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アルケゴス破綻問題における、クレディ・スイスの対応と、ドイツ銀行の抜け目の無さについて思うこと

3月の終わりにアルケゴス・キャピタルという投資ファンドが破綻して、アルケゴスに融資していた証券会社などが大きな損失を被ったという事件がありました。アルケゴスがやっていたのはトータル・リターン・スワップという契約による取引で、原資産は出資元が保有したままアルケゴスが資産を運用し、そのリターンをアルケゴスが全て引き受ける代わりに、通常より高い金利を出資元へ払うというスキームらしいのですが、アルケゴスはこれを複数の金融機関と契約することで巨額の投資を行っていたそうです。

3月下旬にある企業の株価が暴落したのをきっかけに「やばい」と思った複数の貸し手企業がアルケゴスに預けているいくつかの資産を売却して(資金を回収して)、これによりアルケゴスの損失が膨らんでアルケゴスは破綻、出遅れた残りの貸し手企業は資金を回収できなくなって大きな損失を被った、ということのようです。

リーマンショックを想起させるような出来事ですが、その後破綻の連鎖は起こっていないようです。金融市場全体に影響するほどではないと見られているようですが、損失を計上した野村証券やクレディ・スイスなどは対応に追われています。そんな中、こんな記事が出ているのを見て私は少し驚きました。

クレディ・スイス・グループ最高経営責任者(CEO)のトマス・ゴットシュタイン氏は、自行のバンカーから怒りを含んだ厳しい質問を浴びせられた。
ゴットシュタインCEOは6日遅く、マネジングディレクター数十人を集めて電話会議を開催。元ヘッジファンド運用者ビル・フアン氏のファミリーオフィス、アルケゴス・キャピタル・マネジメントを巡り47億ドル(約5160億円)の減損を計上すると明らかにしたことを受け、危機管理の取り組みの一環として招集した。
ゴットシュタイン氏(57)は取締役会メンバーや花形トレーダー、企業の合併・買収(M&A)担当者、プライベートバンカーから、質問に明確に答えるよう求める圧力にさらされている。クレディ・スイスの株価は、昨年堅調な業績を上げたことで上昇していたが、現在は低迷。2021年1-3月(第1四半期)はアルケゴス関連の巨額損失で収益が吹き飛ぶ形となる。

5,000億円以上の損失を出しているので当然といえば当然ですが、CEOが社内の人間から「どういうことか説明しろ」と厳しく問い詰められました。でもこれ、自分の会社に置き換えて考えると、社長が社内の開発責任者や調達責任者、他のエグゼクティブ、そしてスター営業マンなどに囲まれて詰問されているというような状況ですよね。社外取締役などある意味対等な地位を与えられている人や社外のステークホルダーならともかく、社内において地位の低い立場の人が上位の人にたてつく構図というのは日本ではなかなか考えられません。この点、海外の企業では「役職=仕事上の役割」という意識が徹底されていて、立場に応じて必要な発言をすることが正しいという風土というか文化が根付いているのだなあと思いました。

そしてさらに下記の記事。

アルケゴス問題が発生したのが3月23日です。その2週間後にはもう経営陣の刷新を発表しようとしています。早い。とても早い。日本ではありえない早さです。このあたりの危機管理の考え方、失敗した時こそスピーディーに対策を打つことで信用失墜を最低限に抑えようとするあたりがすごいです。さすがスイスを代表する金融会社ですね。

と思っていたら、おとなりドイツのメガバンクに関する記事を見つけました。

先述の「やばいと思った複数の貸し手企業がアルケゴスに預けているいくつかの資産を売却」の1社がドイツ銀行でした。さすがは欧州の大黒柱。さっさと回収して巨額の損失を免れる、この辺りの抜け目の無さは素晴らしいですね。

事業戦略において参入戦略と撤退戦略は必ずセットで検討しますが、悪いことが起こることを前提にその対応策を決めておき、有事の際にあたふたしないように備えておくことが重要なんだと改めて思いました。

ちなみに、私はドイツ人と長年一緒に仕事をした経験がありますが、平穏な時の勤勉さと忠実さは日本人にかなり近いものを感じますが、危機が訪れた時の「まずは自分を最優先で守る」という身のこなしの早さというか機敏さというか薄情さは日本人には真似できないなと思ったことが何度かあります。日本人も世界のビジネス戦線で戦って勝っていくには、ドイツのようなしたたかさやスイスのような危機管理にもっと力を入れなければいけないと、今回のアルケゴス問題を見てしみじみ思ったのでした。

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