南十字星ガクルックス探索物語 ★預金残高★

預金残高

2016/11/2

最近、面白い商売が増えている。
声の振動で人を治療するK式振動療法とか、歯にオシャレするトゥースアートとか。10年前に比べると、考えられないものが、次々と発明されている。

そんな中、新たにオープンした銀行がある。その名も「天の預金」銀行。
徳を積むと、それが天に預金されていくといわれているが、この銀行に行けば、今まで自分がどのくらい徳を積んできたかがわかるらしい。

そもそも徳って何なのかよくわからないし、わかったところでどうなのだろう、とカスミは思った。カスミは、ある懐石料理店で働いていた。そこの大将は、銀座の有名な老舗のお店で修行してきた職人気質の人で、自分が苦労してきたせいか、従業員に非常に厳しくあたった。朝早くから夜遅くまで、大将の叱責に耐えながら、カスミがこの仕事をもう5年も辞めずに続けてきたのは、純粋に料理を作るのが好きだということと、自分の味を追求したいという思いからだった。そうやって一生懸命作った料理を、お客さんが残さず食べくれることが、カスミには何よりも嬉しかった。

「天の預金」銀行では、一生のうちに1回だけ、現在の自分の預金残高を確認できるという。
カスミは癒し系の仕事についているわけでもなく、特別に人に親切というわけでもないので、徳なんて積んでないだろう。だから預金は全く期待していなかった。ただ残高不足になると、のちのちヤバいことになるらしいと友達から聞き、早いうちに知っておけば、どこかで挽回できるかもしれないと思って行くことに決めた。しかも、この銀行の残高チェックは無料で、今後の預金のアドバイスもくれるという。

カスミは1日だけ大将から休みをもらい、「天の預金」銀行を訪れた。ある部屋に入れられ、そこで待つように言われた。そうすると、わかりますからと。

カスミが、椅子に座ってじっと待っていると、体全身がある感覚に包まれた。
あー、美味しい!コレコレ!私が出したい味は。思わず声が出た。自分が求めていた味が口の中に広がっていたからだ。そして、その味わう喜びが体全身にまで広がった。カスミは、しばらくその感覚に酔いしれた。

20分後にドアが開いた。

「いかがでしたか?」
銀行の人が声をかけてきた。

「あの、私正直よくわからなかったです。なんか不思議な感覚はあったのですが、数字が示されたわけでもないですし。残高はどのくらいだったのでしょうか?」

「いえ、あなたは体験したはずですよ。ここには、あなたが人に与えてきたものが預金されているのですから。」

カスミは満足気に頷いた。

明日の朝も早いなー、大将からまたお小言を言われそうだなー。微笑みながら、カスミは銀行を後にした。


*南十字星には、アクルックスという一番メジャーな星もありますが、その物語は作ってないです。これは、変性意識状態で拾った言葉、感覚などをメモを取り、不必要なものは削り、新たに文章として組み立てたものです。そのままという訳ではないのですが、なんらかの特徴は出ているように思います。

南十字星の各恒星は、四元素を示すと言われ、そこをクリアにしているかどうかが、宇宙へ飛び出す鍵となると言われています。探索すると、ツッコミを入れられたりするのです。

あなたの四元素は、どうなってるでしょうね?


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