はよ、帰ってきてや。

にゃんこさんは、最後まで飼い猫にはなりませんでした。

毎日、玄関のブロックの上や、ベランダで寝てました。

暑い日も寒い日も。

最後は、老猫になって

毛並みも湿ったようになって

死んでしまいました。