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Living with Music Vol.16〜Weining Hung / ウェイニン・フン(台湾) 日本語

Weining Hung / ウェイニン・フン(台湾)

“LUCfest”(台南)共同設立者

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Weining(左)とKK ,台北、2020年6月

 今年2月の”Trans Asia Music Meeting(TAMM)”そして”Sakurazaka ASYLUM”に、Weining Hungを登壇者として招いていた。しかし折からのCOVID-19の感染拡大と、台湾政府の素早い検疫強化のために、沖縄まで足を運んでもらうことができなかった。

 Weiningと最初に会ったのは、2017年秋に台南で行われた1回目の”LUCfest”。「アジアの音楽関係者のリンクを考えている人がいる」と、”月見ル君想フ”の寺尾ブッダさんに紹介されて、参加することになったのだ。

 彼女は、台北一のインディーレコードショップ"White Wabbit Records"を経営するKKと一緒に、多くの仲間を集めてこのフェスを作っていた。第一回目の開催ということもあってまだ混沌とした印象があったのだが、ものすごい勢いというか、エネルギーが渦巻いたイベントだった。

 小さなライブハウスで歌っていた背の高いタイのシンガーソングライターが、翌年には世界的に注目を集めることになるPhum Viphuritだったとは、その時には気づかなかった。

 Phumの世界的な成功の背景にはWeiningの働きがある。同様に、韓国の人気バンドADOYを海外に売り出し、昨年、沖縄での”Sakurazaka ASYLUM”に出演した折坂悠太を一瞬で見初めて”LUCfest”にブックした。
 Weiningの音楽の魅力を一瞬で見抜いてしまうキュレーションは実に的確なのだ。アジアの多くの音楽関係者は、彼女の動きを注視しているし、だからこそレコメンドしたい沖縄のバンドの音は真っ先に聴いて欲しいと思うのだ。

 現在、Weiningは、台湾とオランダをベースにアジアのインディペンデントな音楽を広く世界に紹介しようと動き回っている。COVID-19がその大きな足かせとなっていることは明らかだが、今年11月の”LUCfest”の開催はいち早く発表された。
 未だに先が見通せない困難な状況の中で、どのように実現させていこうと考えているのか。状況を柔軟に見極めながら、その時々で最良の選択肢を選んでいく彼女のスマートなリーダーシップは、アジアのインディーミュージックの羅針盤のようにも感じられる。
(野田隆司 / Music from Okinawa)

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LUCfest 2019@Tainan
”Asian Music Promotion Platform”のミーティング。Weiningは右から2人目。台湾、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、フィリピン、沖縄、etc。各国のメンバーが集まってのディスカッション。熱い。

パンデミックに直面していても、
ベストのシナリオに向かって努力する。

Q:今年は沖縄での“Trans Asia Music Meeting”に参加してもらうことができずにとても残念でした。アムステルダムから台湾経由で沖縄に来る予定でしたが、あの後そのままオランダに戻ったのですか、それとも台湾にとどまっていたのでしょうか?

 「私も”TAMM”に参加することができずに残念でした。再び沖縄を訪ねて、古い友人との再会や新たな出会いを楽しみにしていたので。
 私のアムステルダムへのフライトが欠航になったのですが、同じタイミングで、ヨーロッパでパンデミックが本格化し始めたんです。そこで、当面は台湾に滞在することにしました」

Q:今回、台湾政府のCOVID-19に対する対応は非常に素早い印象でした。どういう印象をお持ちですか?

 「台湾政府の対応は間違いなく、最初のうちはとても迅速でした。早い時期から国境管理が厳しくされ、1月にはマスクをして社会的な距離感を保つことが求められていました。個人的には、この時期に台湾にいて本当に良かったと思っています」

Q: 沖縄に来られなかった今年2月下旬から3月にかけての仕事の状況はどうでしたか?

 「まさに大混乱で、私たち全員が驚きの連続でした。私たちはこの先数ヶ月間の計画を立てていましたが、すぐに代替の次善策を考えなければなりませんでした。
 当時、人々はまだウイルスの脅威に気付き始めたばかりでしたから、私たちは実際に”LUCfest”の計画をしっかりと立てていたんです。しかしご存知の通り、私たちは世界の新しい現実に適応しなければなりませんでした」

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Sweet John(台湾)@LUCfest 2019
心地よくポップなサウンド。日本でも人気が出そう。

Q:結果的に音楽業界は大きな打撃を受けています。そのことは将来的に大きな傷跡を残すことになりそうですが、現在のビジネスの状況はいかがですか?

