1997年度のベスト・ディスクを探れ 前編

年末年始になると一般誌の誌面を賑わすのが恒例の「年間ベスト・ディスク・チョイス」。あれってマンネリな企画とわかっていながらも、「ほんとかな〜、私だったら…」とか言いながらついつい読み進んでしまうという侮れないもの。今回のシュガースウィートは、その「ほんとかな〜」という疑問を解消するために、一般音楽誌でセレクトされた97年ベスト・ディスクについて読み、聴き、評価し、語り、勧め、真のベスト・ディスクを探り当てながら、雑誌の評価というのは果たしてどれだけ参考にできるのかを解決してみようという特集です。考えようによってはちょっと意地が悪いかもしれませんが。

参考にさせていただいたのは「REMIX」「LOUD」「GROOVE」。この3誌をベースに評価の高い10枚を選びました。これを私シュガースウィート1人で判断するのは偏りがあるしつまらないので、信用のおける音楽好きの物書き2人と共に探っていきたいと思います。
(このnoteでは私が書いた文章のみを公開します)

名前の横に記されている点数の基準は以下の通り。

⑤→まじでベスト!必買!
④→なかなかグー。お金があれば買うべき。
③→持っている友達がいたら借りてみれば?
②ベストってほどでもない。フツー。
①→別に聴かなくてもいいんじゃない?
…→う〜ん。評価不可能。

3人のベスト・ディスク・チェイサー達
♡大久保祐子。22歳。女。ミニコミライター。
♢Eさん。24歳。男。書店若店長。
♤Tさん。22歳。女。学生兼丘ライター。

★FREEK FUNK/LUKE SLATER

(NOVA MUTE)

【各雑誌の総合評価】

プラネタリー・アサルト・システムでお馴染みのルーク・スレーターによる、多様化といわれるテクノ界の美味しいところを盛り合わせたような正統派ディスク。さすが発売時にも話題をかっさらってただけあって各紙の評価は高く、「GROOVE」「REMIX」のテクノ・ベスト・アルバムに選ばれ、並びに同タイトルのシングルもノミネートされる優秀ぶり。誰もが選んでいるように見えて実際支持を集めたのは卓球、WADA、YAMA、KEN-GO→、Q'HEYなど直球テクノDJばかりで、ライターや少し外れたフィールドの人達のベスト5には全く顔を出さなかったのが特徴。発売は11月。

【3人の評価】

♡大久保→⑤
どうすんだよ〜今年のテクノぉ、と嘆く人々がハウスに逃げずにすんだ、正にベストとして選びたくなるような一枚だと思う。テクノ本来の意味を崩さずはみ出さず作り込んである曲の温度加減の良さはもちろん、出した時期がジャストだったこと、ジャケの頼もしさまでどれをとっても巧い。「テクノはもうダメ」とクールに振る舞いたがる誰かの図々しさに正面から投げつけてやりたい。全然新しいとは思わないけど、いいものが必ずしも新しいとは言えないと思わせる説得力がある。

♢Eさん→⑤

♤Tさん→⑤

★A/電気グルーヴ(KI/OON SONY)

【各雑誌の総合評価】

「Shangri-La」で遂に日本のポップス界にまで浸透してしまった電気グルーヴの話題盤で、今回並んだ10枚の中で(国内では)セールス的にはトップの作品。決してクラブ・ミュージックではないこのアルバムを無理矢理テクノというジャンルに当てはめて評価した「REMIX」誌でしか名前が名前が挙がらなかったが、発売時の雑誌での絶賛の嵐からしてその功績は偉大だったと見られ、個人別アンケートでは4人(すべてライター)にセレクトされている。発売は5月。

【3人の評価】

♡大久保→…
自分の個人チャートには勿論入るし、音楽的な功績からして誰もが認めて当然だと思うけど、ただ誰もに伝わる無難な良さではないし、こういうクラブ・ミュージック誌のベストとして語るのは難しいでしょう。だって「A」の活躍ってテクノの力じゃなくて電気グルーヴの力でしょ、絶対に。「VITAMIN」を出した時には全く無視していた「REMIX」がこれをテクノのベストとして捉えるのはなんか不自然。それほど重要なディスクだということか、それほど97年を代表するテクノというものが足りなかったという意味か。

♢Eさん→⑤

♤Tさん→④

★HOMEWORK/DAFT PUNK(VIRGIN)

【各雑誌の総合評価】

SOMAで活躍するダフトパンクがメジャーと契約してリリースしたファンキーなフレンチ・ハウス・アルバム。忘れられがちな97年初頭の作品にも関わらず、テクノの最重要アーティストにも選ばれ、ルーク・スレーターのアルバムの先駆けとまで言われるなど、大売れにふさわしい高い評価を得た。しかし全体の評価に対して個人別にはルークのようには名前が挙がらず、むしろメンバーの片割れ、トーマス・バンガルテルが出したシングル「Spinal Scratch」の方にテクノ/ハウスのDJの人気が集中したようだ。発売は2月。

