またまた今さらになりましたが……浅草ロック座 2023年9月公演「まつろわぬもの」第一期の話

更新を期待されている読者など想定していないのですが、たまに当該シーズンに踊られていた踊り子さんがいいねを下さることがあるので、そうしたかたに遅延のせいで感想が届かなくなってしまったのならそれはとても悲しいと思いつつ、前回公演の話を今さらさせてください。


1景……の前に各演目のテーマを暗示した長めの映写があって、その後「まつろわぬもの」とタイトルバックが入り、幕が上がる。珍しいといえば珍しい演出。
メインは桜庭うれあさん。ベリーショートがカッコいい! 先述のとおりモチーフはクモですが、衣装の雰囲気は忍者っぽくもある。
赤×黒の矢絣柄がイカしたアクセントに。
群舞は虹歩さん、ストリップデビューの白橋りほさんとダンサー陣が参加。ダンスの雰囲気もカッコいいというか、たくましいというか。手を大きく広げる動きは確かにクモっぽく、アクティブなダンスがいい。
ベッドショーはフード付きの袖なしドレス。これもカッコいい。脱ぐとボンテージで、これもクモからの連想でしょう。今回のうれあさんはクールに誘う感じの表情がなんとも言えなかった。黒くて透けたベッド着に舞台奥からライトが強く当たると、うれあさんの手脚が細いこともあって、黒バックに白い筋が浮かんで最後に綺麗な蜘蛛の巣ができあがる。芸術的……。

2景は虹歩さん。昨年末の「夢音」も2景。トリ、中トリなどではないですが、前回も今回も非常に印象的な演目を舞ってくれています。今回のテーマは古い怪異小説ですが、モチーフと裏腹に(?)衣装はキラッキラ。何だか不思議な仕立てで、普段のポラ館でみるような虹歩さんらしからぬ雰囲気を自分は感じました。浅草ならではだと思った。群舞は途中から真白希実さんが現れてコンビダンスに。キャリアある踊り子どうしの踊りに息をのむ。
その後いちど幕が下りて、映写されたのは……アレは溝■監督の映画でしょうね、モチーフからして。少し流れたあとにベッドショーへ。ベッドショーは圧巻。まず目に入るのが虹歩さんのカラダそのものの綺麗さ。美しい曲線。そしてポーズ切り。これは今さら言っても野暮なだけですが、手足のしなやかさに最後まで魅了されました。浅草の演出っぽさと虹歩さんらしさとがすごくうまく混ざり合ったような景だと思いました。

3景はアニメーションでは虫モチーフでしたが、出てきたのは……女王様? メインを務める花井しずくさんはニンテンドー担なのでしょうかね。”森”のBGMに、ティアラをかぶった姿はピーチ姫の2Pカラー感もどことなく漂う(今年の正月公演でもマリオやってましたし〈「跳!」①景〉)。
群舞はビビッドカラーの虫たちが現れて(うれあさん、椿りんねさん、白橋さん)にぎやか。幕間映像であとからモチーフを聞いても、やはり登場時の”森”の曲と昆虫採集のくだりは前回の花井さん景からの連想なんだと思う。にぎやかでコミカルながらも、花井さんの舞の美しさは各所に出ていて、見応えあり。
ベッド着は、なるほどこれは楽しい工夫だと感じた、あおむしマラボー。グリーンのオープンブラとパンティもエッチでかわいい。ティアラ残しの演出も◎。
しかし3曲目で曲調が不穏に。そのまま一天にわかにかき曇り、ライトワークで雷が鳴る。女王様がなんとなく(観客に対して)意地悪そうに青虫と絡みあう感じも、こう……オタクガチ勢の気難しさ(ごめんなさい、とともにブーメランだコレ)や女王様の気品を表しているかのようでかわいらしかった。

4景はアニメーションでは武士モチーフ。中トリにふさわしい、ものものしい雰囲気で登場の赤西涼さん。日本テーマの景でもHIP-HOPとはいい選曲。モチーフの人物は東国の朝敵……何かそういう反逆的な泥臭さを1曲目で表現しているのだとしたら、うまいなと思います。なんかハイ&ローっぽさもある。群舞のバックダンサー陣は追手のようで、最後は四方から弓を射られて非業の死……なんて思っていたら前景に続いて雷雨が。これにまぎれて姿を消したらしい、探せ!
舞台袖から出てきたのは群舞までの武家の普段着姿から様変わりも様変わり、将校的な軍服の赤西さん。なんちゅう連想だ……。コートの下はなんと裸。これはエロい。この突飛にも見える連想にも元ネタはちゃんとあり、某小説とつながってくる訳ですが、サイケな音楽の中で哀愁にひたる赤西さんの過剰ではなくサマになっている感じがすごい。おそらく浅草を毎公演見ている人は将校姿に2021年の「祭音」③を思い出すのでは。ポーズ切りは小道具の軍帽を掲げながらでカッコいい。

