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Teladocが好きになるnote : TeladocとLivongoのビジネスと合併のシナジー


TeladocとLivongoが合併が8月5日に発表され、10月30日に正式に合併しましたね。この合併について、また各社におけるビジネスについてはとても素晴らしい分析をされている方がいらっしゃいますので、ぼくがそんなお話をしても墓穴を掘るだけかと思います。この記事では、Teladocのサービスと対象疾患を中心にnoteを書いてみたいと思います。

生活習慣病の罹病率

TeladocもLivongoも癌のような複雑な診断が必要な疾患は対象としていません。

メインの対象疾患はプライマリーケア、つまり糖尿病、肥満、高血圧、脂質異常症などのいわゆる生活習慣病を対象としており、日本でももちろん問題になっていますが、アメリカでは患者数が本当に増えていて、国民病として広く知られています。
新型コロナウィルスではありませんが、糖尿病や肥満の論文を読むと、これらの罹患率の上昇がすごいことから、pandemicという単語が良く使用されます。

CDCのデータから、糖尿病と肥満について、データを見てみましょう。
糖尿病の患者数は約3420万人(10.5%)です。割合としては、日本人成人も約1000万人(10%)ぐらいですので、同様ですが、肥満患者は全然違います。

こちらの図は州別の肥満患者(BMI 30以上)の罹患率です。
すごいですよね!30%以上が肥満の州もたくさんあります。
これは、アメリカに行ったことがある方であれば、肌感覚として理解できるかと思います。

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このように糖尿病、肥満はアメリカでの国民病でありますが、困ったことに痛くもかゆくもないんですよね。何が怖いかというと、これらの生活習慣病が引き金となり、大血管障害(心筋梗塞や脳卒中)や細小血管障害(腎症、網膜症、神経障害)になるケースが多いです。

糖尿病は、進行性の慢性疾患でして、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が徐々に疲弊しますし、インスリンが効きにくいインスリン抵抗性という状態になります。インスリン抵抗性の原因の一つは肥満ですので、糖尿病と肥満は切っても切れない関係です。

では、糖尿病治療のポイントはというと、早めに介入することです。
ここに目をつけているサービスがLivongoです。

Livongoのサービスとは

Livongoの 顧客は個人は少なく、主には会社やpayor (ペイヤー、医療保険機関)などで、Fortune 500社のうち、30%以上(Microsoft, Merck, PEPSICO, SAP, TARGET etc)がLivongoのサービスを使用しています。

Payorって何?という方も多いと思いますが、アメリカは日本と違い国民皆保険制度ではありません。メディケア、メディケイドなどの公的なものや民間の医療保険機関等があり、加入しているpayorによって、使える薬や保険内で受けられるサービスも異なります。
日本で例えると、福利厚生サービスのベネフィットワンが近いイメージかもしれませんね。加入している会社がある一定数あり、そこに入っていると、様々なサービスが受けられるという感じです。もし、未保険で数日入院するとすぐに数百万というびっくりする医療費がかかるのが、日本とは大きく違う部分です。

ちなみに、製薬会社ではアメリカやヨーロッパにはMarket Accessという部署があります。自社の薬をそれぞれのpayorにリストに入れてもらうように交渉する仕事ですね。ぼくの所属するmedical affairsに勝るとも劣らない重要な部署のようです。

話はそれてしまいましたが、Livongoのサービスを見てみましょう。主に定額制のサービスとなっており、クラウドに接続されたデバイスとテストストリップ(血糖値を測るチップ)、データサイエンス、パーソナルコーチを組み合わせたテクノロジープラットフォームで、糖尿病、高血圧、体重管理、メンタルヘルスなどの慢性疾患を管理するためツールを提供し、34万人以上の会員がいます。

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この34万人という人数が多いか少ないかは人によって感じ方は違うかもしれませんが、ちょっと少なく感じますよね。
これは、会員のほとんどがアメリカであることが原因、つまりグローバル化が課題となっていました。では、もう少し細かくどのようなサービスをしているのかについても紹介したいと思います。


