モノポリーの数学的考察
2021年10月中旬に大森田不可止さんが他界されました。
不可止さんが生前に公開していたモノポリーの考察についてのページを、転載させてもらうことにしました。(勝手にですけどね)
ですが2021年夏に突然見ることができなくなってしまいました。
それで不可止さんに連絡してみます。
ってことで僕の手元にあったわけです。
ちなみに専門学校の講師をしていた不可止さんは、体の不調もあり僕に交代を頼まれたので、そりゃ大変だってことで代わることになりました。
記事は古いですが何かの形で残しておきたかったという思いもありここに残すようにいたします。
途中リンク切れのところもありますが、そのまま残しておきます。(それも思い出)
長いですがモノポリーの興味のある方の一助になればと思います。
ここからが不可止さんの記事になります。
最後にまた僕からコメントさせてください。
「モノポリーにものすごく強くなる本」原稿
1990/9/20 ビジネス・アスキー アスキー・ボードゲーム・アソシエイション編
大森田不可止著
本の文章は、加川良(田中パンチ)さんのリライトが入って、文体が変えられてしまいました。加川さんの上司が、「論文なんだから、ですます調はいけない」と言ったからですが、さすがにリライトされて読みやすくなっています。この文章は、リライトされる以前の文章です。
「いただきストリート」(ファミコン版)作成前にモノポリーを分析した下敷きがあって、原稿の依頼が来てから、シミュレーションによる分析結果を追加しました。
ボード上の確率に関しては、既に同様の研究がありましたが、独自に計算したところ多少の違いがありました。多分、チャンスカードによる移動の取り扱いの違いと思われます。
解析的に計算すると、チャンスカードの推移性は扱いにくいところがありますが、これを無視すると、ゾロ目でチャンスに行きボードウォークに移動後、8を出してまたチャンスに行き、「ボードウォークへ行く」を引くという確率も発生してしまいます。マルコフ解析で扱うと、これは排除し難い。ここでの結果は、数値解析的に得たので、上記の様な場合は除外されています。
データ作成のもとになったプログラムソースは添付しましたが、古いソースでコメントも少ない不親切なものなので、あまり参考にならないかもしれません。あしからず。
ついでに、この原稿の下敷きになったメモも置いておきます。メモなので、誤字脱字間違いはあると思います。→「モノポリー解析」
はじめに
わたしの仕事はテレビゲームのプログラマーでして、モノポリーをテレビゲーム化できないものかと思って、数字的な分析をいろいろやってみました。分析してみると、いままで気づかなかったおもしろい結果などが出てきます。交渉についても考えれば考えるほど複雑で、おもしろい問題がころがっています。それで、いまのところテレビゲーム化の方はライフワークに棚上げして、もうしばらくモノポリーをネタにして、いろいろ勉強してみたい気になってます。でも、いつかはモノポリーのプログロムを組んでみたいと思ってます。そのときは、トミーさん、よろしく。
(その後、スーファミ版の「モノポリー」のプログラム・ゲームアレンジ等手がけさせてもらいました。)
そういうわけで、いままでのところでの分析の結果を見てもらおうと思います。前半は、モノポリーのボード上での確率についてです。ボード上でもっとも入りやすい場所や、ライトパープルよりオレンジの方がなぜ有利なのかについての具体的な理由がわかります。実戦で役にたつデータもありますから、参考にしてください。後半は、交渉について会社経営になぞらえて分析してみましたが、まだまだ不完全です。それでも、いろいろな交渉の考え方の基礎にはなると思います。
サイコロの話
サイコロの確率
モノポリーには、2つのプレイヤーの自由にならない要素があります。その一つはチャンスとコミュニティチェストのカードの並びで、もうひとつがいわずと知れたサイコロの目です。この二つの気まぐれで、モノポリーの展開はいつも違ったものになります。
2つのサイコロで出る目の確率を確認しておきましょう。最小の2と最大の12はそれぞれ1/36=2.78%、一番出やすい7は6/36=16.67%です。この様子を図1に示します。
統計的に言うと、平均が7で標準偏差が2.45の分布をしています。標準偏差と聞いただけで嫌だなと思う人もいるでしょうが、図1のような分布(※1)をするものを扱う時には便利な数です。
例えば、100回サイコロを振って合計が、どんな分布になるかというと、平均が7*100=700、標準偏差が2.45*√100=24.5になります。標準偏差は、平均からその分くらい離れた範囲にだいたい7割が含まれるといった意味だと思ってください(※2)。だから、サイコロを100回振った人のうち約7割は、675から725の範囲にいるわけです。
さて、実際にモノポリーをやっていると、「サイコロの目は本当に乱数なのか?」という疑問を抱くことはありませんか?サイコロをある程度意図的に操作できるように思えたりして、非常にむずかしい局面でするする抜けて勝ってしまったりすると、「やっぱり私は超能力者だったんだ」という気になったり、この目が出ませんようにと念じると必ず出てしまって、「やっぱりわたしは超能力者だったんだ」と思ってしまうことがあります。(そんなはずはないって!)やっちゃいけませんが、例えばゾロ目を出したければ、手の平で2個のサイコロを揃えておいてそっと振れば、ゾロ目はでやすいくなります。人間は複雑な動作を無意識のうちにやってのけてしまう器用なところがあるので、意識していなくても(手が勝手に)そのようなことをやっている可能性も全くないとは言い切れません。
