見出し画像

OUT OF THE BLACKの世界

2nd FULL ALBUM & MUSIC VIDEOリリースに向けたクラウドファンディングを実施中。
そのリターンの一つであるアルバム全曲解説ZINEの中から、OUT OF THE BLACKの対談を特別に公開。
----------------------------------------------

ここでは"OUT OF THE BLACK"の世界観をリリック、MUSIC VIDEOの面からボーカルNiiK、MVディレクター松田、そして2nd FULL ALBUM全曲のレコーディングを手掛けた山口氏(from CYANSEA)の3名を交えた対談形式で紐解いていく。

〜リリックについて〜

(NiiK)この曲を語るにあたってまず最初にリリックについて解説していこうと思います。
少し長くなるけど、、、
邦題をつけるとしたら「暗闇の向こうから」
今までで最もドゥーミーでヘヴィーなこの音像を聴いて、ボーカルとしても隅々までドス黒い歌にしたいという思いがありました。
結論から言うと、この曲のテーマは「死の誘惑」です。
この曲には沢山のインスピレーション元、オマージュがあります。
まず第一に繰り返されるこのメインフレーズ
"Rest in peace. Let's get it all done. Rest in peace. No more suffering."
これはデヴィッド・リンチ監督の『イレイザーヘッド』が元になっています。
本当にたまたまリリックを書く数日前に松田が「やばい映画があるから観ろ!」とこの作品を仕入れてきて、俺とBa.Kame、松田の3人で観ることになりました。
恥ずかしながらリンチの作品を観るのは初めてだったのですが、あまりにも衝撃を受けてしまって即リリックに反映させてもらいました。
細かいストーリーは省きますが、中でもラジエーターガールというキャラが印象的。
恐らく主人公の妄想上のキャラなのですが、度々ラジエーターの中を覗くとステージがあって、そこで女性が歌ったりしている。

(山口)ラジエーター、、、?

(NiiK)言葉だけじゃ意味わかんないよね笑 まあ観てもわかんないんやけど、、、
そのラジエーターガールが
"In heaven, everything is fine"
と繰り返し歌っているシーンがあって、これは恐らく主人公が死にたいと考えていることを示唆しているんじゃないかなと。
まさしく"OUT OF THE BLACK"という曲名にぴったりな表現だと思って、俺なりに描いたのが"Rest in peace〜"の一節なんです。
これを軸に、死にまつわる表現を盛り込んでいきました。少し前に俺のこの曲における至極パーソナルな内容を書いたnoteがあるのですが、「死」「希死念慮」というものは俺にとってとても大切なキーワードです。
そのこともあって今回はもっとストレートに自分のルーツに正直に歌を書こうと思いました。
結構色んな人に聞かれるのが嫌で言わないようにしていたのですが、DIR EN GREYというバンドには尋常じゃないほど影響を受けています。
maggot = 蛆虫というフレーズを度々使うのは実はDIRがルーツにあります。彼らもよく使うフレーズなんです。
この曲が終盤に向かっていくにつれて主人公がどんどん自分の手足を失っていって蛆虫として生まれ変わろうとする描写があるんですが、これは江戸川乱歩の『芋虫』という小説が元になっています。
そして
"I'm dreaming one day I grow wings"
「私はいつか羽が生えることを夢見てる」
というフレーズ。
蛆虫に羽が生えるということは要するに成虫の蝿になるということ。蝿は西洋美術の絵画において度々「死」の象徴として描かれます。
この主人公はまさしく「死」に向かっていってしまっているというラストなんですね。

(山口)ありがとうございます。リリックについて話してもらったんですが、歌として特別何か意識していたことはありますか?

(NiiK)それこそ歌の部分でもストレートに行ってみようという意識はあって。それに加えて隅々まで真っ黒な歌にしたかった。
だから他の曲より比較的抑揚が抑え目なんです。基本ローな質感で進んでいって、印象づけたいフレーズの時だけ感情的な歌い方にしています。

(山口)レコーディングの時に確かこの曲はバラードのイメージがあると話していたと思うんですが、ある意味しっとり歌っているような印象もありました。叫んではいるんですが笑

(NiiK)その感想は嬉しい笑 特に丁寧に歌い上げた感覚はありますね。

(山口) 最近のSUGGESTIONSはかなりアグレッシブで体が動くような曲が多かったと思うんですが、今回は打って変わってかなりドゥーミー。この曲のデモを初めて聴いた時どう思いましたか?