 「オフィスでの打ち合わせを、毎週のように問題なく続けています。ミーティングの大半は、今でもオフィスで行っています。最近では、パートナーやスポンサーとの仕事も多くなってきました。
 今、私たちにとって新しいのは、世界中の人々とのズームコールやオンラインでの会議です。これは、新人アーティストの育成という目標に向かって活動することにとても役立っています。現在、私たちはいくつかの国際的なプログラムに参加していますが、これはアーティストがコネクションを増やし、新しい市場やオーディエンスを開拓するためのものです」

Q: 台湾の政府は音楽・文化産業にとても協力的なようです。実際にはどうなのでしょう。支援には満足していますか?

 「台湾政府は経済の変化に非常に早く対応してくれました。企業レベルからアーティスト個人への支援もしてくれました。しかし、一番心配なのは将来のことです。政府の支援があったとしても、パンデミックの不確実性を取り除くことはできません。良くなるのか悪くなるのか、将来のことについて誰もが疑問に思い、心配しています」

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LUCfest 2019、アートスペースもライブ会場に。台南にはこうした洒落たスペースが多い。

Q: 現状において、音楽やエンターテインメントの役割は何だと思いますか?

 「音楽は人々を正気に保つものだと思います。それ以上に重要なのは、世界中がロックダウンしている中、多くの人が失業などの深刻な人生の課題に直面し、そして不幸にも愛する人を失うような状況にあっても、音楽は人々を繋ぎ、地に足のついた状態にしてくれることです。
 パンデミックが世界の大部分に影響を及ぼし始めたとき、人々はあらゆる種類の芸術に目を向けました。音楽、芸術、ゲームのない世界を想像できますか? 私には想像できませんし、想像したくもありません」

Q: 現在はCOVID-19の大きな波をやり過ごしたところだと思います。第二波が来ると言われている中で、短期的にはどのような方向性を考えていますか?

 「まだ第一波を過ぎたかどうかもわかりません。世界的な患者数の増加を見ていると、すぐに減速するようには見えません。
 私自身は、これまでの3年間のように多くのフェスティバルや国際会議に参加したり、開催したりすることはまずないでしょう。だからこそ、パンデミックに直面しているにも関わらず、ベストケースのシナリオに向かって努力しているのです。
 "LUCfest"は、今年11月に開催することをすでに発表しています。今回は、オンライン要素の一部を取り入れたハイブリッドなカンファレンス / フェスティバルになる可能性が高いです」

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台南2019

Q: 「LUCfest」について。昨年、3年目を迎えた「LucFest」は規模が大きくなり、大盛況でした。実際の手応えはどうでしたか?

 「”LUCfest”が急速に成長していることを、本当に嬉しく思います。ショーケース・フェスティバルなので、他の大きなフェスティバルのようにヘッドライナーのアーティストをフィーチャーすることはありません。”LUCfest”は、好奇心旺盛な観客が、次のビッグスターを発見するために、私たちのセンスを信頼してくれることに頼っています。そのためにも、より多くのアーティストが”LUCfest”への出演申込をしてくれるといいですね」

Q: COVID-19によって、今年の様々な見通しが崩れてしまったと思います。にもかかわらず、11月に”LUC fest”の開催が発表されました。その時にどのような葛藤があったのでしょうか?

 「実際には意見の衝突はまったくありませんでした 台湾では3サイクル、52日の間にCOVID-19の国内発生の事例が報告されなかったことを受けて、”LUC fest”を開催することにしただけです。また、台湾政府は6月7日にイベント制限を解除すると発表しました。
 私たちはリスクがあることを認識していますが、社内的には2020年の“LUC fest”を実現させるために、皆で頑張ることにしました」

Q: 開催を決めた一番の決め手は何だったのでしょうか?

 「安全の確保です。安全は私たちの最優先事項です。誰かを危険にさらしたり、危害を加えたりするような状況では、”LUCfest”を開催することはできません」

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イルカポリス(台湾)@LUCfest 2019

Q: 今年は去年と同じ規模になるのでしょうか? 具体的なイメージはありますか?