しかし、それでもサイコロはたぶん乱数です。実証することも反証をあげるのも、膨大なデータを集めなければならず、どっちの結果が出ても100%そうだと言いきれないところがこの手の問題のむずかしいところです。本当の乱数というのは様々な偏りも持つものです。それらの偏りに意味を見つけてしまおうとするのが人間の性質のようです。「水道会社から11の目でボードウォークへいくことが多い」とか「私はめったに刑務所に行かないから不利だ」という人がいますが、こういう人は、たまたまそういうことが続いたので、思い込んでることが多いのです。
でも、こういった実害のない思い込みは、モノポリーを楽しく遊ぶには必要なのかも知れません。自分の説を公言して、気合いを入れてサイコロを振れば、ゲームは盛り上がります。私たちの間でも、一時「シャッフル理論」がはやったことがあります。これは、7の目を出したいときはサイコロをよく振って2個のサイコロをよくかき混ぜれば、確率の一番高い7が出やすくなるという、とんでもない理論です。そんなはずがないのはわかっていても、ついつい一生懸命にサイコロを振ってしまうのでした。
(※1)ほぼ正規分布と言えます。正規分布は、平均μ、標準偏差σとして
であらわせます。
(※2)正確には68.27%。また、標準偏差σとして、±1.65σの範囲に90%、±2.58σの範囲99%が含まれます。
モノポリーでの進み方
モノポリーでは、ゾロ目が出るともう一回振れて、3回目のゾロ目で刑務所行きというルールがあります。ゾロ目のでる確率は常に1/6ですから、刑務所行きの確率は1/(6*6*6)=0.46%です。
図2は1回の番で、どこを通過するかの確率を表すグラフです(※3)。ゾロ目でさらに先に行く人がいるので、図1の分布にシッポがはえた形のグラフになります。図には、さらに2回目、3回目でどこまで行くかも、重ねて表しました。このようにすると、このグラフは何回かサイコロを振ったときにそのマスに止まる確率を見せてくれます。例えば、7に止まる確率は18%ちょっとありますが、そのうちの約1%は、2回目で止まる場合です。20あたりから先、つまりだいたいサイコロを振る3回目あたりからは、その場所に止まる確率は平均的に1/7=約14%です。
7から20の間にはちょっとした変動があります。7に大きなピークがあり、16前後にも第二の小さなピークがあります。そして、13に2%程度の落込みがあります。つまり、13マス目はやや入りにくい場所になります。GOのマスから13番目はステーツ、刑務所から13番目はインディアナです。実際、この2カ所は同じカラーグループの中では、止まる確率が少し低くなっています。この分布は、勝負どころでどちらに家を立てるか悩む場合に手助けになるかもしれません。グラフの見方で注意して欲しいのは、13がでにくいと言っても、1回目に6を出したので次に7が出る可能性が低くなるわけではないということです。6進んでしまえば、次の一振りは一回めの確率に従います。
(※3)ゾロ目の場合などは、最終位置だけでなくどこに止まったかの方が重要になるので、それぞれの止まった場所の確率を計算している。
ボード上ので確率
カードの関与
ここで、サイコロ以外の不確定要因であるカードについて、少し考えましょう。まず、チャンスのカードは16枚中10枚が移動のカードです。つまり、チャンスのマスからサイコロを振ることは少ないわけで、セントジェームス、マービンガーデン、バルティックの辺りは、そのせいでほんの少し止まりにくくなります。また、カードによって移動する先のマスは当然お客さんが来やすくなります。特に鉄道は、「リーディング鉄道へ進む」と、「次の鉄道へ進む」が2枚あるので非常に有利になっています。ただし、ショートライン鉄道だけはカードによる有利さはありません。B&Oとショートラインの間にチャンスがなく、「次の鉄道」にならないためです。
コミュニティチェストのカードは、チャンスとも重複している「GOのマスへ進む」「刑務所へ行く」の2枚だけが移動のカードです。コミュニティチェストは、修理費を除いても12枚が直接お金の出入りに関係します。平均では50ドル程度の収入が期待できます。
一緒に書いてある点線は、カードの移動が全くない場合です。実戦では、残りのカードに何があるかがわかっているので、その修正が必要になります。その目安にするためにこの点線がいれてあります。残りN枚のチャンスの中に、その場所へ移動するカードが残されている場合、約(45/N)%も、その場所の確率が上昇します。つまり、「ボードウォークへ行く」のカードが残っているかどうかは、ボードウォークの確率に大きく響いてくるわけです。
止まりやすい物件は、順にイリノイ、B&O、テネシー、ニューヨーク、リーディングで16%前後の存在確率があります。逆に止まりにくいのは、地中海、バルチック、パークプレイス、オリエンタル、ステーツで、11%前後の確率になっています。
オレンジからレッド、イエローの範囲は確率がやや高くなりますが、これは「刑務所」を経由するプレーヤーがいるためです。刑務所は、「刑務所へいく」のマスにに止まる、3回のゾロ目を出す、チャンスとチェストで「刑務所へいく」のカードを引く、の3つの場合がありますから、確率は一番高くなります。一周の間に刑務所へいくことになる確率は、約20%です。そのゲームで「刑務所」が繁盛していれば、オレンジからイエローの範囲は、ますます有利になります。
(※4)マルコフ解析といわれる方法を使います。興味のある人は次の本などを参考にしてください。
渡部隆一著「マルコフ・チェーン」共立出版(ワンポイント双書)
収入の期待値
家を建てる場合を考えましょう。賃貸料は、購入金額の約10分の1になっています。カラーグループを独占すると2倍になり、1軒目の家でさらに2.5倍、2軒目が3倍、3軒目は高額のものほど率が悪く約2倍から3倍になります。4軒目とホテルは200ドル程度の増加に押えられているので、ほとんどのカラーグループで3軒めの賃貸料の増加が一番大きくなっています。
