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world's end girlfriend

 エフェクターが壊れたんだな、と思った。
 2024.4.14 SYNCHRONICITY の二日目。リハが押し、定刻を過ぎても彼らの演奏が始まる気配がなかった。
 ギターの弦を鳴らす度に、ピーとギィーの間のような音がした。ブルースドライバーが壊れたときにこんな音がしたな、なんて思い出していた。
 結局、そのままリハの音出しをちょっとして、彼らは捌けていった。

 映像とともに詩の朗読があって、最初の一音を聴いてからはあっという間だった。ピーとギィーの間のあのギターは、この世界にあるあらゆるものの中で一番美しいものだと思った。
 臨死体験、という表現が一番しっくり来た。あの夜は、混乱したまま家に帰った。

 僕が最初にwegのライブを聴いたのは、2016年のSYNCHRONICITY(の一環でやってた『After Hours』という伝説のフェス)。そのときも豪く感動したものの、彼らの音源を恒常的に聴くことはなかった。

 それから、色んな音楽を聴き、ライブに足を運び、自身の音楽の受け取り方もだいぶ変化したように思う。今聴くwegは、きらきらと輝いていた。

抵抗と祝福の夜

 2024.5.8 『抵抗と祝福の夜』というワンマンに行った。
 一言でいえば、2018年夏のマイブラ以来の衝撃だった。毎日のように音楽を聴き、毎週のようにライブに行き、歳をとり感受性はどんどんすり減っていくのに、まだ僕を刺してくれる音楽があるなんて。

 EX THEATER ROPPONGI で、全席着席。SYNCHRONICITY の後にチケットを取ったため、席はだいぶ後ろの方、下手側。
 詩の朗読とともに一曲目が始まると、僕はあまりの音のデカさに耳栓を奥まで押し込んだ。みんな座っているのに、会場が揺れていた。轟音が心地よかった。今回は音源を聴いて臨んだので、しっかり目を開けてすべてを感じようと思った。
 曲間の無音で、隣のお客さんがふふっと笑った気がした。暗い客席で、僕も笑っていたように思う。あまりに凄いものの前では、人は笑う。

 3曲目くらい、IN THE NAME OF LOVE。この曲はキャッチーさとぶっ壊れが共存していて好きだ。とりあえず音源を最後まで聴いてほしい。

 幾何学的で万華鏡のようであり、輪廻を感じさせる映像と優しい音像が素晴らしかった。最後に轟音に包まれる感覚も心地よかった。

 「皮膚感覚の裏側より トゥ・シューズの角度で穴を空けた」samayuzameさんの朗読が好きだ。この部分は特に。朗読⇒曲⇒朗読⇒曲⇒と続いていく構成がよかった。これはライブの完成形ではなかろうか。

 前半パートの最後の方、Black Box Fatal Fate、これが凄かった。
 宇宙に、僕ら有機物とは異なる無機物生命体がいたとしよう。その生命体は、電気をエネルギーに動く。その生命体を発見したとき、人間は、その生命体が何にどのような反応をするか確かめようとするだろう。
 燃やしたり、水をかけたり、低温状態にしたりしても、その生命体は何の反応も示さない。しかし、高電圧を与えたときだけ、彼らは僅かに反応を示す。実験で与えた電気とは別の、微かな電気が流れる。それは彼らの快楽からくる歓声なのか、苦痛からくる悲鳴なのか分からないが、それを何倍にも何倍にもしたような音。
 そのような音を、僕は聴いた。

 ボーカルが入った後半のパート。ラピュタもよかった。
 Ave Maria のアウトロは、マイブラのYou Made Me Realise を思い出させた。無限に続くフィードバック。

 「ここは永遠の屠殺場」何度目かの台詞をsamayuzameさんが言い、終わりが近いことを知った。その後は、光を直接音にしたようだった。光の中にいて、光の波長を聴いた。
 いつの間にかステージ上は一人になっていて、ギターの音が響いていた。ディレイのかかったその音は無限を象徴する宇宙のようでもあり、輪廻のようでもあり、ゆっくり減衰する命のようでもあった。
 そして、ステージ上に誰もいなくなって、本編は終わった。

 「何度でも生まれ変わっておくれ」と言って、(多分アンコール的な)ラスト2曲。最後の最後まで素晴らしい演奏のまま、すべて終わってしまった。
 SEE YOU AGAIN と映し出された、空っぽなステージ。拍手は思ったより小さかった。いや、耳がおかしくなっていて聞こえなかっただけだった。
 また彼らのライブに行けるだろうか。SEE YOU AGAIN 次を予感させる最後でよかった。でも不安になる、美しさは儚さとの対だから。

 僕の拙い文章ではworld's end girlfriend のよさ、あの夜感じた素晴らしさは伝えられない。安っぽい表現になってしまうが、本当に美しく、素晴らしい音と映像だった。
 このライブのチケット売上の10%、ライブ音源データ売上の80%、ライブ映像データ売上の80%、グッズ売上の40%はガザ地区への支援に寄付される。

 彼らに最大限の尊敬と感謝を。素晴らしい演奏を、本当にありがとうございました。

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