雨降る街のフェアリーテール



硝子の森には紫陽花が咲いている
その紫陽花の元にある水溜りは 雨の街に続いているらしい

けれど気を付けて行くといい
雨の街の女王は とびっきりの嘘嫌い
彼女の前で嘘を吐いた日には きっと街から出られなくなるだろう

それでもキミは行くのかい
雨止まぬ街 硝子の紫陽花の更に奥へ

ならば一つおまじない
許す理由を 常に忘れないで 留めておくんだ


ログホライズンTRPG
『雨降る街のフェアリーテール』


魂の翼持つ<冒険者>たちよ
地平線の彼方にあらたな記録を刻め!



■はじめに

この記事は拙作「雨降る街のフェアリーテール」の制作秘話や語りたい所を語るだけの記事になります。シナリオのネタバレしかないので、ネタバレを恐れる方は閲覧をお控えください。


■マスターシーン

おや、そんなに走っては危ない。
キミ達、そんなに急いで何処に行くんだい?
硝子の森に遊びに?子ども達だけで?
悪い事は言わないよ。やめておくといい。
硝子の森にはね、硝子の紫陽花が沢山咲いているんだが。
その紫陽花の下に産まれる水溜りの奥には街が広がっていてね。
そこにはレーニアっていう恐ろしい女王様が住んでいるんだ。
レーニアは鎌を持った恐ろしい女王様でね。
キミ達が硝子の森になんて遊びに行ったら、キミ達のことを食べてしまうだろう。
おうちに帰る?そうしておくといいよ。キミ達には危険な場所だからね。
さてと、僕も家に帰るとしようかな。もうすぐ、雨が降るらしいから───。

こんな導入でした。この後登場するレインの発言にして、このシナリオの問題となった「レインが吐いた嘘」になります。この嘘を受けたレーニアはレインを「水溜りの街」に閉じ込め、レインを閉じ込めたことで力を増したレーニアは無意識に外に雨を降らせ続けてしまうのです。

雨の原因は作中語られませんでしたが、レーニアが人を閉じ込め罰している途中であることを示していたりします。御伽噺「水溜りの街のレーニア」にも、もしかしたらそんな記述があったのかもしれません。

エンディングではこのマスターシーンとほぼ同様の内容が語られています。硝子の森に向かおうとした子どもをレインが止める一連の流れは変わっていませんが、台詞の一部が変わっています。

レーニアは鎌を持った恐ろしい女王様でね。
そう。キミ達がうっかり足を踏み外して水溜りの奥に行ってしまったら、危ないだろう?
おうちに帰る?そうしておくといいよ。キミ達には危険な場所だからね。
さてと、僕も家に帰るとしようかな。雨上がりの道を、歩いていくとしようか───。

「もうすぐ雨が降る」から「雨上がりの道」に変わっているんですね。レーニアに対する嘘も、言わなくなっています。冒険者との冒険で彼も反省したのでしょう。流石にレーニアに捕まった後にレーニア絡みで脅そうとは思わなかったのかもしれません。

■レインと言う青年

この話のキーパーソンの一人であるレインは、関門都市ボクスルトに住む小説家の青年です。「猫と月夜の喫茶店」「夕立の足跡」などのタイトルの本を書いていて、雨や猫をモチーフにした小説を主に書いていたそうです。この辺りは3班で少し触れましたね。

「水溜りの街のレーニア」に憧れ、一節を暗唱するほど大事に読み続けてきた彼にとって、水溜りの街に閉じ込められるのはただ恐怖だけが残るものではありませんでした。戦闘終了後の彼に良く表れていると思います。

「レーニアは嘘が許せませんでした。人を傷付ける嘘を、許す事ができませんでした」
「レーニアの許せないという感情は、人影さえも産みだします。罰を望む人影を、産みだしてしまいます」
「けれど」
「けれど一番許せなかったのは、人の些細な嘘さえ許せない自分自身だったのです」
「嘘がとびきり嫌いなのに、嘘を許したかった。そんなままならない所が、とても可愛らしいと思ったんだ」
「レーニア。いつかキミがうそつきを許せるようになると良いね。僕は、心からそう思うよ」