これらの賃貸料と先の確率表から、収入の期待値を計算することができます。それぞれのカラーグループごとの投資金額と、収入の期待値の関係をグラフにしたのが、図4です。横軸の投資額は、その物件と家を定価で手にいれた時にいくら支払っているかを示します。逆に見れば家を売り払うなり抵当に入れるなりして、現金を調達する時は、この金額の半分は保証されます。収入の期待値は、ひとりのプレーヤーがボードを一周する間に支払う平均値です。また、鉄道の値は、チャンスでの「2倍」を考慮していないため、実際にはこの値より大きくなります。
グラフをちょっと見ただけでオレンジの優秀さがわかります。特に、8軒め以降は、ライトパープルと大きな差が生じています。また、ダークブルー、レッド、イエローがほぼ同じ形で、この順で100ドルずつ余計に投資が必要です。
グラフを横に眺めて、ほぼ同じ収入期待値のものを並べてみます。
$80・・ダークパープル/ホテル=ライトブルー/8軒=オレンジ/5軒
=レッド/4軒=イエロー/4軒
$120・・鉄道/4枚=ライトブルー/10軒=レッド/6軒
$140・・ライトブルー/11軒=ライトパープル/8軒=オレンジ/7軒
=ダークブルー/4軒=イエロー/6軒=グリーン/5軒
$200・・ライトブルー/ホテル=オレンジ/8軒=ライトパープル/11軒
=レッド/7軒=イエロー/7軒
$390・・オレンジ/13軒=ライトパープル/ホテル=ダークブルー/8軒
=レッド/11軒=イエロー/11軒=グリーン/9軒
上記の結果を見やすく表にまとめたものが、図5です。確率について延々と書いてきましたが、あまりよくわからなかったひとでも、この表を役立てることはできると思います。5人プレイで、最初にダークパープルにホテルを建てた場合、表の数値は79です。これに、お客さんの人数4(当然あなた自身は勘定に入れません)を掛けた、316ドルが一周当りに期待できる収入です。その場合に、誰かがオレンジに6軒建てると、これは表の値が96なのであなたのほうが不利だと言えます。
この表は、非常にすっきりとして分かりやすい表なので、モノポリーになれないうちは、傍らに置いて参考にしながらプレイをしてみてください。きっと役立つと思います。
実際のゲームでは、それぞれのプレーヤーのポジションが絡んできます。例えば、刑務所の位置からオレンジに入ってしまう可能性はどのくらいあるのでしょうか?1回で入ってしまう確率が41.2%、2回目が6.9%で、約48%の可能性があります。これは、一般的な場合の43%に比較して約5%高い値にすぎません。この場合のオレンジの優位性は、他のプレーヤーよりも先に収入が得られることにあるわけです。
「現在このカラーグループを揃えれば、お客さんは大勢来ているし、一期に優位に立てるかもしれない」という状況では、目先の利益は非常に魅力的に見えます。しかし、そこでカラーグループを揃えようとして、無理な取引をしてしまい、結局ひとりふたりは入ったが、交渉による損害を回復できなっかった、というようなことは、ままあることです。目先に利益がぶら下がっている時こそ、慎重な取引が必要です。そんなときに、上のデータを大いに参考にしてください。
◎ソースコード(mparea.c)
それぞれのカラーグループの特徴
上記の結果から、各カラーグループの特徴を見て行きましょう。
公共会社
収益性は非常に低く、ゲームの流れに関わることは少ない。取引のときの調整用のカードとしては役立つと思われる。現在、このカードの相場は250~280ドルくらいだが、収益の期待値は21なので、回収には約3周分以上の時間がかかる。従って、交渉のタイミングによってはもっと低い相場となることも考えられる。
鉄道
他のカラーグループと違って4カ所あるので、コンスタントに収益を揚げることができる。チャンスカードの出方によっては、短時間に1000ドル以上の収益も期待できるし、家の購入も必要ないので、現金が貯った段階で、破産の危機に瀕しているプレイヤーのカラーグループとの交換がよく使われる勝負手。
ダークパープル
序盤の鍵を握るカラーグループ。500ドルでホテルが建ち、収益の期待値も投資金額に対しては効率的。ただし、パワーが不足していることと、お客さんが来る確率が低いため、十分な収益を上げられないことも多い。その分カードを揃えることが容易だから、早めに揃えられて、他のカラーグループが揃うまで時間がかかれば有利になる。反対にここが揃ったことをきっかけに、ばたばたと取引が始まると取り残される危険がある。また、このカラーグループで勝ちきることはできないから、次へのステップをどう付けていくかがポイントになる。
ライトブルー
投資額が少なくて比較的勝負になるパワーを持つ地域。特に、家を4軒ずつ建てておけば、家の数で他のプレイヤーの牽制もできるし、他のカラーグループへの拡張にも有利なので、収益期待値以上のメリットがある。しかし、やはり「3軒ずつのオレンジ」あたりのパワーには対抗できないので、次のステップを意識しながらの経営になる。
ライトパープル
やや通過確率が低いので、オレンジに近い条件でありながら、あまり一等地とは思われていない。また、経営の方法も、この場所で勝ち切れるかどうか微妙なので、判断がむずかしい。しかし、それなりのパワーを持っているので、侮ってはいけない。オレンジ3軒ずつと、ライトパープル4軒ずつがほぼ同等であることに注意。チャンスの「セントチャールズプースに進む」が出ていないときは、さらに有利。
オレンジ
