月と鯨に咲くアイリス


絶えず煌めく 星は囁いた
夜空を泳ぐ鯨に乗れ と

いつの日か違った 星のたもと
鍵は静かに待っている

いつか再び 違った星が 
繋がり結ばれ 白く輝くことを

花は咲く 都市は踊る 月は歌う
最後の一つとなった星が 煌めき続ける限り

ログホライズンTRPG
『月と鯨に咲くアイリス』

魂の翼持つ<冒険者>たちよ
忘れないで どうかキミ達の行く末が昏いものではないことを

■はじめに

この記事はそるこさん作LHZシナリオ「月と鯨に咲くアイリス」の作成秘話になります。例の如くネタバレ満載なのでプレイ後の閲覧を強く推奨いたします。

■ツキノクジラ内部都市

ツキノクジラと呼ばれる夜空を飛行する鯨型エネミーの体内に都市が広がっている。
そんな噂話を聞いたキミ達は、ある日ツキノクジラの内部に侵入することに成功した。
それと同時に意識を失ったキミ達は、目覚めると都市の内部に放り出されていた。

夜空を浮遊する「ツキノクジラ」と呼ばれる鯨型エネミーの体内に広がる都市。それがツキノクジラ内部都市でした。特殊なドワーフの一族「ルビット一族」が管理する機工都市でもあるこの内部都市が、此度の物語の舞台となります。

この都市を作ったのは後述する「リーリオ」とのシーンの演出の為でした。「特別な舞台」が必要だったため、一から設計した都市になる為特にモデル等はなかったりします。ルビットと言う単語自体は「Luna+rabbit」でできた造語です。月に兎が住むという逸話、月の鯨に住む兎などそんな流れでできた一族でした。

入り組んだ機工都市で、探索表次第ですが市場や森、赤茶の住居など様々な景色が広がっています。中でも作中必ず通る「純白の涙」が個人的なお気に入りでした。

淡く光る白い花々が咲き誇る花畑に、一人、誰かが立っている。
ローブ姿の青年は、白い花を一つ摘むと水で満たされた小瓶に入れた。
すると白い花は瞬く間に輝き、辺りを仄かに照らし始める。

白い花(以後、ララの花)の花畑。通称「純白の涙」。この名前は純白の花であるララの花と、ララの花が「水によって輝く」という性質を持っていることからつけられた名称です。ツキノクジラの天井が透明になっており、此処からは本物の空が眺められるという設定もお気に入りです。また、純白の涙以外ならクライマックス戦闘が行われるエリア「蒼天の鍵盤」も気に入っているエリアの一つです。

青い、蒼い、碧い。青の中を鯨が泳ぐ。
蒼天の鍵盤と呼ばれている制御区域に辿り着いたキミ達は、青の中にいる。

鍵盤のような外観のエリアをツキノクジラの制御区域にしようという設定は最初からあったのですが、元々はもっと鍵盤が戦闘に絡んで来る予定でした。あまりにも分かりにくかったので、データ上はもっと簡単なものに手直ししたのですが、難しい方の鍵盤のデータもいつか書きなおせたら使いたいなぁとは思っています。

このシナリオは元々実家のパソコンで書いていたものを思い出しながら書いていたもので、当初のタイトルは「ミュートロギアの鍵盤」というタイトルでした。そのくらい「鍵盤」が関わってくる筈だったのですが、軽量化の為に要素を削っている間に花の題材が重くなってきたので、タイトルも変更になりました。

ミュートロギアと言うのは元々ツキノクジラ内部都市の名前でした。この設定は風化してしまったのですが残ってはいるので、ツキノクジラ内部都市は実は今でもミュートロギアと言う名前が残っています。どの班でも未だにこの話はしていなかったと思います。