うそつきを嫌うあまり、人を傷つけ続けるレーニアに対する彼の言葉はレーニアを逆上させるものばかりでした。そもそもレインが嘘をついた時点でレーニアは聞く耳を持たなかったでしょうが。嘘が嫌いなのに嘘を許したい。そんなレーニアを「可愛らしい」と表現している彼は実はなかなか豪胆な人物なのかもしれません。

レインと言う青年を初期にデザインした時はもっと物憂げな人物でした。人が嫌いで嘘も嫌い。だからレーニアに同調したという設定が実はあったのですが、そうするとレーニアがレインを閉じ込める理由がなくなってしまうのでレインには子どもの為にささやかな嘘をつく青年になって貰いました。物憂げ具合はもう少し残しても良かったかなと思っています。彼のタグは[ヒューマン][小説家][男性][雨好き][憂鬱の作家]なので、ものを書いているのも日々が憂鬱だからなのかもしれませんね。

物憂げな作家にしすぎるとPCとの会話が難しくなるのも、彼の性格が変わった一因でした。閉じ込められて疑心暗鬼になってしまっては進行に支障が出るな、と思ったのもあり彼は比較的素直な人物にデザインされました。1日2日でさくっと終わって、だけどしっとりと残るお話にしたかったので信仰の都合彼は回しやすい性格に変更になったのです。

お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、ドリズルもレインもあまり冒険者に敬語を使う方ではないんですよね。強い者として敬うというよりは、隣人としてありたいという思考が強い兄弟だったりします。報酬も距離も適切に。そんな関係であろうとする兄弟です。今回はレインの依頼でしたが次はドリズルがメインの依頼もあるかもしれませんね。

■硝子の森

硝子の森はボクスルトを出てすぐ近くにある森である。
葉が硝子でできた木々、花弁が硝子でできた花々が咲き乱れるこの森は美しいが、時折エネミーが現れた。
それらを退けながら、硝子の紫陽花が咲くエリアに到達したキミ達は紫陽花の下に大きな水溜りがあることに気付く。
御伽噺やイベントの通りならば、この水溜りに足を踏み入れればレーニアがいると言われているエリアに辿り着くことができるだろう。

個人的にこのシナリオの気に入ってる要素の一つです。元々はボクスルト(箱根)付近にある箱根ガラスの森美術館をイメージして作られたエリアです。この美術館の紫陽花エリアが凄く綺麗なんです。特にお気に入りはクリスタル・ガラスでできた「オルテンシア」です。この庭園でしか見られないそうなので、お近くの方は是非。作中に出てくる硝子の紫陽花はこちらをイメージしたものになっています。

水溜りの街のレーニアとは、この都市に伝わる古い御伽噺である。
この都市の近くにある硝子の森というエリアに咲く硝子の紫陽花の下に産まれる水溜りの中に住んでいる少女の物語である。
ある日嘘を吐かれて傷付いたレーニアと言う少女が硝子の森の湖に身を投げた所から物語は始まる。
身を投げ、亡霊として湖を通し水溜りの中に住み着いた彼女は、嘘をついた人間を水溜りの中に引き込み人を閉じ込めてしまうと言われているそうだ。

水溜りの街が硝子の森から行くことができるのは、レーニアが硝子の森の湖に身を投げた為なのですが、レーニアも元はボクスルトの住人だったという設定があります。御伽噺として語られる程度に古い人物であるのですが、身投げをしてから年齢が変動していないのです。不老不死になり、エネミーと化した彼女は何度も産まれては倒されを繰り返しているのです。

