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森村誠一シリーズ『人間の証明』論序説

岸部シローが亡くなった。
彼を偲ぶときに見るべき作品は、1978年、森村誠一シリーズの第3弾として放映された『人間の証明』であると断言する。

『人間の証明』というと、とりあえず思い起こすのは「母さん、僕のあの帽子…」のコピーとともに大ヒットした角川映画版かもしれないが、同じ角川春樹事務所企画によるテレビ版は、映画版より遥かに…もっと言えば原作をも凌駕する名作として、日本テレビドラマ史上に輝くとてつもない大傑作である。

1978年テレビ版は、全13話と映画に比べて過剰なくらい長尺であるが、早坂暁の脚本は、それを逆手にとって、原作を解体・再構築し、「もう一つの人間の証明」とでも言うべき物語を織り上げた。監督の恩地日出夫はそれを、傑作『戦後最大の誘拐 吉展ちゃん事件』でも用いたドキュメンタリータッチを駆使して、奥行き深い見応え満点のドラマに仕上げた。

『人間の証明』のストーリーは、森村誠一ミステリーに典型的な「並行する別々のラインが、ラストに向けて合流していく」というスタイルである。黒人刺殺事件を追う棟居刑事と捜査一課、郡陽平・八杉恭子の虚飾に満ちた家庭劇、失踪した妻の行方を捜索する小山田。(ニューヨーク市警ケン・シュフタンのラインは大胆にも全て割愛されている)
その小山田を演じたのが岸部シローである。

小山田は、妻・文枝(篠ひろ子)の失踪を追ううちに、妻の不倫相手であった新見(中丸忠雄)と出会う。小山田は新見に対して激しく怒るが、文枝を探し出したいという共通の意思によって休戦し、協力しながら捜索を続ける。

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調べれば調べるほど文枝生存の希望は失われていくが、それでも真相に辿りつこうとする2人のホモソーシャル感は、メインのジョニー殺しのラインに負けないくらい強烈なドラマ性を帯びている。岸部シローの、よれよれのコートに身を包んだ長身のひょろっとした佇まいは、それだけで彼のキャラクターと運命を察するのに十分である。誰がキャスティングしたのか知らないが、このドラマは岸部シローに限らず、一度見たら他には考えられないような絶妙な役者陣によって構成されている。

戦争体験に屈折した棟居刑事を演じる林隆三。
戦後のどさくさに地位と財を築きあげた郡陽平(山村聰)・八杉恭子(高峰三枝子)夫妻。
その息子・恭平(北公次)のマザコン馬鹿息子。その恋人・路子(高沢順子/映画版でも同じ役で出演)の蓮っ葉感。
そして原作以上に重要な存在として描かれる、仮面家族をナイーブすぎる視点でモノローグする陽子(岸本加世子)。
さらに、棟居の婚約者・典子(多岐川裕美)、インチキ臭さの塊であるダン安川(戸浦六宏)といった早坂脚本オリジナル・キャラクターたちの効果は絶大である。
他にも、隅々に至るまでまだまだいる。

そうした脚本、演出、キャスト、音楽、カメラワーク…と、ドラマ『人間の証明』で語れることは山ほどある。近々、それらを各話ごとに詳細に語っていこうと思っている。そのモチベーションを高めるためにも、岸部シロー追悼としての再放送がCS辺りで敢行されることを切に願う。

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