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フジロック2018 その②

(その①はこちらから
フジロック2018 その①

日本最大のロックフェスティバル、その3日間のうちのいちばん混雑する土曜日に、レッド・マーキーのトリ前のステージに配置されるということ。それだけでD.A.N.が大きな期待を担っていることを証明しているに違いない。タイムテーブル通りの18時前にいつもよりややテンションも高く登場したメンバー達。じわじわとタメにタメてからはじまったのはお馴染みの"Zidane"で、続いて新アルバムから"Sundance"、そして"SSWB"へとダンス3部作をノンストップで披露し、徐々に熱を上げていく。待ち望んでいた音に敬意を示すべく体を揺らし、歓声をあげる人々。サウンドとオーディエンスの反応が混ざり合って高揚していく特別な雰囲気はフジロックならではで、ああこれを体験したくてここにいるのだと感動すら覚える。長年テクノやハウスなどのクラブ・ミュージックに慣れ親しんでいた身としては、ロック的なマインドに寄ったダンスものに対してもどかしさを感じていたので、ダンス・ミュージックのグルーヴをバンド・サウンドにうまく落とし込んだD.A.N.の音楽は正に理想的なのだ。そこからは更に新しいアルバムの曲を中心に、ゆっくりとダークでメロウな世界を展開していく。演奏は今まで観たなかでいちばんエモーショナルに力強く、歌声は天に昇るように高く伸びて美しい。気づくと外はいつのまにか雨で、感傷的な音に浸るには出来すぎなほどぴったりとハマった"Borderland" には心底グッときたし、夜を待つ僅かなその時間を彼らが見事に自分たちの空間に変えてしまったことにも胸を打たれた。最後にニュー・アルバムからの先行シングルで終わったのに、何故だか攻めてるように見えるD.A.N.は素敵だ。

小雨の降るなか、感無量で外に出てビールと共にチリドッグを食す。これがまた雨水入りだというのに美味しかったので大満足。さて、夜を迎えてしまったにもかかわらず、いつもは満喫している奥地のフィールド・オブ・ヘブンやホワイト・ステージにまだ足を踏み入れていない状態。今年はオレンジコートの跡地にグランストンベリーの移動遊園地がやって来ているらしいので気になってはいるけれど。仕方ない。今年は何故か観たいものがレッド・マーキーに集中、しかも食事やトイレの時間を考えると割とタイトなスケジュールである。本当はこの時間に少しだけ覗きに行きたかったけれど、会場内で唯一屋根がちゃんとあるステージのレッド・マーキーはこの雨でこれから更に混雑することだろう。次のMGMTを必ず観るためには、なるべく早く中に入っていい位置をゲットしなければならない。もう移動はきっぱり諦めて20分以上前に入口まで向かうが、時すでに遅し。まだはじまってもいないのに溢れかえるほど沢山の人がMGMTめがけて押し寄せていた。この瞬間にもう心が折れそうになったけれど、ここで負けたら意味がない。だってフジロックって私にとっては普段ほぼ平日にしか来日しない洋楽アーティストを観るところ。力を振り絞って僅かな隙間に体をねじ込んで、何とか中に潜り込んだ。しかしもちろん会場内は身動きが取れないくらいギュウギュウで、酸欠になりそうなほど。後ろにいた友人とはまんまとはぐれてしまった。開演を待つあいだも私と同じように無理矢理入ってくる人に何度も体を押され、周りは背の高い男性に囲まれて一歩も動けない。そんな厳しい状況のなかでライブははじまった。いや、はじまったようだ。見えない、全然。

場内は大興奮だった。はじまった瞬間に、まったくこの人気者たちがレッド・マーキーってこれ配置ミスだろう!と叫びたくなった。熱気が明らかにそこに収まりきれていない。苦しい。スーパーオーガニズムに続く本日2回目のおしくらまんじゅうで体力がどんどん奪われていくのとは裏腹に、割れるようにうるさくキラキラした音と光がステージから放たれて頭のなかをハイにさせておかしくなりそうだった。春に出たアルバムからの"Little Dark Age"や"Me and Michael"の恐ろしくポップなメロディと、そして"Time to Pretend"や"Kids"では子育て期間中にデイヴ・フリッドマンのプロデュースと知って藁にもすがる思いで聴いたあのアルバムと当時のことを思い出して、半泣きになりながらも声を振り絞って一緒に歌った。爆音の中にいても気になってしまうくらい、外では滝のような雨が降り続けている。何度か途中で視界がぼやけていたのはMGMTのせいだったのだろうか。21時直前に隣のグリーン・ステージのケンドリック・ラマーへ移動していく人たちの分だけやっとスペースが空いて、アンコールの"Hand It Over"で優しく終わったあとには、あまりの疲労でその場に座り込んで暫く動けなかった。はぐれていた友人は、こんなに過酷なところにいるなら雨に打たれたほうがまだマシ、と早々に外に出て漏れた音をずっと聴いていたそうだ。