■レーニアと前作の話

今回のシナリオのメインNPCにして、エネミーでもあった彼女。彼女を語るには私の前作「うそつきと水溜りの街」について触れねばなりません。

こちらはアンサング・デュエット用とステラナイツ用に書き下ろしたシナリオなのですが、「異界によってうそつきに変えられたシフターが、レーニアの罰を受けて水溜りの街に閉じ込められ、レーニアの罰からシフターを救う為にバインダーが奮闘する」と言った内容になっています。ステラナイツの場合は「異界によってうそつきに変えられたシースと共にブリンガーがレーニアを討つ」と言う内容になっていました。

このシナリオ自体は私にしては珍しく3回以上回したものなのですが、前作の時点で「嘘を嫌っているけれど、嘘を許したかったレーニア」というものはデザインされていて、ままならないが為の八つ当たりをしてしまうのは雨降る街のフェアリーテールと大よそ変わりありません。レインと似たような事を言っていますが、このままならないレーニアというものを私が気に入ってしまった為に「そうだログホラでもシナリオをコンバートしよう」と至ったのです。

うそつきと水溜りの街を初回で遊んでくれた神室さんにお願いしてレーニアのエネミーデータを作って貰ったんですね。神室さんにはレーニアの立ち絵も描いて貰ってるんですがこれがまたすごく可愛くてお気に入りです。可愛かったでしょう!(自慢)

さて、前作では「嘘をついてレーニアの罰を受ける人」と「それを救う人」がいたわけです。雨降る街のフェアリーテールでは、罰を受けるレインとそれを救う冒険者と言う形で前作と似たようなことをしています。戦闘前にレインは台に立たされているのですが、これは完全に処刑台ですね。処刑台の前で冒険者達は戦闘するという流れになっています。

レーニアの罰を受ける人を救う人を冒険者にして貰うにあたって、一番楽しみにしていたのは「嘘とどう向き合うか」でした。ついていい嘘とはあるのか、嘘とは貴方にとってどんなものなのか、そして「貴方は嘘を許せますか」というのが今回のお題の一つでもあります。これは前作のお題でもあったのですが。人がつく嘘がどんなに痛いものであっても、貴方は許すことができるでしょうか。人がつく嘘がどんなに醜いものであっても、貴方は認めることができるでしょうか。そんなお題が込められています。

■レーニアと言う少女

「嘘を吐いた人は、此処で裁かれるの。ここでみんな、みんなね。貴方も例外なくね」

嘘をとびきり嫌い、嘘に傷付けられ身投げし、エネミーとなった少女。モチーフは雨の中でも驟雨をイメージしています。嘘に傷付けられ、泣き続けた子でもあるのです。それ故に、全ての嘘を滅ぼそうとしているんですね。できないと、実は分かった上で。冒険者たちの前に立ちはだかり、うそつきのレインを傷付ける彼女ですがままならない子でもあるのです。

前述の通り、本当は嘘を許したいと願う彼女ではあるので嘘を悪いものとしながらも許せるPCに対してはほんの少し情を見せるところもあります。特に嘘が嫌いなPCには共感するところもありました。無暗に鎌を振り回すでもなく、話を聞く時にはちゃんと聞いてくれる所は「水溜りの街の女王」に相応しい所もあるのでしょう。

彼女のスキル名は結構気に入ってるものが多いです。「四葩の影に垣間見るは」「罰は驟雨の如く」「愚かなうそつきに罰を」。「貴方はやっぱり嘘つきよ」はスキルの内容もかなり名前と合致していたのではないでしょうかと自画自賛するほど気に入ってたりします。スキルの内容も大好きです。作ってくれて本当に感謝感激……!

■最後に

これを書いている時には3班まで動いていて、2班まだ未完の状態ですが参加してくださった方々皆さん本当にありがとうございました。賑やかに雨を吹き飛ばすように罰を跳ねのける1班も、レーニアに共感し寄り添おうとしてくれている2班も、各々が嘘に対し真摯に向き合ってくれた3班も、どの物語も大好きです。レインを救ってくれて、或いはレーニアと遊んでくれ立冒険者の皆さん、本当に有難う。また次の世界でお会いしましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?