大好きなあの子の呪い方

もう随分経った、と言ってもたかだか1年半と少し。呪いは思い描いたとおり進んでいて、噛み締める奥歯がむず痒い。
私を消した人間、私が消した人間、皆平等に愛しているよ。こうやって今も
実家の猫が死んだ。私よりもずっと私の醜い中身をきっと知っていてそして忘れていった。貴方が今どこにいるのか宗教上の都合でよく分からずにいる。所謂、天国と呼ばれているところはどんな所ですか?寒くは無いですか?貴方の息苦しさを綺麗さっぱりと取り除いてくれたのでしょうか。空虚で、惨たらしい場所だと淡々と切り捨てたあの田舎に、今更。全部狂ったのはあなたのせいよ。11月。本格的に田舎を、大学を、私を捨てた。しゃくり上げる私を抱きしめてくれる暖かい腕を選んだことに後悔はない。でももう少しだけ、田舎の香りを纏って、腕にもっと深く線を刻んで、小田急線の鬱陶しさに肩を委ねていてもよかったのかもしれない。6時半からぎゅうぎゅうの山手線は皆死んだ顔をしていた。私も来世は猫になれるかなぁ、貴方と同じ甘い香りで、日曜も月曜も変わらぬ生活をして、可愛いでしょと毛繕いをしてみせる。そんな、来世が私に許されるのでしょうか。
6時53分、多摩川河川敷で膝を着いて川を見つめる人間が一体何を考えているかは分からなくとも、きっと太陽が反射して、きらきらと光輝いていて暑すぎず寒すぎない心地よい風が前髪を揺らして何でもない懐かしい思い出が脳を過ってあなたをそこに縛り付けているのだろう。知らない街並みを愛している。特急が駆け抜けていく景色を。変わらないと絶対的な信頼のある関係が物足りなくなってきたのはいつからか。押すと痛い痣がどこにも見当たらない。要らないほど突き落として、死ぬ間際で拾って欲しかった。あたしのこと、好きなフリだけしててよ。なるべく長く居られるホテルをさがす、これといった魅力もないぺらぺらのナース服を着て、貴方は何故か喜んでいた。いいでしょ、もう。と急かす私を差し置いて、マカロニえんぴつのライブDVDとか余りにも馬鹿で笑えないよ。肌に1mmも触れることなく見た金曜ロードショーのワンピースフィルムゼットを思い出した。可愛い振りをしていて、ごめんなさい。嫌いでいいから、愛想をつかさないで。物分りだけはいいんだよ、わたし都合のいい女だし、あんたも都合のいい男ってだけだから!勢いで吐き捨てた言葉は貴方の耳には届かない。
夏、お風呂場で髪を切ってもらった。彼はとても気怠げで、いつだって家から出ることもない。183cmの青いジャージをもらって、萌え袖をして、裾を引きずりながら走ることだけがなんだか幸せな気がしていた。真似して買ってみたハイライトメンソール、いつだって鞄の中でぐしゃぐしゃになる。顔が遠くて寂しいから背伸びをする。彼は煙に気づかないし、屈むこともない。小さな絶望が少しずつ集まって、耐えきれなくなった頃に町田を飛び出した。緑の香りがして壁のうすい部屋。good day for you?
裏切られた新宿は今も私の襟足を引き摺っている。
紫紗くん、首元のタトゥーをIDにして、名前を借りた。トイプードルを飼っている男だけは信じちゃダメなの、襟足を伸ばしている男もね。だからって九州出身が許されているわけじゃないのよ。あたまがいたいし、そんなに言わなくたってわかっているのに。好きなんだからしょうがないじゃん、とか子どもっぽいことを言わないで。いつまで経っても大人になれそうにない。思い描いていた22歳は簡単に崩れていった。早く、私を救って。その短く綺麗に切りそろえられた黒髪と、厚底を履いたら抜かしてしまう背丈と、振り下ろされないその両手に全てをかけたのだから。
冬、貴方と同じ暖かい所へ行けますように。これ以上罪を重ねないように。

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