(NiiK)特に驚きとかはなかったですね。
俺もKazukiも飽き性なところがあって、根っこの部分はブレないようにしつつも割とその時々にハマっているもの、やりたいものから作曲しているのでデモの段階では割といつも曲調はバラバラなんです。この曲はもろにBLACK TONGUEの影響が表れています。デスコアというジャンルは実は普段あまり好まないんですけど 、BLACK TONGUEだけは死ぬほど聴いてます。我々の一つのルーツでもあって、コロナ禍に一緒に"SECOND DEATH"という曲のカバーもあげましたね。SUGGESTIONSで初めてMVを作った"CONDEMNED"という曲もRex、FeignなどのBLACK TONGUEに繋がるダウンテンポデスコアのバンド達からの影響が大きい曲だったし、原点回帰的な意味もあってまたこういう曲ができるのかと嬉しく思いました。

(山口)ある意味自然な流れだったんですね。

(NiiK)そうそう。そしてジャンル的にも曲の長さ的にもある意味時代に逆行しているのがいいなと思って。recしているからわかると思いますが、もっとアグレッシブでキャッチーな曲もあって、それを先行リリースすることもできました。でもそうしなかったのは、SUGGESTIONSは常に得体の知れない、何をしでかすのかわからないというようなスタイルが醍醐味だと思ったから。こんな言い方をしたら問題があると思いますが、気持ちとしてはこれまでずっとリスナーに中指を立てて表現してきました。アルバムをリリースする直前。今ここでこの取っ付きにくい曲を出すことが、改めて我々の意志表明となると考えました。

(山口)ありがとうございます。挑戦的な姿勢で僕は好きですね。

〜MUSIC VIDEOについて〜

(山口)ではここからはMUSIC VIDEOについて聞いていこうと思います。今回ディレクターに松田さんを起用した経緯を教えてください。

(NiiK)リリックに複数のインスピレーション元がある中で、そもそも『イレイザーヘッド』は松田が教えてくれた作品だし、DIR EN GREYが好きということも知っていたので彼女以上にこの世界観を理解してくれる人はいないだろうと思いました。なのでリリックを書き終えた時点で彼女に頼もうと思っていましたね。リリックの解説をメンバーみんなに話して即オファーをかけさせて頂きました。

(松田)こんな面と向かって言われると恥ずかしいですね.... 裏方仕事はあまり褒められることはないので笑
デヴィッド・リンチは私にとって一番敬愛していると言っても過言ではない監督です。DIR EN GREYの話も、江戸川乱歩の話も私とめちゃくちゃ通じるところがあるなとNiiKの話を聞いて感じていて。そして自分に求められているものはMV的なものではないなと思いました。それよりも映画、絵画、心理学からのアプローチで作るべきだなと。総合芸術として私はこの作品を考えています。SUGGESTIONSには元々ブルータルでヘヴィかつホーリーな面も持っているイメージがあったのですが、今回はアルバム全体としても特により攻撃性が強くなって突き放していく印象があったので、いかにそこを表現するのかということを念頭に置いていました。

(NiiK)攻撃性の話で言えば俺の中での変なイメージがあって。今までのSUGGESTIONSは刃物を振りかざしていたけれど、今回は錆びついたトゲのある鉄球を頭のおかしい司祭様が振り回して襲ってくるようなイメージがありますね。

