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オレンジ空の向こう側

作:ハリー

mission1 偵察

 こんにちは、おはよう、それとも、こんばんはでしょうか……?ようこそ、ペルーシュブントの世界へ……
この世界には⼤きく分けて7つの物語があります。出てくるのは7体のぬいぐるみとその仲間たち。今⽇はそのなかのひとつ、⼈間が住む家を転々と移動しながら、ある任務をこなすペルーシュ達の物語をのぞいてみましょう…
おや、あなたもこの物語に興味がおありで?ならばいっしょに⾏きましょうか。わたしの名前は地の⽂。ふふふ、地の⽂が意思を持って話しているのが珍しいですか?気にしなくても⼤丈夫です。この世界はなんでもありなのですから。そうそう、あと⼀つ⼤事な約束事が。
決して声は出さないでくださいね……?声を出すと後々⼤変なことになりますから。
では参りましょう――

「おかえりなさい!お⽗様、お⺟様!」
「ただいま、ちゃんとお利⼝にしてた?」
「うん!あ、お⽗様、カバンはぼくがもつよ!」
「……いや、⾃分で運べるよ。ありがとう」
ふふ、どこにでもいるような家族構成ですね。⽗親、⺟親、⼦供……⼦供は⼆⼈いるようですね。向こうの部屋で寝ています。家政婦さんまでいるようです。⼤きな家ですからね、いてもおかしくありません。
「ホルスのお散歩もお世話も、ちゃんと⼀⼈で出来たのね」
ホルスという名の⽝もいるようです。……⾒る限り、番⽝と⾔えないくらい⼈間に懐いています。室内⽝だとなおさらですね。
「いつもちゃんとお留守番できてえらいわ。お⼟産いーっぱい買ってきたわよ」
「ホントに!?やった――!」
やけに荷物が多いと思ったらお⼟産もあったのですね。……おやおや、元気にお⼟産を開けるがきんちょですね。⽚づけるのが⼤変ですよこれ。
「……わぁ、なにこれ!?いっぱいぬいぐるみが並んでる」
「あら、こんなもの買ったかしら……?記憶にないわ」
……どうやら、あのぬいぐるみたちが今回の主⼈公のようです。7体のぬいぐるみがガラスケースに並んで座っているのは、なんだかシュールですね。
「この⼦たち、ぼくの部屋にかざってもいいよね?」
「ええ、いいわよ。……変ね、やっぱりレシートにも書いてないわ。あのぬいぐるみ、貴⽅が買ってくれたの?」
「僕があんな無駄なもの買うわけがないだろ」
……おっと、彼らがあの⼦供と⼀緒に2階に向かいますよ。⼀緒についてゆきましょう。
「うーん、かざる場所はとりあえずここでいっか」
空いている棚の真ん中にガラスケースを置き、ガラスケースから彼らを取り出してベットに並べ、何かを考えているようです……
「やっぱ名前が必要だよね。うーん、どうしよっかなぁ」
……そのあと3分くらい時間をかけて7体のぬいぐるみ
に名前をつけていくわけですが、数も多いので私から簡単に説明させていただきますね。
左から双⼦の⻘いペンギン2体、先ほどのペンギンより少し⼤きい⻘いペンギン、某映画に似たサメ、⾓がないキリン、ピンクの服を着たチワワ、緑甲羅のカメ。
……その⽅たちに付けた名前。こちらも左から「ピーコ」「ピキチ」「ピチロー」「ジョー」「リン」「ミルキー」「カメ汰」以上7体の命名式。⾒届けさせてもらいました。
「へへ、これからよろしくね!」
おやおや、ぬいぐるみ遊び……やりたい放題ですな。彼らがこちらを⾒て何かを訴えているような気がしますが、ここは⼤⼈しく退散しましょう。そっと⾒守るのも⼤切なことですよね……?フフフ
さぁ、先ほどの場所に戻りましょう。おや、もう間取りをお忘れですか?ちゃんと思い出してくださいよ――
「ちょっと貴⽅、帰ってきたばかりなのにもう飲んでいるの?」
「いつなにを飲もうが僕の勝⼿だろ」
「まだ荷物も⽚づけてないのに……もぅ」
帰ってきたばかりで、お⼆⼈共少々気が⽴っているようですな。ピリピリムード……こういうのは第三者が⼀番居⼼地、悪いんですよねぇ。おや、さっきの⼦供が⼆階から降りてきたみたいですね。
「ねぇ、お⺟様。昨⽇学校で描いた絵があるんだけど」
「ごめんね、いま荷物の⽚づけで忙しいの。後で⾒せてもらうわね」
「……うん、わかった!」
「……ふぅ、⽚付いたわ。あら、起きちゃったみたいね」
隣の部屋から泣き声が聞こえてきますね。まだ幼⼦のようです。
「貴⽅!お酒を飲みながらあやすのはやめてって何度も⾔ってるでしょう!」
「君が仕事で疲れてるだろうから、僕が代わりに⾯倒を⾒ようと思っただけさ。まぁ、優秀な君は僕のサポートなんかなくてもすべて⼀⼈でこなすんだろうけどね。仕事も家事もさ」
「……そんなことないわ。貴⽅がいるから今⽇までを幸せに過ごすことができているのよ。さぁ、お酒を置いて」
「……すまない。僕は……」
「えぇ、わかってるわ。貴⽅は⼣⾷の準備を⼀緒にお願いね」
「……あぁ、わかった」
ふむ、どんな家族でも⼤なり⼩なり問題を抱えていますが、この家はなかなか複雑そうですね。くすぶった⽕種が、やがて⼤きな炎を⽣むこともある……まぁ、だから彼らが送り込まれたんでしょうけど――

