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革命と南下の逆風その2〜チリ アリカ〜

夕方は海に行った。長く美しいオレンジ色の尾を水面に揺らしながら、水平線の向こうを泳いでいる夕陽は、実に美しく言葉を失った。それでも人恋しさからか、失ってしまった言葉を取り戻すようにその辺りにいた二人組の女の子に声をかけた。一人は先住民族の血を引きながら、トゥバックアマルの肖像画を彷彿させつつ、あどけないながらもキリッとした高貴な、褐色の肌であるが、造形的にはヨーロッパ系の顔立ちで、テニスのアルゼンチンのサバティーニのようだった。もう一人は明らかに白人のヨーロッパ系のようで分かり易かった。二人はまるでコマドリの姉妹のように仲が良かった。彼女達に言わせると長く仲良くいるには秘訣があるとのこと。どんな秘訣か聞くと、借金をしないことだと言う。そこら辺のオヤジでも言いそうなことだなと思いながら続けて聞いた。さらに聞くとどうしてもお金に困って借金しそうになったら、早めに相談することだと言う。金額的には日本円で10万円くらいだと言う。10万円くらいなら本人がすぐ何とかできそうだと思った。しかしよく考えると確かに日本であれば、働く気があれば失業保険でカバーできる範囲だし、働けない状態でも生活保護の1ヶ月の受給額と同じくらいだし、むしろ社会福祉協議会の緊急小口も20万くらいだから、借金を補填してさらに1ヶ月分の生活費が出るくらいだと感心した。
そんな話をしているうちに二人が泳ぎに行こうと誘って来たので、3人で大海原に泳ぎ出した。二人は二頭のイルカのように長い手足をくねらせながら、オレンジ色の海と太陽の中を時々潜り、時々浮き上がり、時々逆さまになり足だけ突き出し泳ぎ続けた。その度に水が弾けて夕陽でキラキラ輝いた。彼女達は全てを赦し、全てを振り払い、全てから解放されるように泳ぎ続けた。泳ぎ切ると砂浜に戻り、頭を傾けて片足で飛び跳ねながら、耳から水を抜いた。そして青とブルーと赤のチリの国境の配色と同じ色の大きなバスタオルを頭からすっぽり被り、顔だけ出して体を拭きながら着替え、帰り支度を準備した。あたりはオレンジ色からパープルとダークブルーへと暗くなり始めていた。暗くなる前に彼女達は帰りの準備を済ませ、チャオと言って手を振り去って行った。


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