言わずと知れた一等地。3軒ずつ建っているところに、ひとりお客さんが入れば全部ホテルになってしまうという発展性を秘めているので、十分注意が必要。また、一発逆転を狙うのも可能なカラーグループ。1000ドルほど持っている鉄道の所有者が、タイミングを見計らって勝負に出るような場合に最も有利。特に、刑務所に逃げられても余りデメリットにならない点が強い。刑務所からの3ゾロ・4ゾロで入ってしまう場合もある。チャンスカードでは、「3マス戻る」でニューヨークに入ってしまう場合がある。
レッド
ここも、確率的には一等地であるが、オレンジ3軒ずつと同等の8軒を建てるには、オレンジよりも220ドル余計に必要。2軒ずつ建っているところへ、お客さんがひとりくれば、ほぼ8軒になるので、カードを揃えた上に6軒分、900ドルと少々あれば十分な発展を見込める。しかし、金額が大きいだけに資金がないと、なかなか手は出しにくい。ダークパープル、ライトブルーからの展開として経営するには、イエローと並んで魅力はある。「イリノイに進む」のカードがある。
イエロー
レッドより通過確率は低いが、その分金額が大きいので、収入期待値はレッドとほぼ同じ。従って、経営方法もレッドに近い。
グリーン
金額が大きく、敬遠されがち。しかし、抵当の価値が大きいのと、競売に出されることが多いので、安く買えれば経営に乗り出すことも可。グリーンには、「糸井さんの理論」があり、家を建てるなら6軒までにして、他への展開を模索するべきである。グリーンに3軒の場所ができると、1000ドル近い支出を覚悟しなければならず、他のプレーヤーの危機感が高まり、物件の再編成が進んでしまう可能性が高くなる。このときに、グリーンの所有者は動きにくく、有利さを保持していくことが困難になるためである。経営に乗り出しても発展させるのがむずかしい地域ではある。しかし、その分うまく経営できたときの満足感は大きい。玄人受けのする場所である。
ダークブルー
一番、派手なドラマが見られるカラーグループ。通過確率は低めだが、「ボードウォークへいく」のカードがあり、支払い額も高いので、破壊力は抜群である。独走体制のプレイヤーを狙うには向いている。あたりはずれが大きいので、「ボードウォークで勝っても勝った気がしない」と言う人もいる(親方)。逆に、初めてやったモノポリーで、有利に展開していたのが旗色が悪くなったところへ「ボードウォークへ行く」一発でとどめを刺されてしまい、「納得できん!」と言ってそのままモノポリーにのめり込んでしまった人もいる(中村くん)。また、B&Oから6ゾロで、パークプレイスのホテルに飛び込み、有り金はたき、ピンゾロでボードウォークのホテルにぶち当たった人も知っている(日暮さん)。さらに、あと2、3分で終了と言うときにトップを競っていて、テネシーにいたもんだから、トップめとは関係ないボードウォークに3軒建ててたひとの抵当物件を400ドルで買って、もう2軒建てさせるという、高等テクニックに走り、自分の番で4の目を出し、チャンスで「ボードウォーク」を引き当てた人も知っている(三浦くん)。なんにせよ、ドラマの多い場所である。
シミュレーション
実際のゲームの序盤をシミュレートする
ここまで、一般的な確率分布で話を続けてきましたが、例えば、自力でカラーグループを独占する可能性はどの程度あるのか、とか、サイコロを振る順番による有利不利はどの程度あるのだろうか、といった疑問に答えるには計算が複雑になってしまいます。そこで、序盤だけコンピュータにゲームをやらせてみることにします。コンピュータは、サイコロを振って駒を進め、買える物件は買ってしまう。刑務所からはすぐでる。という、決まりのとおりに、買える物件がなくなるまでゲームをすすめます。交渉は一切しません。このゲームで、独占が生じたか、最終的にいくつの物件が買えて、いくらの損得があったかを記録します。こうして、4~6人プレイをそれぞれ10万回繰り返しました(※5)。1回の試行例を図6に示します。これは、5人ゲームで最も稼いだプレイヤーの出だしです。10万回の試行の中での最高ですから、夢のようなサイコロの出目と言うのは、想像以上に出にくいものなのかもしれません。
シミュレーション結果
それでは、10万回の試行の結果を見て行きましょう。まず、自力独占が起きる割合を、図7に示します。5人ゲームの場合、約50%のゲームで自力独占が発生します。ただしそのうち、2物件のダークパープル、公共会社、ダークブルーでの独占が43%あるので、3物件のカラーグループでの独占は7%にしか過ぎません。これが、4人ゲームでは約12%にもなってしまいます。4人ゲームが大味になりがちなのは、この辺が原因の一端ではないかと思います。
次に、順番による損得の平均値を図8、買える物件数の平均値を図9に示します。トップとどんじりでは、ゲームの人数に関わりなく150ドル程度の収益の差が発生します。ただし、この値は標準偏差が約280ドルもあり、非常にバラついているので、普通のゲームでは、なかなか実感が涌かないとおもいます。
所有した物件の数は、5人ゲームで6軒弱、標準偏差が1.8程度なので、4軒から8軒の所有が普通(7割はこの範囲に含まれる)であると言えます。実際のゲームでは、競売や取引で調整が行われるのでこの幅はもっと小さなものになります。
さて、全物件が売れてしまうまでどのくらいの時間が掛かるのでしょう。これはゲームの人数には関係なくて、順番が延べ何人目までまわったかで決まります。約73番目の人がサイコロを振る時点で残り2物件となり、88番目で残り1物件、119番目で売り切れの状態になります。5人ゲームの場合では、順番が15~18回まわって残り1~2物件となります。この前後から交渉が盛んになり始めるとすれば、これは全員がほぼ3~4周した時期になります。
(※5)モンテカルロ法といわれる方法です。この結果得られる数字は、試行回数をNとすれば、1/√Nに比例して精度が向上します。
