見出し画像

Las Vegas ,Dec.2023 vol.2〜Joshua Tree ~ Las Vegas ,Sphireにて、U2を聴く。

2023年12月9日
6時頃に目が醒める。時差ボケはない。シャワーを浴びてモーテルのロビーに並んだマフィンとコーヒーをもらって、凍りつくような空気を感じながら、Joshua Treeへと車を走らせる。Yucca Valleyの町から片道30分弱。空が徐々に赤みを増して、国立公園のゲートの手前で太陽が顔をみせた。
窓の外には、土漠とでもいった荒涼とした風景が続く。こういう風景を眺めながら日常の暮らしを送るとどういう気分なのだろう。バンクーバー島の小さな村の海辺や、ネパールで遠くにエベレストを眺めたとき、モンゴルの平原に身を置いたとき、マニラの下町を歩いたとき、あるいはヨハネスブルグのソウェトで子供たちのダンスを見たとき。
別の土地に暮らした時や、旅をしたときに、ある種の対比のように故郷の風景の記憶がたびたび甦ってきた。

Joshua Tree National Parkの入場料は約4,000円。西のゲートは開いていたが、事務所にまだ人はいないので、そのまま素通りして公園の奥へと向った。(出る時にちゃんと支払いました)
朝日に目が眩む。目指すのはHidden Valley。今日はラスベガスに向かうため長居する時間もないので、ゲートから20分ほどの、この1箇所だけに絞った。公園の中はきれいに舗装されている。道沿いには奇妙な形の木が点在している。


Yucca ValleyからLas Vegasまでは、普通に走って4時間ほど。LAXからYucca Valleyまでは、ナビの見間違いで2時間ほど余計にかかってしまったので、5時間ほどみておく。

道路沿いには、何かしらの映画やテレビのシーンで見た記憶がある風景が延々と続く。車窓を流れていく風景は、西部開拓時代とあまり変わらないのではないか、とすら感じる。片側1車線の田舎道はまだいいが、フリーウェイに乗ると、ついアクセルを踏み込みすぎて、150km近いスピードで隣の車とのチキンレースに巻き込まれていたりする。

茫漠たるMojave砂漠。幾多の核実験が繰り返され、航空機の墓場がある、奇妙な場所。インターステイト・ハイウェイは、この砂漠をかすめて、そのままネバダへと入っていく。州境を越えるとすぐに歓迎するかのように、小さめのカジノリゾートがある。カジノマネーが潤沢なためか、カリフォルニアに比べると道路の整備具合が格段にいいように感じられる。
昨日からの慣れない高速&長距離ドライブのせいか、途中から首から右の肩にかけてがひどく痛くなる。激痛レベル。左手で揉みながら、また右肩を回したりしながら、ドライブを続けていく。途中、給油所でガソリンを入れて、ターキーサンドとコーヒーを買って、そのままLas Vegasまで。
携帯と車のナビを慎重に確認しながら、"Circus & Circus"の隣にあるTravelodgeにチェックインした。時間は14時過ぎ。

夕方、ピーエムエージェンシーの比嘉さんご夫妻と待ち合わせた。沖縄ですらほぼ会うことはないのに、同じタイミングで、ラスベガスにいるというのはまったくの偶然。お二人は前夜のU2のSphireでのショーをすでに観たとのことで、ステーキサンドを食べつつ話を伺う。比嘉さん曰く「この仕事を辞めたくなった」というレベルで、ものすごいコンサートだったとのこと。

最初にU2のライブを聴いたのは、1989年の大阪城ホール。B.B.Kingとの”Love Comes Town Tour"。ライブのあまりの衝撃に、一度沖縄に戻って2日後に大阪に舞い戻って当日券を手に入れて聞いた。
(下記は、当日券で聴いた日の音源。客入れBGMの"Stand by me"をそのまま演奏して"New Year's Day"という最高のオープニング)

次はずいぶん間があいて、2006年の、"Vertigo Tour"(埼玉スーパーアリーナ)。以降は、2011年、Mexico-city(Estadio Azteca)での"360° Tour"。

2011年5月 Estadio Azteca, Mexico city このセットが日本に持ち込めず日本ツアーは実現しなかったと聞いた。

そして2015年、New York(Madison Square Garden)と、London(02Arena)での、"Innocence + Experience World Tour"。意図したわけではなかったが、海外での観戦が続いた。

