LOVE PARADE〜ベルリン・愛と自由のカルナヴァル

ラブ・パレードのことを知ったのはいつどうやってだっけ。あんまりよく覚えてないけど、確か毎年ドイツのベルリンで行われるヨーロッパ一大きなテクノの祭りだということを何かの雑誌で知り、興味を持ったのだと思う。そして、いつの間にかテクノ・ミュージックを愛する私達は、「行きたいよねぇ、ラブ・パレード。」と口にするようになっていた。

その「行きたい」を「行く」に変えたのは、今年の頭に出たテクノ・キッズ御用達マガジン「エレ・キング」創刊号に載っていたライターのケンゴ(渡辺健吾)氏によるラブ・パレード・レポート。これを読んだ全国のテクノ愛好家はどれだけ興奮したことか。十万人もの人達が、爆音でダンス・ミュージックを流す何十台ものトラックの周りに集まって、路上で踊り狂い、水鉄砲を浴びせ合い、ハグ(抱擁)し合う。人種も年齢も全く関係ない、その名の通り「愛のパレード」だなんて。ケンゴさんの書く夢のような世界にすっかり魅了されてしまった私は、読む手をブルブルと震わせながら、「よし、今年は私がその十万人のうちの一人になってやろうじゃない。」と呟き、せっせとお金を貯め、その半年後に見事ドイツ行きの航空券を手にし、沢山のテクノ好き、お祭り好きに会うために、いざベルリンへ。

私達が着いたのはまだ早かったので、パレードの通りのすぐそばの、安くていいホテルに泊まれた。何の仕掛けもないその通りを歩きながら、ホントにここでやるの?と不安にもなったけれど、日が近づくにつれ、行き交う車の中から耳慣れたキックの音(ビート)が聞こえてくる。その調子、その調子。

パレード期間は前夜祭〜メインのパレード〜後夜祭の三日間。パレードの他にも、市内各地のクラブに世界中の信じられないくらい豪華なテクノ有名人が集まり、DJやライブを披露する。もちろん私達もクラブ活動へ繰り出すぞー、と一日目は「ダブ・ミッション」というイベントを見に、東へ急ぐ。会場はもう、びっくりするほどバカでかい。日本の大型クラブの三〜四倍はある。ドイツじゃこれが当たり前みたい。こっちの人は労働時間は少ないし、電車も一日中走ってるから夜中の出歩きも便利だし、一般の商店街でも普通にダンス・ミュージックが流れてるし、クラブ・シーンが発達するのも納得できるな。そう思いながらフロア中をうろうろ踊り歩いたりしていると、東京の友達に会い、たちまち嬉しくなった。その後少し踊り、全然ラブな感じのしないプロディジーのライブ(よかった)を見てから、朝日が昇る頃ホテルへ戻る。少し眠ってからパレードへ行かなくては。

パレードは午後四時からだけど、待機しているフロート見たさに私達は昼過ぎから歩き回る。フロートとは、各レコード・レーベルやレコード店などがパレードのために用意したトラック。これにスピーカーを乗せ、DATでテクノ・ミュージックをかける。気に入った装飾のしてあるフロートに自由に乗り込めるのもまた、パレードの醍醐味。三十台ものフロートを見てから、「ここが一番カッコイイね。」と、オランダのレーベル、DJAX-UP-BEATS(シカゴのアシッド・ハウスをヨーロッパに紹介する役割を果たしたレーベル)のフロートの前で立ち止まっていると、なんとそばにいた女社長のサスキア嬢からお声がっ!何やら友達がパーマンのようなヘンな帽子を被っていたのを気に入ったらしく、うちのフロートに乗らないかと誘われてしまった。しかも他のフロートと違って、ここは一般の人の乗り込みは禁止だって。そりゃあ乗るしかないでしょう。美人に誘われたもんだから舞い上がってる男子と共に、私もフロートの乗り込み場所までついて行くことになる。

さんざん歩き回され、やっと通りに出ると、見たこともないほどの数の人々がいて、奇声をあげている。どうやらパレードが始まったみたい。興奮で震える体を抑えながら、急いでDJAX号に乗り込む。少しずつゆっくり動きながら大通りに出ると、そこにはもう建物の存在感が無くなるほどの人の数!

「エレ・キング」で読んだ通りだ。見わたすかぎり埋めつくされた人々がこっちを向いている。屋根の上だろうと電柱だろうと人が登り、男達が(中には女の子も)上半身裸で踊っている(日本のテクノおたくと違って、かなりマッチョな感じ)。私も疲れを忘れてフロートの上で踊りまくると、日本人のギャルは珍しいらしく写真は撮られるわ、手は振られるわ、握手をせがまれるわ、こんなにモテたの初めて。人が集まった時にできるパワーというものに感激しつつ、八時頃(ヨーロッパの夏は日が長いのでまだ明るい)にDJAX号を離れ、他のフロート見学へ。するとTOBYさん(ヨーロッパのテクノを紹介している日本のDJ。)に会う。嬉しくて走り寄ると、「よく来たね〜。」と言われ、抱き合う。

日が暮れるにつれ、一般人の姿はなくなり、残されたダンス狂がいくつものフロートの後を追う。昨日はただの道路だった所がこんな風になるなんて。いつまでも見ていたい気はしたけれど、さすがにもう力尽きてしまったので、十時過ぎ、いろんなことを思いながらホテルに帰った。パレードはその後も十二時頃まで続いたらしい(今年は死者まで出たとか)。

次の日、昼までゆっくりしてからドイツ一のスター、スヴェン・ヴァース(スヴェン・フェイト)のDJが行われる「ユニティー・バス」へ出かけた。このパーティーはプールのある建物の隣の公園での野外パーティー。みんな水着で寝そべったり、シャワーを浴びたり、裸足で踊ったり、すごくいい雰囲気。ケンゴさんがいたので話を聞くと、何でも今年のパレード参加者は三十万人以上だって。ケンゴさんをはじめとする「エレ・キング」のスタッフもフロートを出す予定だったけど、参加許可の返事をもらえたのが一週間前で、結局間に合わず参加を断念したのだそうだ。残念。

しかしスヴェンはすごい。ホント化け物だ。何時間もレコードを回し続けることで客を操り、しかも自分のエネルギーさえもその場に分け与えているよう。日本で聴いたプレーより上手く、日本から来ていたテクノ番長の石野卓球氏も踊ってました。前日の、よくわからないごちゃごちゃした雰囲気も良かったけれど、ここは何だか和やかで居心地が良かった。初の海外旅行でこんな体験ができたのはすごく重要なことだと思いながら、ベルリンを後にした。

さて、こういう状況は日本では望めないのかしらとなると、そんなこともないでしょ、と私は思いたい。私は一緒にベルリンに行った友達と、月一回原宿のホコ天でイベントを行っていて(*現在は終了)、そこで実際似たような興奮を味わっているし、TOBYさんが遊びに来てくれた時は「ラブ・パレードだよ、これは!」と言ってくれたこともあった。だってみんなが簡単にドイツに行けるわけじゃないだろうし、日本にDr.モテ(ラブ・パレードの創始者)はいないもんね。だったら日本は日本なりに、楽しいことをしましょう。日本も捨てたもんじゃないよ。

(1995年9月 THE BOOMファンクラブ会報誌 エセコミ20号 )

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