休んだら少し回復したので、せっかくだからと本日のヘッドライナーのケンドリック・ラマーをひと目みようと向かった。グリーン・ステージは相変わらずだだっ広く、集まった大勢の観客をしっかりと受け止めている。その場にいる皆が明らかにケンドリックのステージに心を奪われ、圧倒されている横で、遅れてきた私はうまくその波に乗れずにぼーっと眺めていた。さっきのことを考えていたのだ。あれは音楽だったのだろうか。背中のリュックにつけていたコーネリアスのバッヂが取れてなくなるくらいの強さで押され続けながら、身動きも取れず、ステージにいるはずのアンドリューとベンの姿もろくに見えずに、周りの大合唱にかき消されながら聴いたMGMTは本当にMGMTで、本当にあれは音楽だったのだろうか。今年は海外のフェスに倣ってか、YouTubeでライブ配信まではじめたフジロック。昨日観たマック・デマルコのように、もしかすると家でゆっくり楽しむのが正解だったのか。雨に打たれながらそんなことをずっと考えていたら、ケンドリック・ラマーはあっという間に終わってしまった。

ヘッドライナーが終わって、大勢の観客が後ろを向いて移動をはじめる光景を座って眺めた。フジロックにはじめて参加したとき、同じような群衆の真ん中で、自分はなんてちっぽけな存在なんだと悟った。ずっと小さなコミュニティのなかにいて、知り合いも増えて、ある程度の数の音楽を知ってわかったような気になっていたし、ロックフェスなんてものをちょっと馬鹿にもしていたけれど、ここにはそんな邪念は要らなくて、普段はどこで過ごしているのかと思うほど沢山の私の知らない音楽好きたちが、それぞれの遊びかたの正解を探して自由気ままに過ごしている。そんなところに強く惹かれたことが何度もここに足を運ぶきっかけとなった。今夜の私は選択を誤ったかもしれない。もっと楽しく過ごせる方法が他にもあったかもしれない。それでもやっぱり私は自分の目で見て何かを確かめたいと思う欲がある。小さな画面で観れるものや誰かのもっともらしい意見ではなく、自分のなかに湧き上がる感情とその先に見えるものが知りたい。幸いなことに宴はまだ続いている。ケンドリック・ラマーを無駄にしてまで自分の気持ちに折り合いをつけて向き合った時間もまた、貴重な過ごし方だったのかなと気持ちが楽になった。

レッド・マーキーは深夜のトライバル・サーカスの時間帯に突入。5lackがはじまった頃、サイレント・ポエッツとの"東京"が聴こえたので慌てて中に入ると、ん……?後ろにいるの、あれってPUNPEE?気になって仕方がないけど尋ねる人がいないのでそのまま凝視していたら、途中でもうひとりラッパーが登場。さすがの私もははーん、これが噂のPSGだなっ!と熱い盛り上がりについつい便乗する。周りでヒップホップギャル達(可愛い)がキャアキャアしていて、苗場にも新しい風が吹いてるのだなと実感した。お次はプリンセス・ノキア。ヘソ出しで跳んで踊ってダイブして、パワフルでキュートでカッコいい。途中でステージ袖から通訳の人を呼んで感謝の意を伝えてくれたときに「何より日本の女性たちを尊敬しています」と言ってくれたところも熱かった。その後は小雨のなか、岩盤ブースの石野卓球のDJへ。いつ聴いても飽きない安定のサービス精神が眠気を覚ましてくれて今夜も楽しかった。

(若干疲労が溜まってきたこの時間に友人からもらったこのアミノ酸を飲んだら、体がスッキリして朝まで眠くなかったので効果があったのかもしれない。
アリスト メダリスト アミノダイレクト5500

最後のお楽しみはアヴァランチーズのDJセットだった。金髪イケメンのロビーの横でトニーがピエール瀧的なジャンプでわーいわーいと盛り上げるさまが面白い。ロック、ディスコ、ハウス、ファンク、楽しければ何でもありみたいなテンション高めなセットで盛り上がっていたけれど、明け方にはやや疲れてきたので何度か外へ。トイレに行った帰りにスギウラムのマッドチェスターDJセットからキャンディ・フリップの"This Can Be Real"が聴こえてきたのでそのままダッシュで岩盤ブースへ駆けつけたところ、その後のニュー・オーダーの"Temptation"で移動できなくなったりもした。風は若干強いけれどヤフー天気では雨もそろそろおしまいのようだし、もう雨具も要らないかもね、と友人と話しながらアヴァランチーズに戻って、最後はくるとわかっていてもやっぱり嬉しい"Since I Left You"の美しさをしっかりと見届けた。

今年も奇跡的にちゃんと朝まで遊んで終わった。台風の影響も思ったほど受けずにいられたのは何よりだった。でもやっぱりホワイト・ステージで何も観れずに帰るのだけが悔いが残った。LCDサウンドシステム、バトルス、エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイ、ベルセバ、シザー・シスターズ……。今まで観た数々のホワイトでの名アクトを思い出す。また来年も来よう。フジロックに行くのは大変だ。だからこそ、フジが終わったらまた翌年のためにコツコツとお金を貯めて、そして元気でいようという気持ちを糧に一年を過ごしていくのだ。

様々な思いを巡らせシャトルバス乗り場まで歩いていたのも束の間、雨風が次第に強くなっていく。うつむき加減で足を運んでいるうちに更に酷くなり、絵に描いたような横殴りの雨が体を叩きつけてくる。え、なんで今更?予想外の事態に困惑しながらなんとか乗り場に到着したがもちろん長蛇の列で、待っている間も雨具が全く意味をなさないほどの暴風雨。朝がきたので終演とともに勝手に終わりだと思っていたのに、台風はまだ続いていた。一向に進まない列の真ん中で強風に煽られよろけながら、辛い、今が一番辛い、楽しかった時間の記憶が風にさらわれて一瞬で消え去るぅ………と嘆いたところで充電切れ。


結論。ババアの念、狂ってる。


#フジロック


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