2015年10月 O2 Arena, London 客をステージに上げて、スマホの映像を大型のLEDビジョンにライブで映し出すという演出。

大阪と埼玉、ニューヨークでは2度見たので、8回聴いたことになる。2019年の"Joshua Tree Tour"の来日公演は、足首の骨を3本折って入院することになり断念した。
これまでの個人的にベストは、2015年、ロンドンで聴いた"Innocence + Experience World Tour"。アルバムが良かったというのが何よりで、LEDを多用した映像のクオリティが360° Tourに比べて格段に上がった。中央に長く伸びるキャットウォークと客席の距離感も良かったし、アリーナサイズの公演の良さを改めて実感した。新作とクラシックのセットリストが絶妙にブレンドされた感じも素晴らしかった。

そもそも今回のLas Vegasでのレジデンシー公演を見るつもりはなかった。同時期に予定されていたBruce SpringsteenのSan Franciscoでのライブが目当てで、その中日に、Las VegasでのU2の公演があると知ってチケットをとっておいたのだった。しかし、Springsteenの公演は病気で延期になり、一度はU2もリセールに出そうとしていたのだが、レジデンシーがスタートすると、そのあまりの評判の良さに、飛行機のチケットをマイルで取った。

Sphire。それにしても不思議な会場だ。球体の建物がLEDパネルに覆われてさまざまな映像を映し出しながら表情を変えていく。それが街の至る所から目にすることができる。建物に近づくにつれて、その大きさに驚かされる。

キャパシティは18,600人

どの席で見るのが良いかわからなかったので、スタンディングのチケットを取った。取れる時は基本ステージに近いGAのチケットと決めている。それでも今回はかぶりつきで見る気はあまりなく、のんびりと会場に入った。iPhoneのWalletに保存したチケット画面をスキャンしてもらい、リストバンドを受け取る。通路を進んでいくと、広々としたバーがある。ビールでも飲もうと思うが、ドラフトビールは20ドル以上したので、缶ビールのロング缶を1本。それでも2,000円ぐらい。レジのそばでプラスティックのカップに注いでアリーナのフロアへ。疲れが溜まっていたこともあって、上手ステージ横の柵に寄りかかるポジションをGETした。

写真右手は長いバーカウンター。左側に並ぶ冷蔵庫からビールをピックアップ。支払いは当然キャッシュレス。
全面にLEDパネルが張り巡らされた会場。

ライブは定刻に、山車みたいな車に乗ったDJが70〜80年代のヒットチューンをプレイしながら、下手から上手へとゆっくり進んでいく。

山車が上手に消えて程なくするとショーが始まった。

Setlist
I Could Have Lost You (snippet) / Zoo Station
Drive My Car (snippet) / The Fly
Even Better Than The Real Thing
Mysterious Ways
One / Love Me Tender (snippet)
Until The End Of The World / Paint it Black (snippet)
Who's Gonna Ride Your Wild Horses
Tryin' To Throw Your Arms Around The World
All I Want Is You / Into The Mystic (snippet)
Desire
Angel Of Harlem
I Still Haven't Found What I'm Looking For / Movin' On Up (snippet)
Acrobat
So Cruel
Ultra Violet (Light My Way)
Love Is Blindness / Viva Las Vegas (snippet)

encore(s):
Elevation / My Way (snippet)
Atomic City
Vertigo
Where The Streets Have No Name
With Or Without You
Beautiful Day / Gloria (snippet)

U2 start.com

ライブは、音楽と会場全体のLEDに映し出される映像が、曲ごとにシンクロして進行した。写真を見るとわかるが、あるはずのスピーカーが見当たらない。結局どこにあるのかわからなかったのだが、16万個のスピーカーがあらゆる場所に埋め込まれており、球体の会場の中でどこにいても同じクオリティの音を楽しめるとのこと。照明も通常のホールにあるような吊りものは一切ない。

コンサートではあるのだが、従来のコンサートの概念を超えて迫ってくる新たな形のスペクタクル。その中心にあるのは、U2の音楽で、パフォーマンスではある。しかし、楽曲とシンクロした映像とともに構築される、想像を超えた世界観の中に放り込まれて、曲に集中することが、ひどく困難なことに感じられた。常に音楽と映像の綱引きが繰り広げられているような印象なのだ。バンドは目の前で演奏しているのだが、ある部分においては、映像が音楽を凌駕していると思えたりもした。もしかすると、それはバンドが意図したことでもあったのかもしれないのだが。
過去に8回聴いたU2のライブで感じたカタルシスを感じることのない、とても不思議な気分になったコンサートだった。

終演後、呆然として会場を出た。通り沿いにある韓国料理屋で、プルコギのセットメニューを食べて宿へ戻る。砂漠の街の夜は寒い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?