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創薬のモダリティの変遷と RNAiへの期待

皆さま、年末はいかがお過ごしでしょうか。
COVID-19のワクチン開発がひと段落し、BioNTech, Moderna以降のバイオ銘柄の選定ということで、TwitterでRNAi銘柄に投資をすることを明言してきました。今回のnoteでは、なぜぼくがRNAi銘柄に投資をしようという考えに至ったのかということについて書いていきたいと思います。

創薬モダリティの変遷

創薬のモダリティを分ける場合は色々な分け方があるのですが、今回は4つに分けて考え見ました。

1. 低分子医薬:
こちらは日本の大手製薬会社が得意としてたものでした。1990年代は生活習慣病(糖尿病、脂質異常症、高血圧症など)に対する低分子薬が多く開発され、日本の大手製薬会社は多くの化学者(medicinal chemist, 通称メドケム)を雇用し、この手法に注力しました。今でも開発されている薬の薬40%は低分子薬と言われており、非常に重要なポジションを占めますが、ブロックバスターは年々開発しにくくなってきています

2. 抗体医薬等のタンパク質またはペプチド医薬:
抗体医薬はここ20年程度で大きな役割を果たすモダリティとなりました。日本で時価総額トップとなっている中外製薬はこの抗体医薬が実用化される前から、有名なラボに研究者を送り続けていたことが有名ですね。抗体は低分子ではなかなか活性化/抑制できない分子についても非常に強い活性を示し、リウマチ薬や抗癌剤等、様々な領域で実用化されています。最近では、抗体の抗原認識部位を右と左で異なるものにしたbispecific抗体なんかも開発されています。メインプレイヤーはRocheグループ(Roche, Genentech, 中外)、Amgen、Regeneronなどですが、メガファーマはどこでも作成できます。抗体医薬はもともとキメラ抗体(マウスから作られてた抗体)からはじまりましたが、抗原性を下げるためにヒト化抗体というものが作られ、Regeneronはヒトの抗体を作る遺伝子を入れたマウスを作成し、完全ヒト抗体というものまで作れるようになっています。抗体は、その作成技術や生産についても特許にはないノウハウがたくさんあると言われています。低分子医薬と比較すると、標的分子に対して非常に強く結合するため、薬効が強いこと、そして半減期が長く2週間から4週間に1回と投与回数も少ないことはメリットとして挙げられます。一方でデメリットとしては、製造コストが高いこと(通常はCHO細胞という細胞に抗体を作らせます)、そして、抗体は細胞内に入ることができないことから細胞外にある分子のみが標的分子となることなどが挙げられます。
抗体と同様、アミノ酸が連なったより小さいものがペプチドです。生体内ペプチドとその改変したもの(アナログ)は多く実用化されており、最も有名なものはまもなく生誕100周年になるインスリンですね。環状ペプチドなどは、日本のバイオベンチャーも含めて開発されていますが、現在、臨床初期段階から進んでいない印象です。

3. 細胞医療:
 こちらは、これからが本番の領域ですね。
CAR-T療法という、免疫細胞を患者さんから取ってきて、それにCD19遺伝子を入れて、患者さんに戻してCD19陽性の癌細胞をたたくということが現実化しました。ノバルティスのキムリアは1億円以上するということで、ニュースなどでも大きく取り上げられましたね。

CAR-T療法のような細胞医療をより一般的にするため、他人から取った細胞で使えるように細工をして皆さんに使えるようにしているもの (allogeneic,他家由来)は CRISPR-Cas9で先行しているCRISPR Therapeuticsなどが開発中です。このあたりは、まだ不確実性はあるものの、非常に大きなポテンシャルのある分野であると感じます。
このほかにも、心臓に貼るハートシートですとか、様々な治療オプションがあると思われます。眼科領域でも期待が大きい分野です。