さて、これで「昼の部」は終わりのようです。昼の部、というのは⼈間たちの⽣活時間のことです。⼤抵の⼈間は昼活動し、夜眠る習性をもっていますが、彼らペルーシュたちはその逆。昼はぬいぐるみのままで動けませんが、夜は任務に向けて意思をもって動き、活動します。ここからは「夜の部」です。彼らが動き出しますよ……


mission1 起動

 流⽯に、暗くなると眠くなりますね……ほら、あなたも起きてください。ペルーシュ達が動き出す頃ですよ。
……最初に動き出したのはキリンのぬいぐるみ。名前は……「リン」でしたかね。7体もいるので覚えるのが⼤変ですよ、フフフ……
「うーん、ようやく動けるわ……あ、今回の⼈間はちゃんと全員に名前を付けてくれたみたいね。『リン』か……いい名前ね」
私から補⾜です。名前を付けてもらえなかった場合は、⾃分たちで考えてもよいことになっているみたいですよ。⼈間ありきのぬいぐるみですからね。……続いて動き出したのはチワワのぬいぐるみ。名前は――
「んもう!頭にきましたわ、あのガキ!今度やったら滅却してやりますの!」
「……起きて早々物騒ね。貴⼥は確か……ミルキーね?」
「いいえ違います。わたしくの名前は気⾼きプリンセス!7⼈のしもべを従える令嬢ですの」
「そう、よろしくねミルキー」
「スルーしないでくださいまし!」
彼⼥は確か昼間、⼦供と⼀番『楽しく』遊んでおられましたな。⼀体なにをして『楽しく』遊んだのかは、ご想像にお任せしますよ……
彼⼥たちが話している間に、他の⽅も動き出したようですね……
「ジョー、ジョー」
「あ、また⼀緒のチームだねぇ、よろしく。君はどこのチームでもだいたい名前が『ジョー』だから覚えやすいよ」
「ジョ」
「そんなに僕の甲羅は噛み⼼地がいいのかい?いいよ、好きなだけ噛みなよ」
「ジョー!」
某映画のサメに似た「ジョー」と、緑の甲羅の「カメ汰」ですね。⽢噛みにはみえないほど勢いよく噛みつかれてますが、当⼈の表情を⾒る限り痛くはなさそうですね。流⽯は万年⽣きるカメの甲羅……ぬいぐるみとはいえ強度はかなりのものと推測します。
「あら、新⽶の⽅々はずいぶんとお寝坊さんですのね。ジョー、起こしてさしあげたらいかが?」
「ジョ?」
「ダメだよぉ、君は加減を間違えちゃったらみんな永眠しちゃうから」
「ジョ……」
「うーん、初⽇からこれじゃペルーシュの名が泣いちゃうわね。いいわ、私に任せて」
リンの頭上に魔⼒が集中していますね。あの魔法は、雷を主体とするもの。これはキツイ⽬覚まし時計になりそうですよ……新⼈の⽅々には同情します。
「さぁ、起きて」
……稲妻が⾒事に命中しましたね。ものすごい⾳と光でしたが威⼒は抑えているはずです。チームメイトなのですから、おそらく……
「おはよー!すっごく寝た気がするけどなんか気持ちがいいぜ!」
「おはよ!確かに頭はスッキリしてるけどなぜか⾝体が痺れているような……ま、気のせいかな!」
「ぶっ!お前⽑が逆⽴ってるぞー!」
「そーいうアンタだって!」
元気が取り柄の双⼦ペンギン、と勝⼿に呼称しときましょう。名前は「ピーコ」と「ピキチ」。先ほどの会話でもわかるように彼らはペルーシュのなかでも新⽶のようです。
「おはよう、そしてよろしくね。私はリン」
「不本意ながら、ミルキーですわ」
「ジョー」
「カメ汰っていうよ、よろしくね」
「よろしくお願いしまーす……ってえっ!?ピ、ピーコ!!この⼈たちオイラ知ってる!」