■リーリオと言う冒険者

ツキノクジラ内部都市に、冒険者より先にいたという青年・リーリオ。今回の物語のヒロイン?にあたります。リーリオに関しては本当にデザインに紆余曲折ありました。

上述する「ミュートロギアの鍵盤」時代は、ルビット一族を束ねている守護戦士の少年で名前も違いました。拙作「星降りのColortale」の本編を読んでくださっていた方は名前だけ覚えているかもしれませんが、夜半のギルドのローカス・ルーカと同一存在のキャラクターを此処に配置する予定でした。数年経って改めて書きなおすにあたって、ルビット一族を「束ねる」というよりは「隣人」である冒険者の方が動かしやすいなと思ったのでこの設定はなかったことになりました。

書きなおすにあたって当初は女の子にする予定でした。ヒロインらしく。ただリリの枠に女の子を持って来たい気持ちがあったので、女の子で被ってしまうな……と思ったのと、そこに立ち絵を横着しようと自PCを連れて来ようとしたら設定が噛みあわなかったんですね。ご存知日記のシーンがあったので、日記を書けそうなサブ職の方がすんなりいくなと思ったんですね。リーリオは1からデザインすることになったのでした。

好奇心旺盛で、いつも緩やかに微笑んでいる物腰の柔らかい青年はこうして完成したのです。引っ込み思案なリリや警戒心の強いルビット一族が彼に気を許したのは彼の人当たりの良さもあったのでしょう。

彼をデザインしていく過程で、段々リーリオと言うキャラクターを私自身気に入ってしまったのもあり、今となってはPCとしても活躍しています。

「此処の花、綺麗でしょう。ララの花っていうんだ」
「ツキノクジラ内部都市では、これが水に濡らすと輝くことから灯りにも使っているんだって」
「キミ達には好きな花ってある?」
「私はアイリスの花が好きで、私の名前もアイリスを意味するものなんだ。信じる心や頼りの意味を込められた花なんだけど…」

花が大好きで、彼の名前も花を意味するものだったりします。作中一切出てこない設定なのですが、リーリオの本名は黒宮理央という名前だったりします。好きな花の名前で、自分の名前にも近いこの名前をキャラクター名に選んだようです。

身体があまり強い方ではなく、やや特殊な事情のある家に産まれた青年でした。彼の一人称は「私」で時折女性的な物言いをするところがあります。彼は実は妹がいるのですが、兄妹で一人称を交換してエルダー・テイルを遊んでいたという設定があったりします。彼自身のリアルでの一人称は「僕」だったりします。もしかしたらリリと話している時などに時折「僕は~」なんて話してしまっていたかもしれませんね。

■リリやルビット一族

「えっと、ワワ・ヒー…えっと、こんにちは。私、リリ・ルビットと申しますす」

PC達が真っ先に出会うNPCのリリ。彼女はこの話で一番すんなりキャラが決まった子でした。引っ込み思案で頼りなさげで、だけど友達の為に頑張れる子。今回のシナリオにおける案内人で、キーパーソンのリーリオと主人公であるPC達を繋いでくれる役回りの子でした。

特殊な舞台であるツキノクジラ内部都市を案内してくれる彼女なのですが、当初はもっと引っ込み思案でした。冒険者達を遠目で見ながらひょっこり現れて、を繰り返して話せるようになる~など色々考えたのですが進行上の都合もう少し社交的な子になりました。リーリオがよく喋るタイプなのはリリと反対にしようと思っていた所があるのですが、蓋を開けてみれば割とどっちも喋るタイプの子になりましたね……。

リリと言う言葉はルビット一族の言語で海や青を意味するという設定があったりします。シナリオ中に登場する蒼天の鍵盤は「シクロロ・オー・リリ」という古い名称が残されている…と言う設定があるのですが、この設定を出した時、ある参加者に「シクロロって白黒からつけただろ!」と速攻でバレました。その通りです。ルビット一族の言語は実際にある単語のもじりでできています。

