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「コザママ♪うたって!コザのママさん!!」感想。

過日、宮平照美(jimama)さんから連絡をもらって、「コザママ♪うたって!コザのママさん!!」の試写会へ。監督は中川陽介さん。

jimamaさんとは2004年のメジャーデビュー前後から20年来の付き合いで、何度もライブを企画させてもらった。中川陽介監督には、ライター時代に沖縄を舞台にした「DEPERTURE」(2000年)「Fire!ファイアー」(2002年)の公開時にインタビューさせてもらった。「Fire!ファイアー」以降、中川監督の作品で音楽面を担う沢田穣治さん(ショーロクラブ)と最初に会ったのは1990年代半ばのことだ。沢田さんのユニット”Okinawa"のCDを出したこともあったな。

上映前に、シネマQの最後列でボケっとそんなことを考えていると、監督から不意に声をかけられた。「どこか行ってたんじゃなかったんですか?」。ソウルに出かけていたことが、SNSへの書き込みで知られたらしい。
久しぶりにお顔を拝見して、監督の前作の短編2本「笑顔の理由」(2019年)と「やくそく」(2020年)のブッキングを頼まれて、コロナの最中に桜坂劇場と音市場で上映させてもらったことも思い出した。短編とはいえ久々の新作だったので、その間に何をしていたのかと尋ねた時「糸満で農業を本格的にやっていた」という話を聞かせてもらった。
今回の映画は、監督のそんな経験が自然と反映されたシーンから始まった。

物語は、ざっとこんな感じだ…。
かつて人気を博したコザの女子高生バンド「銀天ガールズ」の4人のメンバーも今ではアラフォーで、それぞれの仕事や子育てと日々の暮らしを精一杯生きている。そんな時「コザ銀天街」の町おこし企画の音楽コンテストに「銀天ママさんズ」として出場することになって、一度は諦めた夢が再燃することに…。

最初に「DEPARTURE」(2000年)を見た時に感じたことなのだが、中川監督の撮る作品の絵には、憂いのようなものを孕んだ、ある種のダークネスが漂っている。スクリーンに映し出される沖縄の風景が、どこかザラついた質感で、すっきりとクリアな感じがしないのだ。おそらくそれは監督の意図するもので、その絵作りは、本作にもしっかりと踏襲されているように感じた。舞台となる「銀天街」、沖縄市照屋の風景は、そうした微妙にスモーキーな質感にとてもハマっていた。

物語の背景にあるのは、音楽を通したコザの商店街「銀天街」の町おこし。前のめりに”やろう”と賛成する人もいれば、”そんなにうまくいくわけがない”と言う人もいる。現実の場面でもよくある些細な意見の齟齬が、妙にリアルに感じられるのは、今の私自身の軸足がコザにあるからだ。
実際に行動に移すか否かというのは、理屈を超えて、一人の熱意とか、意思によるところが大きいと思う。この作品では商店街の理事長役のジョニー宜野湾さんが、静かなのに熱い物語の推進力のような役割を果たしていた。

「銀天ガールズ / 銀天ママさんズ」の4人のメンバーのキャスティングも実に素晴らしかった。物語の大きな軸として必要だった、歌の上手いボーカリスト上原由起子役にjimamaさんを起用できたのは大成功への鍵だったと思う。そのヴォーカルは、R&Bにもピッタリで彼女自身の新境地を開けたようにも感じられた。これ以上のキャスティングはなかったかもしれない。金城ななえ役の上門みきさんの、揺るがない、ウチナーの母の姿は見ていてとても安心感があった。嘉数りか役の畠山尚子さんが表現するある種の熱さとか、新垣美竹さんが演じた宮城真澄の芯の強さなどにもかなりグッときた。
4人は、なかなか思い通りにいかない日常の中でさまざまな葛藤を抱えながら、それでも明日に向かって力強く生きるという意志を示していた。それを支えていたのが常にそばにある音楽だったのだと思う。

jimamaさんが演じる上原由起子の長い不在は、中川監督が長らく映画の現場から離れていたことと重なった。10月20日に公開された映画は、かなりヒットしていると聞いた。”単純に音楽で街おこし”という話ではなく、コザの銀天街に暮らす人の生き様を映しだしながら、そこで繰り広げられる登場人物たちのあらゆる葛藤が、沖縄に暮らす私たちの日常と地続きであるからなのだと思う。その共感の連鎖が始まっているのだと思う。

どこかのタイミングで、テルミー(jimamaさん)や沢田さんのライブもやれたらいいなと思う。映画の物語に、現実が並走して追い越していく瞬間を見てみたいのだ。

(C)2023年 SOUTHEND PICTURES (C)コザ十字路通り会

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