(山口)よりわかりやすく暴力的になりましたね笑 それこそブルータルさとホーリーさを兼ね備えている。

(松田)MVにはシスターも出てきます笑 アンチクライスト、背徳的な表現が盛り沢山です。

(山口)続いて松田さんがこのMVを作るにあたって影響を受けた作品があれば教えてください。

(松田)デヴィッド・リンチの『イレイザーヘッド』はもちろんのこと、チャールズ・ロートンの『狩人の夜』、フリッツ・ラングの『M』からの影響が特に強いかなと。デヴィッド・リンチに関しては撮影全体のカットへの影響が大きいんですが、動物を使うカットはチャールズ・ロートンからの影響が強いです。聖書や絵画的な意味論を含めました。『狩人の夜』では捕食者と捕食される者とのせめぎ合いがとても上手に描かれていて、それでどうしても蛙と蛇のカットを入れたかった。獲物を捕食する者のモチーフですね。それでGood GriefのKeisuke君に全面的に協力してもらって撮影することができました。登場する美しい動物たちは彼の家族なんです。
ただ安直に動物をカットに入れるのではなく、しっかりと意味を込めての演出を心がけました。

(山口)あくまで映画のルーツを入れることがあの演出に繋がったのですね。

(松田)そうですね。元々私は大学で映像心理学や映画の中の意味論をずっと研究していました。海外映画は聖書がベースになっているものが多いんです。そういったこれまで培ってきたものをここで生かしたいなと思いましたね。

(NiiK)ただ絵的にかっこいいから入れてるだけの映像で構成されたMVも多いと思うけど、この曲ではリリックも映像も沢山のモチーフがあって、それらがきちんと意味を持ってヘヴィなものへとマッチしていっていると思います。

(山口)抜群の相性ですよね。

(NiiK)MVを頼むのにあたって、俺からは最初に話したリリックの大まかな説明と「死」というテーマの部分しか伝えませんでした。他のバンドがどうかは知らないけれど、こういう構成でいきたい!とかの話はせず、あくまで表現者として映像を作って欲しかったのであとは全て松田に任せました。頼んで正解でした。

(松田)ありがとうございます。SUGGESTIONSはすでに完成された世界観があるので、半端な演出や意味のないことはできないなと思っていましたね。カット割一つとっても普通は"MVとしての"カットの選定をするのですが、今回はそうではなくこれまでSUGGESTIONSのライブフォトを撮影してきたものの延長としてのカットが多かったかなと思っています。ライブフォトもお互い沢山話し合って試行錯誤しながら今のスタイルになっています。写真的なカットはリンチからの影響です。あえて何かわからないような、見えづらいカットも挑戦的に入れ込みました。

(NiiK)元々SUGGESTIONSを結成した当初から普通のことはしたくなかったし、曲だけじゃなくライブフォト一つとっても単なる思い出写真ではなく表現として出していきたいという意識がありました。これはもうお互いの戦いだと思ってますね。

(松田)まさしく。

(山口)撮影の小話があれば聞いてみたいです。

(松田)今回はとにかくKeisuke君に助けてもらいました。1年前くらい前Instagramのストーリーに彼がペットの餌のコオロギを食べてる様子をあげていて、絶対いつかMVの演出で使いたいと思っていました笑 それでオファーをもらってすぐ彼に動物達を撮らせて欲しいと声をかけたのですが、「僕虫食べましょうか?」と彼の方から言ってくれて。
それ以外にも演出面で沢山提案してくれたし、絵面が強いのは勿論なんですが、裏方的にもとても力になってくれました。
動物のパートはKeisuke君の家で撮影したんですが、撮影中コオロギが足元で四方八方飛び交っていてなかなかエグい状況でした笑 Ba.Kameも撮影に協力してくれたのですが、その時は離れたとこにいましたね笑

(NiiK)虫は俺も無理....
今までのMVでは割と俺が走らされたり体を張ることが多かったけど、今回はKeisuke君が頑張ってくれました。

(松田)実はそこにも意図があるんです。NiiKには今回あまりやらせたくなくて。今までと同じになってしまうので。彼の表現力は本当に凄くてリスペクトしているんですが、彼のパワーだけに頼らずに、もっと別のところからも表現を高めたいという意識がありました。だから今回敢えてNiiKにはあまりやらせませんでした。