1. 糖尿病

糖尿病は先ほどお話した通り、進行性の慢性疾患で、早期介入がポイントです。
HbA1cという血糖値の平均値のような指標がゴールデンスタンダードなわけですが、6.5%以上で糖尿病、7%以上で細小血管障害(網膜症、腎症、神経障害)のリスクが高くなるため、7%以下が一般的な目標です。
昔は低血糖の起こる薬(インスリンやSU薬)で低血糖を起こしてでも下げる時代でしたが、時代は変わり、なるべく低血糖を起こしにくい薬剤で質を考慮したコントロールをする時代になってきています。

では、糖尿病患者さんはどのように治療をされているかというと、日本では1-2カ月に一度、クリニックまたは病院でHbA1cなどを検査をして、医師と面会して、薬をもらって、と国民皆保険を存分に活かした治療ができるわけですが、アメリカではそうともいきません。アメリカでは、通常、プライマリーケア医(総合医)に先にかかり、ここで様々な治療が行われます。また、診察の頻度も一般的に3-6カ月ごととなっており、細かなケアができないのが難しい点です。さらに悪くなると、専門医に紹介されます。

このような背景でLivongoはどのようなサービスを提供しているかというと、Livongoオリジナルの血糖測定器があり、これがスマホと連動しているというところがまず大きな特徴です。

そして、家族だけでなく、CDE (Certified Diabetes Educator; 糖尿病療養指導士)という糖尿病指導のエキスパートともこの血糖値が共有されます。
もし、血糖値が非常に高い場合、測っていない場合などではCDEから連絡が来ます。ここはAIがしっかり活用されているようです。
そして、24時間365日CDEが患者のサポートが可能な体制(電話でのアポ、email、テキストメッセージ)を取っていることがLivongoの素晴らしい点だと思います。
例えていうと、ライザップの緩い感じでしょうか。患者さんによっては、血糖値が高いとCDEさんから連絡が来るから、頑張って血糖管理をしないと、と思う方もいるかもしれませんね。

では、Livongoのサービスを受けるとHbA1cはどうなの?ということですが、ベースラインからHbA1cが0.8%低下しているということが投資家向け資料にありますし、いくつかの論文を見てみましたが、良い結果が得られています。0.8%ってどの程度、と言いますと、最も日本で使用されている経口糖尿病治療薬のDPP-4阻害薬よりも若干良いぐらいのデータです(DPP-4阻害薬は日本人の方が効きやすいのですが、欧米では0.5-0.6%程度です)。

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まとめると、AIを活用した機器を使用し、またCDEと常に連絡が取れる体制を取り早期に糖尿病に介入することで、進行性の病である糖尿病をうまく管理する仕組みができています。

2. 肥満症

そろそろ疾患のお話は飽きてきたかと思いますが、簡単に肥満についても紹介します。

体重については、Livongo専用の体重計、こちらもスマホと連動しているものが送られ、AIを活用した食事指導、運動量の管理などがアプリを介して実施されます。
データを見て驚いたのですが、平均7.3%の体重減少がされたという結果です。
抗肥満薬は現在良い薬が開発されてきており、もうすぐ強力な薬が発売予定ですが、上市されている中で最も使用されている薬剤がSaxendaという薬です。
Saxendaでも体重低下作用は5-9%程度ですので、最も売れている抗肥満薬(しかも保険外の場合、アメリカでは月10万円!)と同程度の効果を示しているようです。

Livongoのビジネス

ビジネスについても簡単に触れておきたいと思います。

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2020年Q2では糖尿病患者の伸びがYoY 113%というすごい伸びを見せています。全体の収益でも125%、クライアントの数も75%増加です。

見慣れない数字としてはNPSというスコアがあります。これは0-10でスコアをつけてもらい、その中で0〜6点を付けた人を「批判者」、7・8点を付けた人を「中立者」、9・10点を付けた人を「推奨者」と分類します。そして「推奨者」の割合(仮に50%)から「批判者」の割合(仮に30%)を引いた数値(50%-30%=20%)のことを指します。この数値が64と見たことのない数値を示しています…
つまり、サービスとして非常に満足度が高いことがわかります。
さらに糖尿病患者さんの場合、医療費が約2,000ドル節約になるということもポイントかと思います。

