DELIC

一時期のブームは去ったとはいえ、まだまだ巷に溢れかえるミニコミ制作者には、DELIC読んで出直してこ〜い!と言いたくて仕方ない。DELICは皆さんお馴染み渡辺健吾氏と木暮秀夫氏が作っていたハイクオリティなテクノ・ミニコミだった。詳しくは知らないが、私達がこうして「REZ以降」にテクノを騒ぎ立てる以前から、DELICはミニコミを作っていたらしい。普通の雑誌には載っていないような情報量の多さがDELICの凄さだったが、私がDELICを好きになったのは、その中に感じられる筋の通った音楽に対する考え方や姿勢が強く伝わってきたからだ。レコード屋に置いてあるような、DJ気取りだかライター気取りだかの訳のわからない文章で「こんなにマニアックなレコード知っててちゃんと評価もできてまーす」とでも言いたげな、なんともやる気のないフリーペーパーにはそれが見つからないから信用できない。物をどれだけ知っているかなんて、本当はそれほど重要なことなんかじゃないはずだ。

高校生の時に行ったイベントの会場で初めてDELICを見つけた。ライブ終了後、帰ろうとしていると、ロビーで「買ってくださ〜い。」と声がした。テーブルの上に置いてあったDELIC8の裏表紙を見て私が「デペッシュ・モード、プロディジー、ミート・ビートか…ああ、このハートハウスって何か聞いたことあるな…。」と呟いていると、「なんだ知ってるじゃん。じゃあ買ってよ。面白いから。」と売り子のお兄さん達は微笑んだ。帰りの電車の中で読みながら、私はちょっと驚いた。当時私は別のミニコミをやっていたが、こんなにぎっしり詰まった、普通の雑誌より内容の濃い(ちょうどREMIXに少し飽きてきた頃だった)ミニコミは初めて見た。ディスク・レビューで自分が知っているレコードを探してはFLUKEの「GROOVY FEELING」の「こういうのが女子高生に支持されてたりすると嬉しいけどな〜。」のところで「あ、私女子高生、女子高生!」とか言ってたもんだ。バックナンバーも買ったし、読者プレゼントでTECHNICOLORSのテープも貰った。デリックには、私の知らなくてでも知りたいことが山ほど載っていた。

はっきり言って木暮氏ではなく、KEN-GO→氏が重要だった。もう何度も書いているが、KEN-GO→氏の文章力は素晴らしいと思う。インテリぶった馴染みのない言葉でベタベタ塗りたくったりしないのが、かえって(いい意味での)インテリジェンスを感じさせる。それにDELICは、ミニコミ特有のへんな臭いがないくせに、ミニコミ魂がちゃんとあった。ミニコミというのは、雑誌よりレベルの低い、素人が適当にこしらえた雑誌もどきのものではない。ミニコミはいつだって雑誌より面白くなくちゃいけないと私は思う。

(SUGERSWEET第8号 1996年7月)

*それまでフリーペーパーだったシュガースウィートはこの第8号から有料のミニコミになり、その際にKEN-GO→さんから激励のFAXを頂いて、そこに書いてあったことを励みに私は第10号まで頑張って作り続けた。そのラブレター(本人がそう書いていた)はずっと大事に取ってあったけれど、貰ったFAXの感熱紙のままで保存していたので、後日真っ黒に変色した残念な状態で発見されたのでした…。でもまだエレキングでライター仕事をする前だったし、こんな世間知らずで口の悪い娘を褒めてくれたことが凄く嬉しかったので、いつか全部忘れてしまう前にここに書き残しておくことにする。
(2017年8月 追記)


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