5景はストリップデビューの白橋りほさんがメイン。真白希実さん、虹歩さん、椿りんねさん、花井しずくさんとの群舞です。今回公演は古今東西の文学作品から取材したものが多いですね。この景は5人の女の物語。踊りのバックボーンが異なる5人の振りの細かな違いが出ているのがいい。花井さんのバレエ経験者であることを強く意識させるグラン・ジュテっぽいジャンプや、ポラ館では絶えず新しい音楽を取り入れて踊る虹歩さんのダンサブルな動きなど、振り付けじたいは基本的にみんな同じだけど、各人の踊りに個性があり、その個性がまた演目上のキャラの違いも生んでいるように見える点がいい。モチーフを現代JKに翻案し、セーラー服に振袖をくっつけた凝った衣装も見どころ。
白橋さんはストリップにミュージカルにと幅広い分野で活動しているようで、さらに特技がダンスとのこと。おそらく客前に出ることや踊ることには慣れているのでしょう、今回公演でも2景ぶんの群舞含めてしっかり踊られていて、完成された新人、という感じ。ベッドショーもキレがあっていける。あとは場数を踏んでロック座のレギュラーメンバーとして名を連ねるだけ、と思っていたらポラ館も決まったとか。また浅草で見られる日を今から楽しみにできるってことですね!

6景は椿りんねさん。能の作品がモチーフの演目。群舞は赤西涼さんとのコンビダンス。舞台中央にどかっと置かれたスモークマシン。大掛かりな工夫です。ふたりが踊っている中、ときおりスモークが舞台中央を覆い隠し、中に隠れていくりんねさん。入って出てくるたびに、りんねさんのビジュアルの”鬼度”が上がっていった気がするのですが、私の見間違えではなかったはず……? だとすると面白い演出。
りんねさんのベッドショーは気迫の一言。今回公演中でもいちばんの張り詰めた空気を作り出していて、誰も気軽に拍手や手拍子ができる空気ではない。裸で人を怨むという行為、ある意味狂気じみているし、盆の上で血をすする演出には鳥肌が立つほどだ。ポーズ切りに美しさではなく、限りなく純粋な狂気が込められている演目は、数年浅草を見てきた中でも他に無かったんじゃないか。踊り子とお客さんの真剣勝負という感じがして、個人的にこの景は大好き。

ラストの7景です。メインは真白希実さん。この景もよかった。登場からたくましさ(体つき、ではなく存在というのか、存在感というのか)を感じる真白さん。カラフルに舞台映えさせながらも、北方民族のイメージがちゃんとわいてくる衣装に合わせて、壮大な群舞が繰り広げられる。マイノリティの連帯、というようなイメージがとてもわかりやすく提示されているのが感情移入をしやすくしているのかも。ダンサーと真白さんとが1対1で視線を交わすシーンが散りばめられていて、頼れるリーダー像が浮かび上がってくる。これだけでも十分にお腹いっぱいになれる群舞。
真白さんのベッド着は、群舞からちょっと露出は増えているが、”戦う女”というイメージはしっかり引き継がれていて、こちらもカッコいい。エロがストーリーの邪魔をし過ぎず、かつストリップ的な見せ方はちゃんとできる、ちょうどいい露出度なのでは。あと、個人的にはヘッドバンドがすごく似合ってるとも感じた。ポーズ切りは予備動作にすごく余韻を感じられる。言うことなし!



ところで、次回は……橋下まこさんがトリをつとめているみたいだ。こういう、いわゆる内部昇格的な現象に立ち会ったことがないので、いまからドキドキしています。育成シミュレーションゲーだったら表エンディングが流れてany%クリアの判定が出るやつ……! トリを務めてきたかたがたの卒業が相次いでいるので、こういうことにもなるのだなあ、と感慨深いです。楽しみ。

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