4. 遺伝子治療:
遺伝子治療としては、今回のCOVID-19ワクチンでmRNAが特に注目をされました。mRNA医薬はmRNAを投与して、タンパク質を生体内で作らせて治療するというコンセプトのものです。遺伝性の疾患には、遺伝子治療をすることで健常人と同様に生きられることができるものもあり、希少疾病を中心に薬剤が開発されています。今回お話するRNAiもこの遺伝子治療に分類されるものですが、COVID-19ワクチンと異なる部分としては、RNAi医薬は遺伝子を抑制するということです。ここに大きな未来を感じる理由としては、これまで作られた様々な薬剤は圧倒的にある分子の働きを抑えることを目的としたものだからです。

アゴニストとアンタゴニスト

創薬の一般的な方法は1つの標的分子を活性化する、または不活性化をして、病態を改善することを目指します。
活性化するもの(アゴニスト)も多く開発がされていますが、不活性化するもの(アンタゴニスト)を作成するケースの方が圧倒的に多いです。
例えば、リウマチの最も売れているヒュミラはTNF-α阻害薬、高血圧の最も処方されている薬はARBはアンジオテンシンⅡ受容体阻害薬、糖尿病治療薬で最も売れているジャヌビアはDPP-4阻害薬、最も売れている抗癌剤キートルーダはPD-1阻害薬と、標的を活性化するよりも、圧倒的に阻害する方が病態改善には良い標的は多いです。
これは、創薬の標的分子を見つける方法がノックアウトマウスや遺伝子欠損の患者の情報が多いことにも起因していると思われます。
RNAiは遺伝子を不活性化(ノックダウン)するということで、活性化するものよりもたくさんの標的分子を候補にすることができます。

RNAiとは

RNAi(RNA interference:RNA干渉) 以前はmRNAのタンパク質合成を止める(ノックダウン)の方法としては、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)という方法がありました。
ASOは転写されたmRNAとちょうど相補的な配列のmRNAを入れることで、物理的にペアを作り、タンパク質の翻訳を阻害する方法です。
ASOにいち早く目をつけて、この特許を取りまくった会社がIsis社(現在はIONIS社という名前に変更、例のテロ組織と名前がかぶっていたことから改名)です。
RNAiはスタンフォード大学のアンドルー・ファイヤーとクレイグ・メローという若い二人によって1998年発見されました。相補的な配列だけでなく、対になっている二本鎖のRNAを細胞に入れることで、ASOと比べて少量で劇的に遺伝子のノックダウンすることを発見しました。しかも標的mRNAを阻害するのではなく、mRNAを分解するというメカニズムであることもわかりました。
このRNAiの発見により、二人は40代という若さでノーベル賞を2006年に受賞しています。

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RNAiの暗黒時代

RNAi発見 当初、AlnylamとSirna(siRNAという名前の通りの会社)という2つの会社がRNAiについて精力的に研究を進めており、Alnylamは多くのメガファーマ(ロシュ、ノバルティスなど)との提携、SirnaはMerckに買収されました。しかし、mRNAはとても分解されやすい性質から標的組織に届ける前に分解するという扱いにくさ、そして免疫反応を起こすということもあり、RNAiが創薬には向かないのでは?と2000年代後半にはかなり懐疑的な目で見られていました。
Merckも買収したSirna社だった組織はその後、Alnylamへ安値で売却されています。また、その後創設されたArrowheadは、ロシュやノバルティスが手放したRNAi関連の特許を安値で買っていました。
しかしその後、RNAに化学的な修飾を加えることで、分子の安定性を高め、免疫原性を低下できることが主にAlnylamの研究よりわかってきました。
また、今回のワクチンにも使用されているLNP (lipid nano particle : 脂質ナノ粒子)を用いることで、安全に効果的に組織(主に肝臓)に運べることも明らかになってきました。
これらの小さな一歩の積み重ねの結果、Alnylamは2018年にpatisiran(製品名:Onpattro)をトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーを適応症としたはじめてのRNAi医薬として上市しました。ただし、OnpattroはLNPを用いており、静脈投与かつ免疫を抑えるためにステロイド投与も必要なものということで、やや投与経路や負担という意味では満足できないものでした。

