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三条は四条で二条も四条

昔から、場所と場所の間の距離感がおかしいと言われる。地元では、車10分圏内の場所は全て同じ場所、と捉えてしまう。祖父の家から数キロ先も、祖父の家のあたりと言う。車に乗っていたからそういう感覚なのかも、と思っていたけれどそうでもないらしい。

関西に来てもうすぐまる3年。京都市内は碁盤目状になっており、横の線を◯条と表す。繁華街と呼ばれるあたりは二条〜四条あたりで、1条(という単位なのかはわからない)あたり、1キロ弱なのだが、それも同じと捉えてしまう。三条の店は当たり前のように四条だと認識するし、二条だって私にとっては『ほぼ四条』だ。

歩くしか足がないから土地名で場所を認識していないのもあるけれど、感覚と概算でしか物を捉えていないのだのいうことを痛感する。


数日前、逃げるように仕事納めをした。あまりにもハードな、精神的疲労が溜まった1年だった。仕事自体もハードになったのだが、特に下半期は孤独で闘い続けたように感じる。

業務量と業務内容が身の丈に合わない。どれだけ頑張っても真っ当な評価をされない。これはあなたの成長のためになるからと言われても助けを乞う術がなく、誰にも相談できない。信頼していた職場の人はこの1年で5人、私のそばからいなくなろうとしている。仕方のないことだわかっている。けれど、今の私にはあまりにも過酷な時間だった。

自分や、自分を頼ってくれる後輩を守るために誰かに噛みついてしまう。前述した通り私は大枠でしか仕事を捉えられていないので、その噛みつきが真っ当でなかったり、うまく言語化できないまま相手に伝えてしまったりしている。当たり前だが相手はエスパーでもなんでもないので、私がただ不機嫌な女に見えているだろう。誰かや自分を守ろうとして、誰も守れていないというようなことが増えた。

『あの人への態度が冷たいの、まるわかりだよ』とこの1ヶ月で何度か言われた。わかっている。自覚しているのに、いざムッとなるようなことを言われると、抑えられない。自分の中にある負の感情がまっくろくろすけのようにボコボコボコ!!!と沸騰して喉元まであがってくる。おさえなきゃ。今私はイライラしているだけで、何時間かこの人のそばから離れたら落ち着ける。この人が悪いんじゃない。でも今目の前に話し相手がいて逃げることができない。出てくる声色は冷たく尖っていて、だけど周りは私の葛藤なんて知る由もない。

会社のカウンセリングで吐露をしつづけて、先生にひとこと『がんばりましたね。つらかったですね』と言われると堰を切ったように涙が出てくる。この数ヶ月、目の前で泣けるような人もいなければ泣くことも許されず、『みんな頑張ってるから自分のつらさなんて大したものではない』とおさえる。常にオンの状態が続き、冬休みも毎日仕事の夢をみている。

多分、限界を超えているし休んだ方がいいのだろう。パフォーマンスへも心身への影響も出ている。一人暮らしのため誰にも会えない土曜の夜が1番辛い。今月は会社の滞在時間が12時間を超える日がほとんどだった。どうやったら辞められるか休めるかばかり考える。懇意にしている人に相談したが、「今が頑張りどきやから!」と言われ終わってしまった。その人が私の状況を今すぐにどうにかできるわけでないということ、その人なりに励ましてくれようとしていることはわかっているのだけど、絶望した。休んでいるのに定期的に職場への懺悔の気持ちが増す。

この先に得られるものが権威や地位なのだとしたら今の私はそんなものいらない。これ以上性格が悪くなって、周りに嫌われて、私は何のために労働をしているのだろうか。真っ暗なリビングと給湯をしている浴室の間の僅かなあかりで夜ご飯を食べ、そんなことを考えることが頻発した。

然るべきところにいけば1ヶ月くらい休める気もするが、あけてしまうことになる仕事の穴を考えたら、きっと気が休まらないだろう。あともう少しと考えながら延命治療のように仕事をするしかない。




この一年は、恋のようなものと失恋のようなものを5、6回した年でもあった。学生だった頃に比べて、燃えるような長続きする恋心を抱くことはなくなった。対して、これが恋ということとできるのかもしれない、やこの気持ちがそのうち恋になるのかもしれないというやんわりした想いを抱くことが増えた。選ばれないことも増え、スーっと切れ味のいい包丁で切られたような傷がいくつも心に残っている。

そのどれもが結果的には成就せず、クリスマスと呼ばれる週末は7000円のマッサージを受けた。もちろん相手との相性もあるだろうが、瀬尾まいこ『夜明けのすべて』内のワンフレーズが頭に残る。

今の私が誰かと生活を共にして、同じように思えそうにはない。一人でいる今、もっとやるべきことがある気がする。だけど、何をやり遂げたら私は、進もうという気持ちになるのだろうか。目標もなく生きてきたせいか、見当さえつかない。このままではだめだ。それだけはわかっていた。

夜明けのすべて/瀬尾まいこ

職場にいるときと家で溶けているときの自分が異なりすぎて、そのどちらも本当の私ではない気がして、そんなことを考えていると誰とも付き合える気がしない。あなたのせいじゃないからね、と言いたい。私の責任だ。


強いて言うなら、この一年で7キロ(多分)ほど痩せたことは嬉しい成果だ。服薬していた薬の処方が終わり、夏から冬にかけてほぼ人生初めての本格的なダイエットをして(気持ちが乗らないことからピラティスをサボることが多々あったが)、まだ写真を撮られるのは躊躇いがあるが、他撮りの写真を見てギョッとすることは減ってきた。


年明けから年度末までの3ヶ月は、きっと血反吐を吐くような時間になるだろう。自分を守るか、周りを守るか、そのどちらも求められることはわかりきっている。

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