1997年度のベスト・ディスクを探れ 後編

前編はこちら⇨《https://note.mu/sugersweet0416/n/nf6df8902e1e5》

★BENTLEY RHYTHM ACE/BENTLEY RHYTHM ACE(東芝EMI)

【各雑誌の総合評価】

97年のイギリスのミュージック・シーンを賑わせたビッグ・ビートと呼ばれるムーブメントの代表となったレーベル、スキントの看板アーティストのデビュー・アルバム。イギリスのムーブメントというせいか、ロック側はともかくクラブ関連の雑誌媒体ではあまり面白い動きとして捉えられることもなく、ただの流行りとして片付けられているふうに見えるニュー・ジャンルの中で、このアルバムはベスト・ディスクにノミネートされ、個人別でもなかなかの好感触。こちらも来日公演が大好評だった様子。発売は10月。

【3人の評価】

♡大久保→③
ビッグ・ビートもデジタル・ロックも当然どーでもいい、ってカンジの私なんですが、これは意外といいカンジ。なんかものすごく遊んでるごちゃごちゃした音なのに、邪悪さがなくてやたら陽気なのがいい。さすが元PWEI(高校時代愛聴してた)。ビッグ・ビートの波に乗ってるようでも乗ってないようでもないところが好感持てる。でも自分にとって全然重要じゃないけどね。

♢Eさん→…

♧Tさん→④

★DESERT SCORES/IAN O'BRIEN(FEROX)

【各雑誌の総合評価】

URのマッド・マイク病としてその名を広めたイアン・オブライエンのファースト・アルバム。ときにテック・ハウス、ときにジャズ・ハウス、ときにフュージョンとまで称されたサウンドが、「GROOVE」ではテクノのベスト盤としてノミネートされた。輸入盤にしてはかなり売れ行きが良かったようで、いくつかのマイナーなレーベルから本人名義でリリースされた数枚のシングルにも個人チャートでそれぞれ均等に票が集まったことでもわかるように、静かに97年の音楽界を騒がせた一枚。発売は多分春頃だったと思う。

【3人の評価】

♡大久保→④
実は10枚の中で一番バランスの良い評価と位置をもったディスクだと思う。日本盤は出ていなくても先に挙げた3誌を読んでいる人なら知っているアーティストで、評価の具合も適度、家でも聴けてDJにも勿論いける。日本ではまだ話題になりすぎるような手垢もついていないし、このあたりの音に対してのこれからの期待度も含めた評価としてすごく自然な票の集め方だと思う。地味すぎず派手すぎず、質が良くて私は非常に気に入っている。

♢Eさん→③

♧Tさん→③

★HOMOJENIC/BJORK(POLYDOR)

【各雑誌の総合評価】

レコードを出す度に音楽雑誌の表紙を総ナメにし、そのジャケットのアートワークはもちろんのこと、スキャンダラスな私生活でも常に話題の的となる平成の歌姫ことビョークの3枚目のアルバム。前2作に比べて段々ハウス色が薄くなった今作なだけに、この3誌の中ではそれほど重要なものとしてはとりあげられなかったものの、「REMIX」のロック・チャートに入ったようにロック・フィールドでの評価が圧倒的に高く、SUGIちゃんことSUGIZOも97年のベスト・ディスクとして選んでいた。発売は11月。

【3人の評価】

♡大久保→②
視聴した時にあんまりピンとこなかったので買わなかった盤だけど、改めて聴いてみるとやっぱりビョークの歌声は凄まじいなと思う。でも神格化される前の、あのデビュー盤のネリー・フーパーの手がけたトラックの上に乗った原始的で不思議な色気とかあったかさとクールさのバランスの良さがなんかが魅力的すぎただけに、同じようなとは言わないが同じくらいの瑞々しさがどうしても欲しかった。レコード出す度に何となく年間ベストテン入りしてしまうような安定性を持っただけの無難なオバサンになってしまうのはもったいないし、つまらない。

♢Eさん→②

♧Tさん→②

★こどもと魔法/竹村延和(WARNER)

【各雑誌の評価】

以前スピリチュアル・ヴァイブスをやっていたDJタケムラが本人名義でリリースを始めたアルバムの2作目。「REMIX」は彼の経歴から、このどの領域にも収まりそうにない作品を敢えてジャズのベスト10に入れたと思われる。各雑誌のセレクトがちょうど行われた頃、または行われた後のリリースだったので、個人チャートにはほとんど挙げられなかったが、発売時の書き手の熱烈な評価は、ベクトルは違うものの同じように日本のクラブ・ミュージックが変化したかたちとして電気グルーヴとタメをはる反響ぶりだった。発売は12月。