◎シミュレーション・プログラム・ソースコード(monosym.c)
モノポリーの財務
貸借対照表(バランスシート)
モノポリーは会社経営の非常に単純化されたモデルだと見ることができます。試しに、プレーヤーの貸借対照表を書いてみると、図10のようになります。
貸借対照表というのは、会社の現在の資産の状況を説明するためのものです。表の右側は、現在の自分の資産の出どころを表しています。利益は、当然赤字になる場合もあります。モノポリーでは、貸し借りは厳重に禁止されてますから負債(借金)はあり得ません。最初の所持金1500ドルに、いままで揚げた利益があなたの財産を裏付けている訳です。それらの財産が、現在どういう形で所有されているかを示すのが、表の左側、資産の部です。
固定資産とは換金に時間の掛かるものを指します。本来は所有物件の半額のみが固定資産と言えますが、ここでは、換金してしまうと収益の期待値が大幅に落ちてしまうもの、つまり、換金したくないものも含めて考えています。物件の場合、うまく売却すれば購入価格の何倍もの値段で換金することができます。つまり、固定資産は、含み資産を持つことになります。この含み資産は非常に流動的ですから、うまいタイミングで売り払わないと、死蔵物件になってしまう可能性があります。特に、グリーンなどは、定価で買って抵当になってしまえば、単純に150ドルが収益に関係ない固定資産として休眠してしまいます。このあたりも、グリーンが人気のない理由のひとつです。また、最近ではオレンジの優位性が認められたため、オレンジの交渉に慎重になりすぎ、死蔵されてしまうケースも多いようです。物件が高く売れれば、その金額が左側で現金の増加となり、購入価格との差額が右側で利益となります。
流動資産は現金などの換金性の高いものを指します。ここでは、現金と、抵当に入れて得られるお金だけを、流動資産と考えます。物件購入や他人の所有地に止まることによって支払いが発生したとき、流動資産額より大きければ、家の建ってる物件を処分していくか、取り引きをして含み資産を現金化するか、破産するかしかないわけです。勝負に出るときなどは、流動資産をできる限り家の購入に充ててしまいますが、この勝負手が空振りに終われば、惨めな竹の子生活(古い表現)が待っています。現在のボード上で自分の流動資産より大きい支払いが生じる場所が何軒あるかは、有利不利を判断する材料になります。
次に、図11の損益計算書を見てみましょう。損益計算書とは、どうやって現在の利益が生まれたかを説明するものです。今までの収入の合計から、支払いの合計を引いた金額が利益で、損益計算書はこの収入と支出のすべてを記載するものです。この方法はゲームの中でも使えます。他のプレーヤーの収入を加算し、支出を差し引いて常に利益を把握しておくやりかたです。100ドル単位で計算しておけばことは足りるでしょう。例えば、所得税で-200、チェストで+100=-100、サラリーで+200=+100といった具合いです。あとは、1500をたして、見えてる物件の金額を引けばそのプレーヤーの所持金を知ることができます。
損益計算書の中で、営業外と分類したものは、プレイヤーの意志ではどうすることもできない性格のもので、1周当りの期待値が計算できます。営業外損失は約46ドル、営業外収入は約225ドルが期待できます。一周するだけで約180ドルの収益が見込めます。残り1物件になる時期は、スタートからほぼ4周した時点だというのを前に書きましたが、このとき、各プレーヤーは平均2200ドルほどの資産を所有していることになります。物件は全部で28物件、総額5690ドルですから、現金は残りの5300ドルほど、ひとり当り1000ドル程度を持っていることになります。
営業収入の取引利益とは、交換が行われたときの額面上の利益または損失です。これは、取り引きしたどちらかがマイナスならば、その分相手方がプラスになります。経費の方の抵当金利、家の取り壊しによる損失は、全くの損失です。
さて、物件の収支です。これは単純に、自分の所有地に止まったお客さんの支払いが収入で、自分の支払った分が支出です。現在までのようすが損益計算書には書かれますが、将来についての期待金額も、図5から求めることができます。5人ゲームの場合を書いたのが、図12です。左側の支払いの期待値が180ドルを越えると、進めば進むほど支払いが増える勘定になりますから、その時点からは刑務所へ行ってすぐ出るのは損になり、留まっていることが有利になります。
それぞれの期待値は、図5から直接わかります。右側の収入の期待値から、左側の支払いの期待値を差し引いた金額が利益の期待値です。この金額がマイナスで、サラリーなどで補える金額である180ドルより悪い値になると、ゲームが進行すればするほど損失を積み重ねて行くことになります。例えば、オレンジに9軒、レッドに6軒、ダークブルーに3軒の家が建ってるとすれば、支払いの期待値は、262+122+103=487ドルにもなります。あなたは、ダークパープルのホテルしか持ってないとすると、79×4=316ドルの収入期待値しかありません。差額は171ドルですから、1周当りのサラリー等の収入を考えて、辛うじて現状維持はできますが、それぞれに家が建ってくれば、あなたが勝つ見込みはますます少なくなります。こういう時は、何等かの勝負手を仕掛ける必要があります。
さて、損益計算書と貸借対照表の関連を、今度は逆に辿ってみます。有利なプレーヤーがますます有利になる場合です。まず、お客さんが入って、損益計算書の収入の部に計上されます。これは、そのまま利益となります。貸借対照表では、左で現金、右で利益が増加します。この現金で家を購入します。現金の一部が、固定資産に移動します。流動資産は十分にあり、他人の物件で2、3度支払いが発生しても現金で払えてしまう状況だとします。収入の期待値が上がり、有利さは不動のものとなります。この状態になってしまっては、いくらあがいても、逆転はむずかしくなります。有利不利は、このように拡大する傾向にあるので、不利な場合は早めに対策を立てなければなりません。