(山口)SUGGESTIONSが表現するものとしての世界というか受け皿が広がったような印象を受けました。

〜 NiiKと松田の乖離について〜

(NiiK)実は俺と松田の間でこの曲の解釈で乖離している部分があります。まず松田が撮影するにあたって作ってきてくれたプロットについて話してもらいましょう。

(松田)私の中でこのMVには「粛清」というテーマがあります。インスピレーション元になった『イレイザーヘッド』に出てくる"In heaven, everything is fine" というフレーズは、その時の私のメンタリティ的にすごくネガティブなものとして捉えていました。死というものに対してとてもネガティブ。こいつだけは天国には絶対行かせたくないと思う人間っているじゃないですか。

(山口)苦笑
(NiiK)いるなぁ笑

(松田)そいつらに向けて作ったものでもあります。NiiKが希死念慮だったりとてもパーソナルな、内省的な意味が込められていると話していたのと同じく、私も実は自分の生い立ちをこの映像に込めています。NiiKはこの曲を子守唄、バラード的なものであると話していましたが、私は自分の内側にあったヘイトフルなものを表現しています。

そういった部分で少し乖離があるようです。

(NiiK)そう。これはまだ誰にも言ってないんですが、この解釈の乖離にも意味があります。
死をテーマにしたこの曲。暗闇の向こうから「死」が手招きしているというイメージ。それを松田流に解釈してもらったわけですが、自分の中ではこの曲は外側に向けたエネルギーではなくて、もっと内向的なものとして作っていました。撮影前のミーティングでプロットの話をしてくれた時に、その場でそのことを伝えて修正することは出来たんですが、その瞬間にあることを閃いたんです。いやこれは言わない方がおもろくなるなと。気を悪くしないで欲しいんだけど笑

(松田)おお笑 大丈夫笑

(NiiK)俺は後味の悪い作品が大好きなので、そういう表現をずっと作りたいと思っていて。今までの話を総括すると、松田の映像は「死に誘う側」を表現していて、歌っている俺は「死に誘われる」側を表現している。これはどういうことかというと、松田がヘイトを込めて絞め殺そうと首に手をかけていた相手が、実は俺だった、友人の首だったことに気づいて絶望する。というバッドエンドを表しているんです。

(松田)うわ〜笑 やりやがった笑
(山口)まさかそんな秘密があったとは笑

(NiiK)この曲はこの話をすることで完結するという仕組み笑 これを思いついた時ずっと心の中でニヤニヤしていました。

(松田)乖離に気づきながらもそれを受け入れて作らせてくれたのはとてもありがたいですね...
粛清というテーマがあると話しましたが、インスピレーション元の一つであるフリッツ・ラングの『M』は人が人を裁くのはどういうことなのか?ということを語っていて、今言ってくれていたイメージと通じる部分があったのでとてもおもしろいと思いました。
基本的に映像は仕事として作るので、パーソナルな部分を表現することは今までやったことがなかったですし、こういう機会をくれたのは嬉しかったです。こんな風に語ることもなかった。

(NiiK)まあそれでもまだお互い語ってない部分もあると思うけど笑

(松田)あるなぁ笑 まだまだ沢山ある笑

(NiiK)語る部分と語るべきではない部分もあると思います。これも作品を作る上での醍醐味かと。
この曲は本当に色々なタイミングが奇跡みたいにマッチしてできました。それこそイレイザーヘッドを見たタイミングも。何度か言及している俺のこの曲と希死念慮に関するnoteについても、今までだったら絶対書きたくないし書くべきではないと思っていた内容なんですが、あのnoteを公開することも大事なシナリオ、伏線の一つだったんです。こんな風に曲だけでなく、関連する媒体にも表現を散りばめていくやり方は、実は俺が大好きな『クローバーフィールド』という映画からの影響です。この映画は、劇中に登場する架空の会社のHPをあたかも実在するかのように作ったり、ニュースを流したりして物語のヒントになるようなものを色々な場所に隠していました。SUGGESTIONS主催の"Another Heaven, Our Catharsis"も、1st FULL ALBUMの拡張世界であると意識して開催しています。

(松田)いやぁおもしろいなぁ。朝まで語れるよこれ。任せてくれてありがとう。

(NiiK)こちらこそ!ニヤニヤしてただけですけど。最近はもうホラー映画とか見てても怖いとかじゃなくて「お〜こんな演出するのか〜」ってずっとニヤニヤしてますね。

(松田)気持ち悪い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?