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聖なるクリスマス in LOOPA

たまたま次の日の仕事が休みになったので、久しぶりに卓球のDJを聴きに「LOOPA」に行く。本当はFUMIYA TANAKAのジャパンツアーに行きたかったのだけれど、その日は松山の日。流石に私も追っかけ隊にはなれないと諦めて、今年は一人淋しく迎える予定だった聖なるクリスマスの夜を自分のルーツに捧げることに。

前回イエローに行った時に入口で厳しいIDチェックを受けた為(詳しくは知らないがなんでも未成年の事件が発生したとかいう)、何でこの歳になってIDチェックなんか受けなくちゃならんの、と情けなくもなるが、入れなければ意味が無いので免許も持っていない私にとって唯一の写真付き身分証明書にあたるパスポートを持参する。クラブにパスポートを持って行くとは我ながらアホらしすぎると思ったけど。

さてそうして中に入ると、さすがに冬休みというのが手伝ってか、23時だというのにいつも以上に混雑した様子が目に映る。ロッカーはもちろん満杯、上にあがってみればクローク待ちの長い行列にうんざりさせられ、比較的空いてるフロアでDJ TASAKAのプレイを楽しんでみた。いつものように彼の見た目によく合ったブレイクビーツを裸足で走っていくみたいにドカドカと鳴らし、スクラッチ(うまい!カッコイイ!)もバシバシ調子良く使っていた。そのうち少しトーンを落としながらうまい具合に四つ打ちに持っていくと、うわぁ〜い、テクノだぁ〜と言わんばかりに人が増えてくる。当然フロアが徐々に騒がしくなっていって、イエ〜イ!となったそこからが私は面白かった。盛り上がったところであれは意図的だったのかどうか、再びブレイクビーツが登場。まさにTASAKA君。フロアも沸いてました。

そろそろ空いたかな、と荷物を上に持って行くと、さっきより長い行列。結局臨時で作ったクロークも30分以上も待たされて、その間の狭い階段での目の前を行き交う人の流れや、あちこちで聞こえる「なんで今日こんなに人多いのぉ〜」の声にもうぐったり。下を覗けばフロアはもう人の山で、今日は失敗だなぁ、もうフロアには降りたくない、と上で友達とTASAKA君のDJにゆったり体を揺らしながら食べ物なんかを頼んでだらけていると、明らかに卓球に交代したのがわかるあの音が響いてきた。コツコツと鳴らしながら、足して足して足して引いて足す、という感じのノリ。これは多分まだ発売されていない自分の曲だろう。しかしその音より何より、いくら満員とはいえ尋常ではないその騒がしさに、私は思わず身を乗り出してしまった。そこに見えたブースに飛びつくような群衆と、それに応えるようにDJを楽しむ卓球の姿は、リキッドルームの外タレイベントの予定調和な盛り上がりとは違って何故かとても魅力的で、わたしの足を再び下に向かわせることになった。

フロアは正に卓球らしい音が響きわたり、それにいちいち反応するお客さんの様子はまるで電気のライブのようでもあった。少し子供っぽい、クラブっぽくないノリ。だけどこんなに素直に音を楽しめるのは凄く久しぶりだったように思う。クリスマスという事も勿論作用していたとは思うが、何かが解き放たれたような感じが私にはしたし、なんだか後ろでクールに踊ることに慣れてしまっていた自分が馬鹿らしくなるような、とてもいい雰囲気がそこにはあった。そこにいる人々はみんな、卓球が好きで卓球のDJが聴きたくてフロアに飛び込んだ人達ばかりで、その全てを受け入れるように「あすなろサンシャイン」をプレイするDJの姿は、テクノゴッドとしての使命感は無い、と言いながらクラブの水準を高める為にクールになってしまっていた頃(一時期はブースをカーテンで隠したりしていた)の石野卓球ではなく、サービス精神に溢れたとても自然な石野卓球だった。こんなことが出来るDJが他にいるだろうか。こんなことで喜べる私達は幼稚だろうか。だけどあの時生まれていた凄まじいパワーは、ちょうど私がテクノのクラブに通い始めた頃のあの空気とまるで同じ匂いのようで、こうして何度も卓球と向き合い、何度も卓球に楽しませてもらっていることを思い起こし、ラストにかけていた「シャングリラ」(ジミー・テナーMIX)の緩いグルーヴに身を揺らしながら、私はちょっと目頭が熱くなってしまいました。でもホントに楽しかった。

何でもない、ちょっと特別な、いつもの夜にて。

※この原稿を土台に「BERLIN TRAX」用に書き直した文章が「エレ・キング」18号に掲載されています。

(SUGERSWEET10号 1997年12月)

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