交渉
ゲームの理論
きっちりとルールの決まったゲームの考え方は、数学上は「ゲームの理論」(※6)と呼ばれる分野で扱われています。比較的単純なボードゲームから、かつての「キューバミサイル危機」でなぜ核戦争に至らなかったのかといった研究まで、広い範囲を扱っています。
そのゲームの理論によれば、モノポリーは「n人ゼロ和完全情報ゲーム」に分類されます。しかしこの場合、ゲームの理論による分析は、n人ゲームであること、ゲームが多段階であること、ゲームの値(メリットを表す)が決定困難であることから、一般的な手法は適用できません。断片的、定性的な分析になりますが、モノポリーの中で「交渉」をどうとらえれば良いかを考えてみましょう。
取り引きを考えれば、これは「2人非ゼロ和ゲーム」です。財産を単純に交換するだけの場合は「ゼロ和」ですが、カラーグループが揃う場合は、交換以上のメリットが生まれ、その増加するメリットをどう分割するかが、「交渉」の役割です。「電力会社」を260ドルで売る場合なら、自分には差額110ドルのメリット及び今後「電力水道」で支払うデメリット、相手には今後「電力水道」が稼ぐ金額、資産価値、交渉材料としての価値等のメリットが手に入ります。こう考えると、「電力会社」の260ドルは安いと思うかもしれませんが、売る方は速効のメリットであるのに対して、買う方は未来に対してのメリットであり、「電力水道」を手にいれるために支払った410ドルが固定化される危険を冒していることにもなります。
取り引きした2人が手にいれたメリットは、他のプレーヤーの不利になります。上の例で言えば、「電力水道」で支払う金額が大きくなるデメリットです。こう考えると、基本的には取り引きを繰り返してメリットを積み重ねることが勝利につながるわけです。キーになる物件をたくさん所有していても、それらを取引によって具体的なメリットに結びつけなければ、勝つことはできません。
さて、具体的な事例を考えてみましょう。Aがべントノール、Bがイリノイを出し合って、レッドとイエローを揃えあうときを考えます。お互いのポジションは、Aがパークプレース、Bがノースキャロライナで対等、流動資産も800ドルくらいずつで対等な条件だとします。普通はこの条件ですんなり交渉がまとまるものですが、ちょっとむずかしい場合を想定することもできます。
まず、この交渉は積極的に進めるべきであることは明かです。なぜなら、取り引きがなされない場合、お互いのレッドとイエローのカードは活用されませんから、その固定資産分350ドルと390ドルはほとんど損失に近いものとなります。特に、いまCがオレンジに家を2軒ずつ立てたところだとすると、文句なく取り引きを決行するべきです。
しかし、ここで問題になるのは、メリットの配分の仕方です。例えば、Bはショートラインを持っていて、鉄道を3軒持っているDに格安の400ドルほどで譲ってしまう可能性がある場合。Aはその事を主張して、少しお金を付ける条件を持ち出すかも知れません。この程度のことなら、話し合いで解決できそうですが、例えば、Aがパークプレースを持っていて、CがAとBの取り引きを阻止するため、ボードウォークを300ドルで譲る条件を出してきた場合はどうでしょう。Aは、その取り引きに応じる気配を見せて、Bからよりよい条件を引き出すことができます。Aにとっては、Cとの取り引きに応じれば、レッドとイエローは抵当にいれることで活用できます。しかし、Bにとっては、その取り引きが成立すれば、物件が活かせないばかりか、目の前のダークブルーに3軒の家が立ち、完封負けを喫してしまう危険さえありますから、大幅に譲歩してでも交渉を決裂させたくなります。
これは、脅迫戦略と呼ばれるもので、交渉が決裂した場合のデメリットが大きい方が、多少の不利益を受けることになります。そして、このときの譲歩の額は、そのデメリットをどの程度に評価するのか、と言うことに関わってきます。
(※6)「ゲームの理論」詳しくは以下の文献等を参考にしてください。
モートン・D・デービス著桐谷維・森克美訳 「ゲームの理論入門」講談社(ブルーバックス)
西田俊夫著「ゲームの理論」日科技連(ORライブラリー17)
キューバ危機に関しては、
岡田憲夫ほか著「コンフリクトの数理」現代数学社
効用理論
今の例で、Cの立場を考えましょう。オレンジに2軒ずつ家が立っていて、やや有利な状況です。ボードウォークを300ドルで譲ることはメリットがあるのでしょうか?この取り引きには、2つのメリットがあります。まず、レッドとイエローに家が立てば、現在の優位は余り意味がありません。ボードウォークに3~4軒の危険はありますが、勝負の手としては、有効に思えます。また、300ドルの収入。これは、時期をみてオレンジにもう3軒立てる資金になります。AとBの取り引きが成立してしまえばボードウォークは活用されないし、高い金額だとオレンジへの警戒感がありますから、300ドルは有り得る額でしょう。
このように、ボードウォークを300ドルで売ることに、Cは十分なメリットを見いだすことができます。このような行動を説明するために、ゲームの理論では効用関数が導入されます。しかし、この場合は、AとBの取り引きを阻止できそうだ、というメリットを計量化しにくいので、実際の効用関数を作り出すことはむずかしくなります。ただ、効用関数を作るとすれば、当然このような要素を反映する必要があるということは言えます。
