Wang Dang Doodle

『Wang Dang Doodle』

今年3月で終了した朝ドラ『ブキウギ』では、かつて一世を風靡した昭和の歌手・笠置シヅ子をモデルとした主人公の人生が描かれていました。笠置シヅ子の才能を見出し、成功へと導き才能を開花させたのは作曲家の服部良一。必ずと言って良いほど、大成した歌手には鍵となる人物が存在します。もちろん、ココ・テイラーにも、歌手としての成功の扉を開かせた人物がいました。それが、ウィリー・ディクスンです。

ー1935年メンフィスの郊外で生まれたココ・テイラーは、18歳の時、当時の彼氏で後に亭主となるポップス・テイラーとシカゴへ移住。昼間は白人邸で家政婦として働き、夜は地元のジューク・ジョイントに出入りして、マディ・ウォーターズやハウリン・ウルフのステージと知り合い、交流を重ねる。数年後のある夜、ウルフのステージに飛び入りで歌っていた時、当時チェス・レコードで、スカウトを務めていたウィリー・ディクスンが客席にいた。「大男が近づいて来て低い声でこう話しかけて来たの。"よお、中々良い声してるじゃないか。レコードを作る気はあるかい?"」(「」内は、Shunさんがココとのツアー中に彼女から直接聞いた小話!)
ーこうして、ウィリーとのコンビが始まり、1965年にはココ・テイラー最大のヒット曲『Wang Dang Doodle』が生まれたのです。

「オートマチック・マシンガンのスリム」「切り裂きジム」「肉切り包丁のナニー」など怪しげな人々が繰り広げる乱痴気騒ぎを歌ったり奇妙なこの歌を、ココは当初大嫌いだったとか。前に知り合いに聞いた事があります。「シカゴのクラブでのブルースセッションでは、エントリーの女性シンガーはみんなこれを歌うから、一晩でこの曲を何回やるかわからない」だとか。

ウィリー・ディクスンがココの為に書いた曲の数々には一貫性があったのです。逆境を跳ね返す強い精神をもった女性像がはっきりと打ち出され、例えばアフリカン・アメリカンのコミュニティでの女性の立場を代弁したりなど、フェミニズム的な視点で書かれています。ソウルの女王アリサ・フランクリンの『Respect』は、オーティス・レディングのヒットを女性目線で歌って、公民権運動のテーマソングとなりましたね。ブルースの女王ココ・テイラーは、チェス・レコードからアリゲーター・レコーズに移籍しても、このパワフルな女性像を貫きました。今回のライブの選曲もほぼ強い女子の歌です!😂

今から30年前、アリサやココがどんな人物かなど良く知らない頃、私は彼女たちの歌声を聴いただけで、とてつもない強さを感じ熱くなり、鼓舞されていました。ただただこのジャンルが好きなだけで歌う事を続けて来ましたが、今自身も歳を重ねて、彼女たちの人生と歌の関わりを深く理解しながら、歌う喜びがあります。ライブ前にこうして少しずつ皆さんにお伝えして、当日は更にリアルな生のライブの波動を楽しんで頂けたら嬉しいです!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?