ルビット一族はリリ以外にも探索表次第でネネやシシといったキャラクターも登場するのですが、作者はシシくんがお気に入りだったりします。傭兵で気が良くて、リーリオから習ったコイントス遊びが大好きなお兄ちゃん。実はネネとは幼馴染と言う設定があります。作中殆ど出てこない設定ですがリリとはそこまで歳が離れていないので、気にかけてくれるお兄ちゃんくらいの関係だったそうです。

■繰り返す友達の話

今回のシナリオのお題は「繰り返す友達の話」だったりします。此処ではリーリオの日記のシーンについてのお話をします。

このシーンがやりたいが為にこの「ツキノクジラ内部都市」は産まれました。PC達は帰れなくて何も覚えていなくて、全てにおいて「初めまして」でも、リーリオやリリやルビット一族の皆にとって、貴方達は確かに隣人であり、友達であったのです。

リーリオもリリも、作中一度もPC達に「初めまして」とは言わないんですね。たとえ、PC達が彼や彼女達に「初めまして」と言ったとしても。この「初めて」と「初めてじゃない者」の違いをどうしてもやりたくて特殊なエリアであるツキノクジラ内部都市は産まれたのでした。

私は、彼らを混乱させないために自分が彼らの友人であったことは伏せておくことにした。
忘れてしまったのなら、また友人になればいい。どの道此処から出られなければ、どうにもならないのだから。

彼に対する反応はPC達によって様々でした。お礼を言う人もいれば、何故言ってくれなかったのかと悲しむPCもいました。さて、そんな彼らに対するリーリオの反応も人によって様々です。けれど、どんな反応をしたとしてもリーリオにとってPC達は大切な友人である事に変わりはないのです。

私はまた生き残った。
正確に言えば逃げ出した。
生き残らなければ敵の情報を記録できないと踏んだから敗北を覚悟した時点で逃げ出したのだ。

大切な友人だからこそ、生き残る為に逃げた事が後ろめたくもあったのです。記録を残す事が大事だと頭で分かっていながらも、それが良いことなのかと疑問に思う所もあったのでしょう。

生き残った罰なのかもしれない。
そう思うしかなかった。
現に私は彼らと挑戦する度に、最後には敵から逃げている。
記録の為と称して。
許されるとは思っていない。卑怯だと思っている。
何度失敗しても続けなければならない。
この鯨の外に出るにはツキノクジラの心臓と、機工魔達を倒さなければいけないのだから。

日記を書いている段階の彼は、PC達と「友達として」ツキノクジラを出る事を半ば諦めてもいました。覚えている者として、外に出すことは責務であるように捉えてもおりました。そしてそれをリリは良く思っていなかったのです。リーリオと最も近しいルビット一族はリリなのですが、近しかったからこそPC達の為にと一人で奔走する彼を寂しく思っていたのでしょう。

引っ込み思案なリリがリーリオの日記を持って逃げるのは、凄く勇気がいることでした。リリはきっと自分を先に見つけたのがPC達で安堵したことでしょう。でもきっと、リーリオが先にリリを見つけていたとしてもリリを叱ることはなかったでしょう。そのくらいリーリオも、リリに対して理解があるのです。

ルビット一族の皆は確かにPC達のことを覚えていたので、だからこそクライマックス後半の戦いの演出は起こったのでしょう。帰る為とはいえ、都市の為に全力を尽くして戦うPC達に協力したい気持ちが確かにあったのです。リーリオの日記にもありますが、ルビット一族に戦う術をきちんと教えたのはリーリオなのですが、教えられた事をしっかり生かしたかった気持ちもあるのでしょう。

■終わりに

この記事を書いた時点では、2班が終了して少しした頃だったりします。彼の日記と、そこに至るまでにツキノクジラ内部都市の冒険を楽しんでくれて、そして何より彼と「もう一度」友達になってくれて、遊びに来てくれたPCの皆さんは本当にありがとうございました。キミ達の次の冒険も、楽しいもので在りますように。また、次の世界でお会いしましょう。

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