さて、ゲームのほうに戻りましょう。結局、Aはボードウォークを300ドルで買いました。そこで、Bは、レッド、イエローの3枚と、ダークブルーの交換を申し入れました、交渉の結果、レッド、イエローに100ドルを付けて、ダークブルーとの取り引きが成立しました。Cの思惑どおりには行きませんでしたが、結果はバランスの取れたものとなりました。Aだけが得をしたように思えますが、Cとの取り引きで300ドルを支払い、Bとの取り引きで100ドルを手にしていますから、現金は200ドルのマイナス。レッドとイエローを独占しましたが、当面はイエローに家は立てられませんし、裏返して400ドルの資産価値がありますから、当初のBとの取り引きと比べて200ドルの得です。Cはボードウォークを抵当に入れた場合より100ドル得。Bは、ダークブルーを手に入れて流動資産が600ドル。危機感を高めたDが、ショートラインをそこそこの値段で買ってくれるかも知れませんから、十分勝負に持ち込めたといえます。
ここでは、他のカードの可能性は無視しましたが、実際にはそれらも大幅に絡んできますから、本当はもっと複雑な状況になります。こういった、計量化しにくく、様々な可能性をはらんだ状況は、コンピュータがもっとも苦手とするもので、経験を積んだ人間が一番優秀性を示せる場面かも知れません。
実際の交渉
ここまでは、ゲームの理論に従って、プレイヤーは十分考えた上で最善の選択をするという前提で話を進めました。しかし現実的には、各プレーヤーの所持金を正確に把握しているプレーヤーはあまりいませんし、モノポリーの大会などでよくあることですが、初心者がプレーヤーに加わる場合もあります。また、いつもプレイしているグループによって価値観が違っていたりします。例えば、ダークパープルのホテルを潰して交渉材料にしようとする場合の、実質的な250ドルの損害をどの程度に評価するのか、あるいは、安全のために現金をいくらぐらい残しておくべきか、などの微妙な部分は、それぞれのプレーヤーでずいぶんと違うように思えます。
モノポリーが「ゼロ和」であることには、もう一つの側面があります。つまり、より多くを他のプレーヤーから奪い取ったものが勝つという部分です。交渉において、このことを実現するためには、他のプレーヤーの価値観でちょっと変わった部分に注意する必要があります。例えば、序盤で公共会社を揃える場合、相場の250~280ドルからかけ離れた金額を付けるプレイヤーがいれば、それが高い金額なら相手に渡すことによって、安い金額なら買い取ることによって、メリットを奪うことができます。また、230ドルなら買うし、280ドルなら売るといった虫のいいプレーヤーなら、別の部分の弱点を見つけることは容易でしょう。
つまり、価値観のアンバランスなところには、必ず付け入る隙ができてしまうということです。そういったアンバランスな価値観のプレーヤー(始めたばかりのころはみんなそうです)と、プレイをする場合でも勝ちきるためには、そういった作戦を立てる必要があります。また、なかなか勝てないようなときは、自分が妙なこだわりをなにか抱いてないか反省してみる必要もあります。もっとも、内輪で楽しむモノポリーには、この辺のことは必要ないかもしれません。
交渉のテクニック
モノポリーの取り引きは、実に創造的な気がします。世界チャンピオンの百田さんのプレイを見ていると様々な交渉条件を提示してくれます。ホテルの立っているダークパープルを交渉材料にされれば不利な取り引きとわかっていても、思わず身を乗り出してしまいます。百田さんの強さは、取り引きの多様さと、しっかりした価値観にあると思います。目先の利益を交渉相手に与える代わりに、死蔵されてしまいそうな物件を引き取って、取り引きによって何とか活用してしまうようなところがあります。われわれシロートが、真似をしても「幸せを売る男」で終わってしまうのが落ちですが・・・
さて、交渉のテクニックについてです(※7)。モノポリーでの交渉は、時間の制限もありますから、条件の提示、承諾・拒否あるいは修正案の提示といった、迅速なやり取りであることが望まれます。自分の意図を説明する程度のコミニュケーションは許されると思いますが、取り引きを成立させるための説得は長時間にならないように注意するべきでしょう。愛想よく応対してしまって要らぬ買物をしてしまうという、デパートの店員に弱い日本人の体質により、説得を続けられると、「この人にならあげてもてもいい」と思ってしまいがちです。しかし、ながい説得は他のプレーヤーが退屈する場合が多いですし、断わる方も気まずくなってしまいます。もっとも、この辺はテクニックではなくマナーの問題ですが・・・
そういうわけで、モノポリーでの交渉の基本は条件の提示となります。相手にとっても自分にとってもメリットになる取り引きであり、特に相手の好みに合う取り引きであるれば最善です。そのような取引なら、相手側が多少不利な条件でも成立する可能性は高くなります。また、自分の状況に合わせて、何が必要なのかを明確に打ち出すことも重要です。交渉相手が何を目指しているのかがわかれば、相手も決断を下しやすくなります。これは、交渉を成立させる上で重要なコミュニケーションを補強する意味です。また、交渉条件は、可能ならいくつかの代替案を用意しておくべきです。複数の案からの選択を相手に任せることで、信頼感を得ることができます。また、相手の価値観を知ることもできます。もし、相手の価値観が自分と大幅に異なっていて、交渉が成立しそうもない場合は、一旦引き下がり、相手の価値観に合い自分にとってもメリットのある取引を提案するべきでしょう。あるいは、別の相手との取引を考える方法もあります。この段階で、脅迫戦略は常に頭にいれておくべきことです。相手に切札がある場合は、それに気づかせないように、また、自分に切札がある場合は相手に気づかせるように交渉を進めるべきでしょう。