Teladocのサービスとは

Teladocは2002年にテキサス州ダラスで創業した会社で130以上の国でサービスを展開し、2700万人以上の患者を持っているtelemedicineの最大手です。特徴としては、Teladocのビデオ会議ソフトやアプリを介してリモート診療をしているということですね。このようなサービスは複数のサービスを病院は使いたくないので、先に入れたもの勝ちというサービスと言えるかと思います。下図に示す通り、多くのHealth Systems(大きな拠点の病院など)とすでに提携をしています。

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Livongoの前にも多くのM&Aを実施して大きくなってきた会社で、2013年にConsult A Doctorを、2015年にBetter Help、2017年にBest Doctors、2018年にAdvance Medicalを買収しています。特にAdvance Medicalは世界的に展開していた会社のようで、この買収により、ラテンアメリカ、ヨーロッパ、アジアへ進出し、グローバル企業になったようです。契約している医師も50,000人を超えるようで、医師側にとっても、時給換算すると、実地のクリニックや病院よりもTeladocの方が給料が高くなることもベネフィットとしてあるようです。

COVID-19前のtelemedicine

TeladocはCOVID-19の恩恵を受けた会社ということは当然ですが、アメリカではこのhelemedicineに対する規制が大幅に緩和されたことがTeladocにとってビジネスの機会が大きく増え、今後もこの流れはとまらないと考えられています。
下図がまとめとなりますが、以下のような変化がありました。

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1. これまで、クリニック等まで行かないといけなかったのが、家からでもtelemedicineが可能となった
2. Telemedicineに使わないといけない機器もセキュリティーの保証されたもののみであったが、スマホもOKとなった(Teladocのアプリが使える)
3. これまでビデオ会議が必須であったが、音声のみでも保険償還されることになった
4. これまで初診はダメだったが、初診もOKになった
5. 患者負担分の制限がなくなった(簡単な診療以外にも乗り出せる)
6. 資格のある医師のみがtelemedicineが可能であったが、すべての医師が使えるようになった

ものすごい大きな変化ですよね。これはもう、時代が変わったと思って良いかと思います。COVID-19のワクチンができても、一度Teladocのプラットフォームを使用した患者さんはかなりの割合で使い続けるでしょうし、一部の疾患では、主にtelemedicineが主流とまでいくこともあるかもしれません。
その理由としては、製薬メーカーや医療機器メーカーもdegital healthに大きく投資をしているからです。わざわざクリニック、病院に行かなくても様々なツールを用いて患者さんをサポートできる体制はこれからどんどん進みます。業界にいる人間として、この流れは加速していくと確信しています。

Teladocのビジネス

では、Teladocのビジネスはどうでしょう。2020年Q2のデータによると、収益はYoYで85%、課金のメンバーシップもアメリカで92%増と絶好調ですね。上記で示したCOVID-19でのtelemedicineでの変化を享受した形と言えますね。

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さらに、10月には、精神疾患にも進出するとの発表がありました。
細かなことは記載がありませんでしたが、上記で記載した通り、Livongoにもメンタルヘルスのプログラムがあります。精神疾患は非常に大きなマーケットですが、ここにもTeladocとLivongoのシナジーが期待できると考えられます。

合併のシナジー

では、TeladocとLivongoの合併によって、どのようなシナジーが期待できるか。これは、Form S-4のRecommendation of the Teladoc Board of Directors; Teladoc’s Reasons for the MergerおよびRecommendation of the Livongo Board of Directors; Livongo’s Reasons for the Mergerからいくつはピックアップしてみたいと思います。

1. the belief that the combined company will be a leader in virtual health with differentiated scale and scope across primary, critical, chronic and complex care, on a global basis(当社は、今回の合併により、プライマリーケア、クリティカルケア、慢性期ケア、複合型ケアの各分野において、グローバルに差別化された規模と範囲を持つバーチャルヘルスのリーダーとなることを確信しています。)

2. the belief that the combination will join two highly complementary companies to create a comprehensive platform for virtual care delivery that will address customer demand for integrated solutions across the continuum of care;(補完性の高い2つの企業が合併することでバーチャルケアデリバリーのための包括的なプラットフォー ムが構築されることになると考えており、患者ケアの連続性の中で統合されたソリューションを求める顧客の需要に応えることができると確信しています。)