【3人の評価】

♡大久保→④
眩しいほど魅力的な音楽。大好き。だけど竹村延和という人をどうしても好きになれない。中の解説文(読まなくてもいいと書かれても書いてあれば誰だって読む)やタイトルから発される独特な文学的な匂いや、不自然なまでのピュアリストなムード、そして彼に負けないぐらいピュアな気持ちで聴こう、と頑張っているライター達の評価の具合も私には要らない。言葉というものの力を信用している分、余計な言葉を見てしまう前に聴いたときが一番感動した。音楽とジャケは本当に最高。

♢Eさん→⑤

♧Tさん→⑤

さて、いかがだったでしょうか。自分と同じ意見のものやそうでないもの、聴いてみたくなったものなどはあったでしょうか。この評価を最終的に判断するのはあなたです。ここに挙がったディスクを聴きかえすもよし、真似して討論するもよし。自分なりのベスト・ディスクを是非見つけてください。

❤︎大久保 'S CHART

1.FANTASMA/CORNELIUS
2.A/電気グルーヴ
3.LET'S GET KILLED/DAVID HOLMES
4.SWIMMING NOT SKIMMING/TWO LONE SWORDSMEN
5.ECHO DEK/PRIMAL SCREAM

この、いつまで経っても聴いているものは結局同じ、という結果に自分でも苦笑してしまいますが、自分の中で一度評価が下がった人達が大逆転するような活躍を見せてくれたことに私は何より泣いたし、その思いが自動的に音への評価にも加算されました。他にはルーク、アズ・ワン2枚、ポーターリックス、スモーク・シティー、PHONOやBASEMENTなどのハウス系のコンピ、すこし外れてジャネット、プリズマチカ、ブラック・グレープ、CHARA、奥田民生、原田知世などが良かったです。あとペティ・ブーカね!

★What do you have in your hands?

今回の特集で気付いたことは、思ったほど一般雑誌の記事が信用できないわけではないな、ということ。もっとこう、ツバ飛ばしまくりの毒舌対決になるかなぁとも思っていたんですが、まあ基本的にどう考えてもいいと思えないと予測できるようなホームグランドの違う音は、初めっから基準の枠に入れていなかったのが大きいとは思いますが。でも判断した3人がともに「やっぱりベストと呼ばれるだけあって全部レベルが高い」という結論を持ったり、3人の点数が非常に似通っていたりしたのは、反対に面白い結果だなぁ、と思いました。一本取られた感じ。3人とも聴いたことがなかったロニ・サイズなんて、雑誌の評価がなければきっと聴く機会もなかっただろうし、改めて出会いというものを感じました。そう、出会いというものを。

最近私が嫌だなぁと思っているのが、流行りの「最近音楽が面白くないよねぇ〜」という言葉。「最近なんかいいのあった?」「うーん、テクノではあんまりないね」というのとはまたちょっと違う、個人的な観点ではなく、いかにも的を得てますというような鋭い意見のような、トレンドな言葉。つまんない風潮だなぁって思う。結局その人が音楽たのしめてないってだけの話じゃん、それ。だって音楽なんてもう一人の人じゃ、日々の生活じゃ抱えきれないような膨大な量で溢れるように迫ってくる中で、良くないものが沢山あったとしても良いものは見えないところにも山のようにあると思うし、それを選びに選んで聴いたものが自分の中に消化されるきっかけとなるわけだし、自分の手の届く範囲にいいものがないなら探しに行けばいいし、自分で作るのもいいし、昔の良いものを聴いてもいいし。大体そんな事を言うのってカッコイイのか?自分の音楽運の無さを嘆いたりはしないのかなぁ?質とか量とか以前の、出会いの問題なんじゃないかと私には思える。



※最後に、この特集号についてその当時「エレ・キング」誌上で野田努さんが紹介してくれた文章を一緒に掲載させて頂きます。凄く大事なことが綴られているので。

「シュガースウィート」は、自分たちの言葉で自分たちのことを語ることの出来るレアな雑誌だ。それは電気グルーヴや田中フミヤに触発された世代による言葉で、だから、ただそれだけでも「シュガースウィート」はもっと読まれるべきだと思っているのだよ、大久保さん。だいたい日本っていう国はサッカー評論家のセルジオ越後じゃないけど、客観的な報道という幻想(ホント、朝日新聞の功罪。超保守的なスポーツ新聞でさえいまでは署名原稿が当たり前)がいまだにまかり通る文化後進国で、即席的な感動は許すけど波風立たせるような言論や個人は封じ込めてしまうという、とんでもない国なのだ。そのとんでもない国の中で「シュガースウィート」は言いたいことを遠慮なしにズバズバっと繰り広げていく。これぞ電気グルーヴ世代的な意見の良さっていうヤツですかね。だから読んでいて楽しい。(中略)こんな瑞々しい文章、なかなかお目にかかれないと思うよ(職業ライターの人は危機感を感じた方がいいと思うけど、どうですか!)。 (エレ・キング19号)


(SUGERSWEET10号 1998年4月)





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