脅迫戦略のことを考えると、モノポリーでは頭の痛い問題がひとつあります。2位ねらいを正当なものとするかどうかです。モノポリーの大会などでは、順位を付ける必要性から、ポイント制をとっています。この場合は、2位ねらいを正当なものと認めざるをえません。しかし、プライベートなモノポリーでは、あくまで1位を目指す方が本来のモノポリーらしいゲームではないかと思えます。なぜこのことが問題になるかと言うと、非常に有利なプレイヤーに対しての取引を正当と見なすかどうかの判断が生じるからです。例えば、非常に不利な立場にいるプレーヤーが刑務所に入ったので、有利なプレーヤーにライトパープルを揃えさせ、他のプレーヤーの不利さを増すことで、自分の生き残りを計るような作戦をどの程度認めるべきなのでしょう。現在のとこは、これも正当な作戦だと言わざるを得ません。また、こういった作戦を積極的に支持する立場にたてば、その取引を阻止できない他のプレーヤーの責任でもあるから、そのような状況になった時点で既に、ライトパープルを手にいれたプレーヤーはそれだけの有利さを持っていたのだと見ることもできるわけです。
どちらにしても、このあたりでの戦略のたてかたは、プレーヤーの人間性に関わってくる部分だと思います。私だったらそんな独走体制のプレーヤーに魂は売らないと思いますが、逆にそれが弱い原因なのかもしれません。また、勝つためにはその人間性の部分を観察することも必要になってきます。
長時間の説得はするべきではありませんが、状況を相手に知ってもらい、交渉の正当性を伝えるための短い説得は必要になると思います。このやりかたが一番人間性を表す部分かもしれません。感情に訴えるひと、とんでもない理屈で説得してしまうひと、説得はせずにじっと待つひと、とさまざまなパターンがあります。トルーマンは、説得に関してこう言ってます。「納得させることができないときは、混乱させろ。」(※8)
(※7)交渉のテクニックに関しては、下記の本に詳しく書かれています。モノポリーでの交渉にも十分役に立ちます。
佐久間賢著「交渉力入門」日本経済新聞社(日経文庫)
(※8)ポール・ディクソン編 筒井正明き訳「ビジネスマン1311の成功法則」講談社より。
経営戦略
交渉に当たっては、個々の取引に自分なりの評価を下し、静観するなり、交渉を持ちかけるなりのフレキシブルな対応をしていくことは必要です。このときに、自分がどのようなビジョンでゲームを進めるかの、言わば経営哲学に相当するものが影響してきます。序盤でダークパープルを揃えさせ、鉄道を売り払い、お金を貯めてひそかにグリーンの経営を目指すとか、序盤でキーになる物件を多く押さえたので、交渉をせずにダークパープルで行けるところまで行ってみようとか、今回はボードウォークと心中だ、といった「哲学」の部分です。いわば、モノポリー上での自己実現の道をプレーヤーは見つけるのです。
モノポリーに何を求めているかという、一つ上の階層でのビジョンも、プレーヤーは持っているはずです。勝つことはゲームをやる以上当然目指しているわけですが、常に勝つことはできません。楽しいゲームをしたいとか、緊張感のあるゲームをしたいとか、ゲームの展開をコントロールしたいとか、一発勝負だとか、モノポリーに求めるものはひとそれぞれです。勝てなかったゲームでも、これらの目的が達成されればプレーヤーはある満足をえられるわけです。これらの複合されたものが、そのひとの人間性となり、モノポリーのゲームの進め方にも影響をおよぼします。
勝つことのみを目指すプレーヤーは、この部分を極力おさえなければなりません。ゲーム中の評価に余計な歪みを与えるからです。でも、モノポリーは勝つことだけが全てではありません。自分の哲学にこだわってたまにしか勝てないとしても、それで満足が得られるなら、それもモノポリーの楽しみ方だと思います。
(※9)奥村昭博著「経営戦略」日本経済新聞社(日経文庫)を参考にしました。この本を、モノポリーの経営戦略として読み替えてみると、それなりに楽しめます。
ここまでが不可止さんのホームページにあった記事になります。
この原稿はリライトされこの本に載っています。
モノポリー通からは「赤本」と呼ばれ絶版されているのもので、ヤフオクとかで見かけたら買ってもよい本かなと思っています。
この本の中で寄稿されている百田さんも1冊しか持っていないって言ってましたのでレア本なんだろうと思います。
ちなみに「青本」と呼ばれるものもあります。
2022年10月末に追記
不可止さんに贈ったほぼ日手帳のどせいさんバージョンで、おそろいで僕も持っています。どせいさんのモデルは不可止さん(本人談)らしいので、このデザインが出た時に買って前橋の高橋さん宅で呑んだくれている不可止さんに渡しました。
※不可止さんは『Mother2』の開発前半に関わられていたので。
この写真は僕の地元のへぎそば屋に連れて行ったときの写真です。撮影者は僕です。この笑顔が大好きです。
不可止さんが亡くなった2021年10月にすぎやまこういち先生も他界されました。
翌月にお別れの会が行われ、堀井さんからお別れの言葉が送られておりました。
その中で
「いたストのテストプレイを(すぎやま先生)していただき、バグが残ったまま遊んでいただいていた。そしてそのロムをずっと持っていただいていた。『だって製品になったらバグがなくなっちゃうでしょ。せっかくここまで勝ったデータは残しておきたいから』と・・・」
という言葉がありました。
※これは僕の記憶の中のもので一字一句正しくはありません。
これは不可止さんへの供養の言葉でもあったと感じております。
いつか、「モノポリー」でも「いたスト」でもいいので作れたらいいなぁと思った一周忌でした。
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