ぼくはここがすごい重要だと思っています。後ほど、この例を紹介します。

3. the belief that the combined company will deliver “whole-person” care as a comprehensive partner with the patient and health system, driving better health and cost outcomes and fundamentally changing how patients access and experience healthcare;(当社は、統合された企業が、患者さんや医療システムとの包括的なパートナーとして、"whole-person "ケアを提供することで、より良い医療とコストの成果をもたらし、患者さんの医療へのアクセスと体験の仕方を根本的に変えることができると確信しています。)

4. the expectation that the combination will deliver enhanced value to stockholders and generate approximately $100 million of annual gross run-rate revenue synergies by the end of the second year following closing of the merger, reaching approximately $500 million of annual gross run-rate revenue synergies by 2025, and achieve annual gross pre-tax run-rate cost synergies of approximately $60 million by the end of the second year following closing of the merger;(この合併により、株主の皆様には、合併後2年目までに約1億ドルの年間総ランレート収益シナジーが創出され、2025年までに約5億ドルの年間総ランレート収益シナジーが達成され、合併後2年目までに約6,000万ドルの年間総ランレートコストシナジーが達成されることを期待しています)

5. the belief that the merger will provide a strong foundation for cross-selling opportunities, because client overlap was less than 25% at the time of the merger negotiations;(合併交渉時には顧客の重複は25%未満であったため、合併はクロスセリングの機会に強力な基盤を提供すると信じている)

6. the ability to leverage Teladoc’s existing global distribution channel to expand Livongo's solutions outside the United States;(Teladoc の既存のグローバルな販売チャネルを活用し、Livongo のソリューションを米国外に拡大することができます。)

この中で、ビジネスの観点では、Livongoのサービスをグローバル展開できるという点が非常に大きいと考えています。
Livongoはアメリカ国内だけでも非常に強い成長率を示していますが、ヨーロッパも糖尿病、肥満をはじめとする生活習慣病に苦しんでいる患者さんが多いですし、医療経済学が進んでいるのがヨーロッパですので、総コストとして、医療費削減が期待できるLivongoの受け入れの素地がすでにできているのではないかと想像しています。

また、患者ケアの連続性、whole-personケアという言葉が出てきましたが、Teladocのプレゼン資料を用いて見てみましょう。

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1. Teladocでプライマリーケア医と診察し、高血圧を指摘
2. 個人のプランを作成し、Livongoのサービスを使って、血圧をサポート
3. 医師はLivongoのデータを用いて薬を処方
4. Teladocの栄養士さんと面会
5.副鼻腔炎を発症、Teladocの医師にOTCの薬の高血圧へのリスクについて聞き、薬を処方してもらう
6. 今度はメンタルでTeladocへ、Livongoのサービスでフォロー
7. 最終的には全体のコスト削減に寄与

ここで重要なポイントはシームレスにTeladoc, Livongoのサービスを使えること、さらにLivongoのサービスを入れることで、Teladocの医師が自分が見ていない間の患者データを入手し、診療に使用できることができることです。

合併後のマーケットサイズ

最後にマーケットサイズですが、USのみで121Bという非常に大きなマーケットであることが書かれています。ここにはヨーロッパをはじめとするグローバルマーケットではなく、あくまでもUSのみのマーケットですし、さらに言うと、新たに展開する精神疾患については記載がありません。

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実際にどのぐらいのマーケットサイズになるかは想像できませんが、今後も次々と両社のシナジーを生かしたサービスを展開してくると思いますし、この分野では独走状態に入るのではないかと期待しています。

以上となります。
この記事を書いている2020年11月14日時点では、Teladocの株価はワクチン成功の期待からやや低迷していますが、安くなれば少しずつ買い増しすべき長期保有に適したビジネスを展開している会社ではないかと思います。

それでは、今回の記事はここまでにしたいと思います。

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最後に、Teladocのnoteといえば、nekoさんのものが秀逸ですので、ぼくのnoteの後に読んでいただけると、さらにTeladocとLivongoのビジネスが深く理解できるかと思います。

それでは、また次回の記事にもこうご期待!


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