遠回りは最短距離。

今年の冬、自主トレで斎藤佑樹が、一番輝いていた「高校時代・大学入学当初の頃の投球フォーム」に戻そうと練習を繰り返している映像をテレビで見た。

プロに入ってなかなか苦戦している中、高校時代の時のフォームに戻せ!というふうに各方面から言われていた。
でも、相当苦労しているみたいだった。

そもそもなぜ斎藤佑樹は、栄光時代のフォームを変えたのか?

それは高校時代の投球フォームが最適で最高のフォームということに気づいていなかったからだ。
そして今よりももっと凄い投手になるために球速を高めようとしたからだ。

今が最適で最高なフォームだということに気づかず、もっと凄い投手になるため、筋力アップやフォーム改善に取り組んだ。そしてダイナミックなフォームは影を薄め、急速は落ち、球の伸びも失った。

高校のときのフォームの方がよかったにも関わらず、わざわざ血のにじむ努力をして自らダメになっていった。
成長と思ってやっていたことが、実は退化とも知らずに。

そして数年経ちそこでようやくその努力が間違っていたということに気づく。

もちろんその間に様々な葛藤があったことは想像できる。

そして彼は、プロ7年目にして、高校のときのフォームに戻そうとしていた。

自分はそんな斉藤のテレビで見て、親近感を覚えた。
それは、斎藤の状況が今の自分と似ていると思ったからだ。

今自分は「高校時代や大学入学当初の頃の自分」に戻そうと試行錯誤している。

これまでの自分史の中で、一番理想的な姿だった時期が、高校野球の最後の一年とその後の受験期での自分だ。

高校野球では野球の才能こそ皆無だったが、努力するという才能があった。強豪野球部に入り、そこでの厳しい練習にも耐え、そしてつらい待遇にも耐え、なおかつ誰よりも努力をしていた。

絶対にやってやるという強い思いでアドレナリンだらけの日々で自分を徹底的にいじめぬかないと一日は終われなかった。そしてそれがキツいともあんまり思ってなかった。それが当たり前で習慣だった。

その後の受験でも、全く同じだった。休むということを知らなかった。弱音を吐く人もいる中、勉強が嫌だったことは1日もなく、ストイックに毎日の勉強漬けの日々が楽しかった。


そして大学に入って、自分が正しいと信じた道をひた走った。しかし、知らぬ間に易きに流され、次第に頑張らない人間になっていった。
次第に哲学や思想に偏り、世俗的な興味も薄れていき、人生へのやる気もなくなっていった。
勝ちたい、負けたくないという強い思いもなくなり、誰よりもあると思っていた根性や気合いもなくなっていた。身体の調子も悪くなった。燦々たる状況。

気づけば、好きな自分とは正反対の自分になっていた。

なんでそんなことになったのかといえば、高校時代にやっていた凄さや価値をわかっていなかったから。

長年積み上げてきた習慣や感覚が、資産なんだとも知らず、
何年も毎日労力をかけて手に入れた資産を、それと同じくらいの時間をかけて自ら手放ししていった。
勝手に成長と捉え、価値ある資産を手放していった。
自ら意識的に手に入れたものではなく、置かれた環境の中でひたむきにやっていくなかで、築かれたものだったから。
それが大事で凄いものであるとは思わなかった。

そして今、それに気づいて、自分は間違っていたと認め、あのときと同じ感じになれるようにもう一度自分を作り直そうと少しずつだけど努力している。

比べるレベルが違うというのは重々承知な話だが、
斉藤が藻掻いている姿は、自分の姿と重なった。
斉藤を見て、おれだけじゃない、頑張ろう、と思わせてくれた。



そういうわけで、斉藤と自分ともに、今までやってきたことを間違っていたと認め、そこから過去の良かったときの自分に戻そうとしているわけだが、

一般的に「戻る」ということには、正直ちょっとしたマイナスなニュアンスが含まれているように思う。

自分がやってきたことが間違いだったと認め、そしてそこから昔の自分に戻していく行為には、どうしてもマイナスなイメージがつきまとう。

自分も心の中でそう感じていた。



だけど

そうじゃないなって、今は思う。
全然そうじゃない。

自分も斉藤も、戻っているのではない。
いろんな事を経験し、あのときがベストだと判断し、意識的に選び直しているということをやっている。それは決して戻っているのではない。

よくその凄さや価値も分からなかったものを簡単に手放し。
そして手放したその後、様々な経験をする。
そして、様々な経験をして、改めて、凄さや価値に気づき、あれがベストだったと思う。
それに気づくのは、よりよくしたいと思っているから。
そして気づいて終わりではなく、もう一度そのときの自分に作り替えていく。

確かに遠回りに見えるし、戻っているようにも見える。

だけど遠回りは、別に遠回りではなく、最短距離。

戻っているように見えるけど、それで最短距離。

けして遠回りではなく、遅かれ早かれ必ず通るべき道。

だから、斉藤も俺も、これでいい。

全然悲観的になる必要もないし、後ろを向いているようにみえるだけど、それはちゃんと前へ進む道。

だから、斎藤佑樹と一緒に、堂々と胸をはり、前に進みたいと思う。






斉藤佑樹は785日ぶりの勝ち星をあげた日の勝利インタビューでこんなことを言っていた。

「正直こんなに苦しい野球をずっと続けるのかと思うとしんどいですけど、今日は嬉しいです。
これからまた第二の野球人生がはじまります。
これからも一緒に頑張っていきましょう。」


いえいえこちらこそ。一緒に頑張っていきましょう。

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