TV Bros.のリニューアルについて

長年愛読していたTVブロスの隔週誌から月刊誌への刊行形態の変更、それに伴う紙面のリニューアルのニュースを知ったのはツイッターだった。少し遅れて我が家のポストに最後の隔週誌と共に定期購読者向けの案内が届いた。郵便配達が光の速度に負けたような気がして、妙に悲しかった。

20年以上もTVブロスを購入し続けてきた自分がどうして昨年から急に定期購読を始めたのかというと、近所のコンビニや本屋に買いに行っても置かれていないことが増えてきたからだった。1冊あたりの単価が安くなる、買い逃すこともなく発売日に家まで届く、岡村ちゃんのテレホンカードが付いてくる、などの理由もあるけれど、今後の購読の意思表示の気持ちを込めて迷わず手続きをした。長年読み続けてきた側としての勘が働いた部分はあったのかもしれない。

10代の頃からもう本当にずうっと、2週間に1度の水曜日には当たり前のようにTVブロスを購入していたし、こんなに長く愛読する雑誌はこれからもないだろうと思う。テレビ雑誌というかたちをとってはいたけれど音楽情報がとにかく充実しているのが特徴で、歴代の連載陣の名前を見ても、石野卓球、小山田圭吾、スチャダラパー、PUFFY、原田知世、忌野清志郎、岡村靖幸など、趣向がドンピシャで本当に魅力的だった。特に93~94年頃の「MUSIC BROS.」のコーナーで度々展開されていたテクノ関連の記事はクラブ雑誌の『LOUD』『ele-king』が創刊される前の貴重な情報源となっていて、一時期は「テクノ雑誌」と称されていたほど。フロッグマン・レコード設立パーティーなどを紹介した「クラブ専門学校」、ジェフ・ミルズのDJをいち早く紹介した「野田努のロンドン・レポート」、12インチでのリミックス業を並べた「アンディ・ウェザーオールって誰?」など、いま改めて読み返してもこれが全国紙で展開されていたのか……と感動するほど熱量が高く、どれも思い入れが強い特集ばかりで何年たっても忘れられない。他にも93年川崎大助氏の書いた「自主独立女ロックとは?」も高校時代の私のバイブルだった。

(※ある世代の人たちにとってこの素晴らしいレポートは94年10月のジェフ・ミルズの初来日の記憶と密接に繋がっているはず。)

とはいえ、メインのテレビ番組や映画や本などの記事に関してもある一定のコアなニーズに応える姿勢と批評精神を持っていたり、宝島のVOWにも通ずるナンセンスなノリの読者投稿欄も魅力で、たった190円の雑誌の中にそんな溢れんばかりの楽しいカルチャーが小さい文字でびっしりと詰め込まれていたものをいつも隅から隅まで読むことが自分の情緒を育んでいたことは間違いない。忙しい時は買ってもろくに読まずに捨ててしまうこともあったけれど、なぜ飽きもせず何十年もずっと買い続けられたのかというと、それがテレビ雑誌で、近所で手軽に購入できたからだ。お金のない時にブロスを買って読んでいたのが唯一の社会との接点だった、と誰かが呟いていたけれどまさに私もそうで、一人暮らしをしていた時はもちろん、子供たちを育てていた十数年間の最寄りの駅からなかなか出られない閉鎖的な時間の中で、発売日に何かのついでに近くのコンビニでブロスを買って音楽や映画などの僅かな情報を入手することが自分にできるただひとつの娯楽であり、意地でも続けた習慣だった。本は友達、とよく言うけれど、ガラッと変わってしまった環境の中でもつかず離れずの程よい距離感を保ってくれる古い友人のようなブロスの気軽さに、今思い返すと私もずっと救われてきた気がする。あのメンツ、あのやりかたでテレビ雑誌として維持し続けていたからこそ意味があり、月イチで倍の値段のカルチャー誌になってしまうと正直面白さを感じ続けられるかに疑問を持ってしまう。紙面の移り変わりは世の中の移り変わりを映すみたいに残酷で、表紙がイラストでも売れていた時代を知っている者としては、Perfumeが表紙の綺麗な最終号を眺めているだけで何とも言えない気持ちになった。

このニュースを知って、残念、でも仕方ないよ、それにリニューアルするんでしょ、なんて言葉を残して次の話題に切り替わる人たちを見ていると、世の中とは随分ものわかりがいいんだなと悲しくなってしまう。確かに仕方ないことだし、だからってどうすることもできない。だけど立ち止まって少しだけ抗いたい。同じようなことがまた起こらないように流れを食い止めたい。好きなものの重要性を語ることもできずにただ生きているだけなんてアホかよと思う。私は雑誌が好きで、雑誌を作る人たちも好きだし、開いてページをめくる指の感覚も、読んでいるときの穏やかな時間の流れも、いつでも出入りできる気軽さも何もかもが大好きだ。テレビ欄が無くなり月イチになってしまえば今までのように日常のテンポに合わせて読むような感覚は失われてしまうだろうけれど、馴染みのある雑誌が次々と廃刊になっていく中で形を変えても続けてくれることに敬意を示し、新生TVブロスの継続購入希望ハガキを書いてポストに出した。

こうやって雑誌への思いをインターネットに語ることがなんだかもう切ない。矛盾している。でもこの気持ちを一体どこにぶつけたらいいのだろう。そんな時はとりあえず書いてみる。いつまで経ってもそれしか方法が、思いつかない。

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