 「"LUCfest"に参加された方の体験を、昨年よりも向上させることができればと思っています。
 私は視覚的に思考をするので、常に“LUCfest”のゴールをイメージしてきましたが、毎年その目標を達成することができています。今年は、ステージや照明だけでなく、より多くの要素を取り入れて、関係者全員がより一体感のある“LUC fest”を体験できるように、デザイン面にも力を入れていきたいと思っています」

Q: 2017年に“LUCfest”が始まった頃からアジアの音楽シーンが大きく動き出したように思います。現在のアジアの音楽シーンをどう見ていますか?

 「アジアの音楽シーンが成長していることをとても嬉しく思っていますし、アジアのアーティストが世界のステージに進出してくることに超興奮しています。
 また、アジアを中心とした世界のインディペンデントなアーティストへの受け入れと愛情が高まっていることにも気づいています。私たちは、今後もこの業界の発展に前向きに取り組んでいきたいと思っています」

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@LUCfest 2018、Phum Viphurit (タイ) は、その体験や音楽・映像の制作についてカンファレンスで語った。

Q: 台湾やアジアの音楽シーンにおいて”LUCfest”の役割は何だと思いますか?

 「私たちはよく音楽シーンの "マッチメーカー "と呼ばれています。アーティストやマネージャー、フェスティバルなどが、音楽を紹介したいと思ったときに、私たちにコネクションを作ってほしいと頼まれることがよくあります。私たちは、友達を作り、新しいことを学び、可能性を探るためのプロフェッショナルな場として、台湾やアジアの音楽のための空間を作りたいと思っています」

Q: 今回のパンデミックの期間、Phum ViphuritやADOY(韓国)など、ご自身が関わっているアーティストとどのように仕事を進めているのですか?

 「もともとお互いにリモートで仕事をしているので、コミュニケーションという点ではあまり違いはありません。主な違いは、年に数回どこかで会うことが多いのですが、パンデミックの影響で今年はまだ会えていません。
 大好きなアーティストと一緒に仕事ができるのは光栄です。アーティストと仕事をすることで多くのことを学び、業界とのつながりを保つことができます。また、アーティストの日々の生活や課題を把握することができます。そして、これらのアーティストとの関係は長期的なものであり、すべての関係者にとってより良いものだと思います」

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Weining とKKは、アジアのバンドを台湾に招いている。韓国のバンドADOYは2019年春、台南と台北でツアーを行った。

Q: 最後にメッセージをお願いします。

 「この時点では何も決まっていないようです。もし油断していると、計画モードで頭が回転して不眠不休の夜に陥りやすくなります。
 そんな中、私は2つのことを実践しようとしています。一つは、”今”により集中することです。明日のための種は今であり、未来は今私たちの周りで起こっていることです。今を生きることが大切です。そして、今に感謝すること。
 2つ目は、自分や周りの人に優しくすること。何でもかんでも解決策を見つける必要はありませんが、問題解決の第一歩はそれを認めることです。今の私には、それだけで十分なのです」

<フェイバリット・ミュージック>
 「今は、台北にいます。5歳と7歳の甥っ子と多くの時間を過ごしています。だから、彼らも楽しめるような音楽の映像も見せているんです」

<LUCfest 2020出演アーティスト募集中!>
今年11月27日〜29日に台南で開催される4回目の"LUCfest"の出演バンドを募集中です。締め切りは7/9(木)。お早めに。
https://www.lucfest.com/r/en/artist/application?q=5eff220ba8b27

<プロフィール>
Weining Fung(台湾)

 台湾の台南で3日間開催されるショーケース・フェスティバル&カンファレンス「LUCfest」の共同創設者。
 彼女は2014年にミュージシャンのためのクラウドファンディングプラットフォーム「Gigdiving」を共同設立。また、アジアの音楽、フード、ドリンク、ゲームを一夜にして楽しむイベント「Jaachi」を立ち上げた。
 彼女は常にアジアのミュージシャンをヨーロッパ市場に売り出すことを積極的に行ってきた。これまでに、Fire.EX、Dwagie、Jambinai、The Priarie/WWWWW、DJ RayRay、ADOY、Phum Viphuritらと仕事をしてきた。
 現在はアジアとヨーロッパを行き来しながら、ネットワーク活動の活性化とアジアの音楽プラットフォームの構築に情熱を注いでいる。


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