【3人の評価】

♡大久保→②
音は別に嫌いじゃないけど、ルーク・スレーターのアルバムと並べたりすると全然弱いなぁ。勢いとユーモアがあって根性ないカンジが、何だか一発屋っぽさの匂いがしてあまり好きになれなかったし。まあ後腐れも無さそうなのはいいと思う。先のSOMAの作品はともかく、これが出た時のあの下世話さは私にはいまいち楽しめなかった。内ジャケのインディー・バンド風なアートワークは結構好き。

♢Eさん→③

♤Tさん→③

★NEW FORMS/RONI SIZE REPRAZENT(MERCURY)

【各雑誌の総合評価】
「MUZIK」のアルバム・オブ・ジ・イヤーを飾り、「MIXMAG」でも2位に選ばれた実力で、3誌すべての97年ドラムン・ベース大賞&最重要アーティストに堂々セレクトされ、クロスビートのチャートにも登場するほどの活躍を見せた最強2枚組。更に凄いことに、個人的なアンケートでもジャンルを問わず多方面からの声を集め、その数なんと15人!と支持率は圧倒的。アルバムの評価に加えて、とにかく話題騒然だった来日ライブの効果が票につながったと見られる。発売は7月。

【3人の評価】

♡大久保→⑤
いや〜、この企画をやった甲斐があったってもんだ。世の中の評価もまんざら適当ではないのだなぁと感心しましたよ私は。こんなに聴く者をガンガン刺激するような音楽はちょっと久しぶりなので驚いた。食わず嫌いだったドラムン・ベースとの壁を見事に打ち砕いてしまう勢い。だからと言って「ドラムン・ベース最高!」とかそんなに調子よくはいきませんが、この出会いはマジで嬉しい。今更私が勧めても的外れなのはわかっているけど、でも勧めたくなる出来の良さ。まいった。

♢Eさん→⑤

♧Tさん→④

★UNKNOWN POSSIBILITY/FUMIYA TANAKA(KI/OON SONY)

【各雑誌の総合評価】

キューン・ソニーよりリリースされた日本を代表する人気テクノDJ、田中フミヤの初のフロア向けミニマル・トラック集。自らのレーベル、とれまからアナログ盤をリリースすると同時にメジャーからもCDを出したことで、発売時にはその話題性の高さや作風とは裏腹なメディアへの露出が非常に多く、既存のDJには無い存在感を見せつけた。それらの成果が出たのか「REMIX」のテクノ・アルバム・チャートの4位に堂々ランクイン。しかし個人チャートには何故かどこにも登場しなかった。発売は10月。

【3人の評価】

♡大久保→④
この結果からして、どうも前に書いた「田中フミヤは期待ばっかりされすぎて正当な評価を全然受けてない」という言葉はまだ使えそうですね。あれだけ話題盤として騒いでおいて、こんな中途半端な評価とは。若ぶりたがりのオヤジ感覚丸出しで驚いてばっかじゃなく、ちゃんと褒めろよちゃんと。けなす勇気もないみたいだし。このアルバムの存在は嬉しいし、知るべきだと思うけど、これを材料にして作られるあのDJが私は何より好きなので、自分のベスト5には入れなかった。

♢Eさん→④

♧Tさん→④

★ALL MUSIC HAS COME TO AN END/CRISTIAN VOGEL(TRESOR)

【各雑誌の総合評価】

王道テクノ・レーベルTRESORからリリースされた、相変わらずの変態系テクノ・トラック集。このアルバムはアルバム・チャートにはランクインしていないものの、テクノDJの個人チャートには頻繁に顔を出し、シングルカットされた「(Don't)Take More」がベスト・シングルの方で活躍を見せた。フロア向けのトラックでなかなかヒットが生まれないと言われる中で、DJ陣にマストとされるアルバムを地道に作る貴重な人材としての支持率が高い。日本盤がないので定かではないが、発売は確か6月頃だったと思う。

【3人の評価】

♡大久保→②
クラブ情報誌ならばこういうDJの為のDJ用品がチャート・インして当然だし、それどころかもっと沢山選ばれるのが普通だと思う。そういう意味ではかなりの力を持ったアルバムだというのは間違いないでしょう。でもこの馴染みのある音を私は別に変態だと思わないし、DJならともかく今持ってなければ別に買って聴く必要はないんじゃないかなぁ〜、というのが正直なところ。昔の作品の方がもっと家でも聴けてよかったような気がする。

♢Eさん→③

♧Tさん→③


後編に続く。《https://note.mu/sugersweet0416/n/n02195901bf50》


(SUGERSWEET10号 1998年4月)







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