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Pfizer/BioNTechのワクチン開発が遅れることは良いことなのかもしれない

Pfizer/BioNTechのワクチンの結果が間もなく発表

みなさん、こんばんは。
今日も製薬会社のMedical Advisorとして、専門的な立場からワクチン開発について少し考えてみたいと思います。
以前、Modernaのワクチンについて少し細かくnoteに書いてみました。

Pfizer/BioNTechのワクチンの結果が間もなく出るころですので、今回はこちらに焦点を当ててお話します。

Pfizer/BioNTechワクチンのPhase3試験プロトコールのおさらい

それでは、Phase2/3試験のプロトコールを前回同様、PICOのフレームで見てみましょう。

P (Patients: 患者):16歳以上の大人でSARS-CoV-2の感染リスクの高い人。44,000人がスクリーニングされ、39,862人が1:1に割り付けられる。
I (Intervention: 介入):BioNTechが開発したSARS-CoV-2に対するワクチンBNT162b2 (30μg)
C (Comparison: 比較):プラセボ(生理食塩水)と比較
O(Outcome: 結果):このあと詳しく述べますが、プラセボ群と比べてBNT162b2で統計学的に有意にCOVID-19罹患患者の数が減ることですが、中間解析(Interim analysis)が設けられています。

臨床試験の中間解析とは

Pfizerはこれまでずっと、10月に結果を公表すると言っていました。
なぜこれが延期になったのでしょうか。

先ほど、O(結果)のところで、中間解析があると言いました。
この臨床試験もModerna同様、event-drivenと呼ばれる試験で、最終的には両群合わせて164人がCOVID-19に罹患するまで実施する試験となります。
ただし、その前に○○人が発症したところで中間解析をすることになっています。
その定義というのが以下の通りです。

中間解析1 : 32人で実施(BNT162b2で6人以下、プラセボで26人以上で有意差あり)76.9%の有効性
中間解析2 : 62人で実施(BNT162b2で15人以下、プラセボで47人以上で有意差あり)68.1%の有効性
中間解析3 : 
92人で実施(BNT162b2で25人以下、プラセボで67人以上で有意差あり)58.8%の有効性
中間解析4 :
120人で実施(BNT162b2で35人以下、プラセボで85人以上で有意差あり)52.3%の有効性
最終結果 :164人で実施(BNT162b2で53人以下、プラセボで85人以上で有意差あり)52.3%の有効性

現在、まだこの中間解析1の32名に達していないことをPfizerのCEOであるAlbert Bourlaさんが言っていますので、まだ中間解析1にも達していないというわけです。Albert Bourlaさんはもちろん、blindのデータしか知らないはずですので、どちらの群で何人発症したかではなく、現在トータルで〇〇人発症したというデータしか知らないはずです。そして、通常はこの中間解析のデータは良くても悪くても最終結果が出るまで公表されません。
有効性はまだ不明ですが、Albert Bourlaさんは安全性は問題なさそうだという発言をしており、ここは安心ができるところかと思います。

<訂正>

2020年11月10日の報道で、PfizerとFDAとの協議の結果、最終的に94例の患者での中間解析としてデータを発表しました。上記の中間解析3まで終了したことになります。94例で92例とずれている理由としては、ほぼ同時期に3例が同時に発症したことが推測されます。

中間解析の公表が遅れた意味

では、中間解析の公表が遅れた意味を考えてみたいと思います。

先ほど述べた通り、BNT162b2で6人以下、プラセボで26人以上の割合だと中間解析1でゴールとなります。

ただし、例えば、ワクチンがとても有効性が高く、1人もCOVID-19を発症しなかったらどうなるでしょうか。

その場合は、プラセボだけで32人発症するまで待つ必要があるということになります。

ここで理解できるかと思います。
26人発症を仮に3カ月とすると、32人発症するまで待たないといけない場合だと、32/26×3=約3.7カ月時間が必要となります。(実際には患者さんは徐々にリクルートされるため、より長い時間が必要ですが、細かいことは割愛します)
ワクチンの効果が非常に高い場合、プラセボ群でより多くの患者さんが発症するまで待たないといけないため、より長い期間がかかるというわけです。

この理由から、ぼくはPfizer/BioNTechのワクチンの中間解析の公表が遅れた、とアナウンスがあった際に、これはいけるかも。と思いました。
この背景を理解できないと、そのような思考までたどり着けない場合が多いと思います。

また、最近は医学的なエビデンスも増えてきており、ここも成功確率が高くなることを後押しする理由と言えるかと思います。
詳しくは以前書いたnoteをご覧ください。

結果の解釈

さて、もし、Pfizer/BioNTechのワクチンが中間解析1で有効性を証明できなかった場合についても考えてみたいと思います。

確実に言えることはBioNTechの株価が暴落することでしょうか笑。

でも、ここでワクチンはオワタ!とかは考えるのは時期尚早です。
先ほどの中間解析をみていただくと、BNT162b2で7人発症、プラセボで25人発症でもこの段階では有意差なし、承認できないとなります。さらに中間解析のデータは公表されない可能性が高いです。

あまり情報が出てこない可能性が高いですが、11月にもしPfizer/BioNTechのワクチンで有効性を示すことができなくても、まだまだこのワクチンを含めて他のワクチンが終わりというわけではありません。

あくまでも11月の結果でわかることは、fizer/BioNTechのワクチンは76.9%の有効性というピッカピカの結果を示すかどうかが検証されるということです。このことを覚えていただけるだけでPfizerの発表を少し冷静に判断できるかと思います。

それでは、今回の記事はここまでにしたいと思います。

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それでは、また次回の記事に乞うご期待!

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