RNAiの改良と今後

OnpattroはLNPを用いたDDS (drug delivery system)を用いているわけですが、静脈内投与ということもあり、改良が進められています。•
Alnylamをはじめとする企業は、肝臓に豊富に発現する受容体に強く結合する糖質N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)にsiRNAを化学的に結合させて肝臓に送達するという別の方補うにシフトしました。GalNAcは毒性学的により安全性が高く、製造が容易で、作用も長期に有効で皮下投与が可能です。
このような薬剤の代表としては、Alnylamが開発し、ノバルティスがヨーロッパで承認を取得したInclisiranが挙げられます。この薬剤は、PCSK9という肝臓にあり、LDLコレステロールの肝臓内への取り込みを阻害する分子をノックダウンする薬剤で、血中LDLコレステロール値が40-50 mg/dLまで低下します。そう、健常人よりも圧倒的に低い値まで下げることができるのです。これまでRegeneron/SanofiとAmgenがそれぞれ抗体医薬としてPCSK9阻害薬を発売していますが、いまいち売上が伸びない理由としては、その薬価にあります。日本ではAmgenのレパーサは1キット、2週間分で24344円(患者負担はこの3割が原則)ということで、月に約5万円もするんですね。Inclisiranは製造が容易なので抗体医薬よりも安価で提供することが期待されています。さらに安定すると、6カ月に1度の投与という長期的な作用であるため、まるでワクチンを投与するような感覚で来院し、LDLコレステロールをコントロールできることが期待されます。
このように希少疾病、かつ静脈内投与というところからはじまったRNAi医薬はすでに生活習慣病をはじめとする大きな市場にも薬剤が出てくることが期待されており、かつ容易な皮下投与、かつ半年に一度という投与頻度ということもあり、新たなモダリティとして期待が持てます。
そして、GalNAcをRNAiに結合させることで肝臓へ送達することができましたが、AlnylamはCNS(中枢神経系)に、またArrowheadは肺への送達を目指したプログラムを進行させており、今後はこのあたりの特許が大きな差別化へとつながることが想定されます。

RNAi関連企業

1. IONIS:
ASOの創薬をずっとやっている会社はIONIS(ティッカーシンボル:IONS) (元Isisという名前でしたが、あのテロ組織と同じ名前ということで改名)があります。ASOはRNAiと比較すると投与頻度が月に1回とやや多いことが難点ですが、技術が確立されていることもあり、すでに薬剤を上市しています。パイプラインも豊富でメガファーマとのアライアンスも複数有しています。

2. Alnylam:
今回のお話の中心となる会社がAlnylam(ティッカーシンボル:ALNY)です。RNAi創薬の元祖とも言える会社で今後多くの新薬を上市することが期待されています。CNS分野でRegeneronとコラボレーションをしていますし、最も期待できる会社の一つです。

3. Arrowhead:
途中でお話に出てきたメガファーマが諦めた時に特許を買い漁った会社がArrowhead(ティッカーシンボル:ARWR)です。先ほど述べたように肺へのDDSへの開発など、研究も熱心で、Alnylamと同様、RNAiの最有力候補の会社です。まだ薬剤の上市はありませんが、conference callを聞くと、すでに営業部隊をリクルートしているようで、かなり将来性のある会社であると考えています。

4. Dicerna:
つい最近知った会社で、今回紹介した会社では最も小さな会社がDicerna(ティッカーシンボル:DRNA)です。パイプラインはまだ初期段階(preclinical)のものが多いのですが、LillyやRocheなどメガファーマともアライアンスを組んでいるようです。投資という目線では、最も買収されやすい会社といえるかもしれません。

まとめ
少し長めのnoteになってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。
ぼくが大学生だったころにRNAiの技術があり、細胞にRNAiを用いてノックダウンしていたことを思い出しました。その頃はヒトで治療薬になるというよりは分子生物学的手法という感じだったのですが、ここまで来たのか、と感慨深い思いです。
投資という観点からはバイオ銘柄が最近かなり注目されていますし、株価のの上昇も順調です。著名なETFのARKGにはArrowhead (ARWR)が入っていますが、これらのRNAi銘柄を自分で分析し、個別銘柄に投資するというのも面白いと思います。
今後は、いくつかの銘柄についてもnoteを書いていきたいと思いますので、引き続き読んでいただけますと幸いです。
それでは、今回の記事はここまでにしたいと思います。

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それでは、また次回の記事にこうご期待!

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