逆さまの世界 (短編小説)

ある日、田中は目を覚ますと、自分の部屋が完全に逆さまだった。天井にベッドが張り付き、机と椅子が空中に浮かんでいる。「これは夢だ…」そう思いつつも、床の冷たさが現実を突きつける。


突然、古びたラジオが動き出し、奇妙な音楽が流れ始めた。音楽に合わせて壁に描かれた絵が動き出し、田中に語りかけた。「ようこそ、逆さまの世界へ。ここでは常識を捨てろ。」


田中は恐る恐る一歩を踏み出すと、足元の床がまるで水面のように波打った。目の前には巨大な時計があり、針は逆回りに進んでいる。彼はさらに進むと、逆さに浮かぶ街並みが広がっていた。空には魚が泳ぎ、地上では雲が漂う。


「ここで何をすればいいんだ?」田中は声を震わせながら尋ねると、壁の絵が再び動き出した。「自分の道を見つけろ。逆さまの世界では、全てが逆の意味を持つ。」


田中は深呼吸をし、未知の冒険に身を投じる決意を固めた。街を歩くと、逆さに立つ建物から不思議な光が漏れているのが見えた。その中に入ると、逆さまの人々が楽しそうに生活していた。彼らは田中に手を振り、逆さまの生活の楽しさを教えてくれた。


田中は次第に逆さまの世界に慣れ、自分自身の常識を疑うことが楽しくなってきた。ある日、彼は逆さまの世界の出口を見つけた。そこには一枚の鏡が立っていた。田中がその鏡を覗くと、元の世界の自分が映っていた。


「ここで学んだことを忘れずに。」鏡の中の自分が微笑んでそう言った。


田中は一歩踏み出し、元の世界へと戻った。彼の部屋は元通りだったが、彼の心には新しい視点が芽生えていた。常識を捨てることの大切さを学んだ田中は、これからも逆さまの視点を大切に生きていくのだった。

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