「知ってるもなにも有名なペルーシュばっかりじゃないの!すごいチームに⼊っちゃったね!アタイきんちょー!」
「元気がいいですわね、うらやましい限りですわ」
「あ、⾃⼰紹介がまだなのにごめんなさい!オイラはピキチ。とこっちが妹のピーコです!改めてよろしくお願いしゃっす!」
「ちょっと!双⼦なんだから妹とか関係ないですから!」
「ふふ、敬語なんて使わなくていいわよ。私たちはチームなんだから」
「にしても、『雷帝』『⼥帝』『破壊神』『守護神』と⼀緒のチームなんて、みんなに⾃慢できちゃうなー!」
「そんな⼆つ名もありましたわね。⼥帝というほど年増じゃありませんのに、付けた⽅に⽂句を⾔いたいですわ」
「ジョー」
「へぇ、ジョーも気に⼊ってるんだ。僕も守護神ってのは気に⼊ってるよ。カッコいいもの」
みんな⼀⻫に動き出すとにぎやかになりますね。わたしたちのしゃべる枠がなくなってしまいますよ。
「さて、これでみんな⾃⼰紹介は終わったかしら?」
「ん?まだ動いてないやつがいるぞー?」
……あの稲妻を受けて起きないとは、どういう⾝体の構造をしているのでしょうかね。驚きです。
「おーい、起きろー?みんな待ってんぞー」
「同じ⻘いペンギンだけど、アタイたちより⾝体は⼤きいね」
「キュピ!!」
「うおっ!」「きゃあ!」
動かないと思っていたものが急に鳴いて動き出すのは、とても⼼臓に悪いですね。ひっくり返って死んだフリをするセミに似ていました。
『誰がセミだゴラァ!』
……おや、わたしたちの声が聞こえるのですか?地の⽂が話しているだけでも不思議なのに、これまた珍妙な⼒ですね。
『いててて、ずいぶんと⼿荒な起こし⽅してくれやがって』
起こしたのはわたしたちではありませんよ。あなたと同じ世界にいるペルーシュ達です。
『あ、おまえら。ガキが俺らで遊び始めたときコソコソ逃げていったやつらだろ!助けてくれって⽬で合図したのに無視しやがって!』
……さあ、なんのことやら。そんな昔のこと覚えていませんね。
『嘘つけ!今⽇の昼間のことだぞ!』
「ねぇ、さっきから誰にキュピキュピ⾔っているの?」
「キュピ?」『あぁん?』
……これは⾯⽩い。どうやらあなたの⾔葉、ペルーシュたちには「キュピ」としか聞こえていないようですよ。フフフ
「キュピピ!?」『マジかよ!?』
「うーん、困ったわね。ジョーの⾔葉は付き合いの⻑いカメ汰が翻訳してくれるけれど、貴⽅の⾔葉はみんな初めてなの。覚えるまでお互い苦労しそうね」
「キュピ……」
「⼤丈夫だよ!オイラ達ちゃんとお前の名前、命名されるとき聞いてたからよ!」
「そうそう!これからジョーとあんたの⾔葉、みんなで頑張って覚えるから!⼼配しないで!」
ええ、わたしたちも名前は覚えておりますとも。これからよろしくお願いしますね、イチローさん?
『お前わざと間違えただろ!俺の名前はピチローだ!』
「不思議な殿⽅ですわね、虚空に向かって話していますわよ……」
「でも、なんだが⾯⽩くなりそうなチームだねぇ」
「ジョー!」
「ほら、みんな集まって。そろそろ仕事に取り掛かりましょう。時間は待ってくれないわよ」
ペルーシュたちには⼈間と違ってある制約があります。それは、夜の間に任務を終わらせること。朝⽇が昇って空が明るくなると彼らは動けなくなってしまうのですよ。だから夜の間に任務を終わらせるのが⽬標になっています。朝⽇が昇る、オレンジ空がくるまでにね……


mission1 決断

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