左傾化エンタメの世界

 ツイッターで、宗田理の「ぼくら」シリーズが気に食わなすぎて図書委員のときに除籍にした、なる武勇伝をひけらかしているツイートがバズっていた。こういう武勇伝きどりはネットでは嫌われるかと思いきや、そうでもなくそうだそうだと宗田だけに賛同の声が集まっているようで、結局行為を批判してるんじゃないんだなあこういうのって……
 いやそんなことはおいといてだね、一方で「あのシリーズってそんなに嫌がるもんだっけか?左翼アレルギーも来るとこまで来てるなあ」というような声もあって。

 うんまあ、除籍にした奴ってのは全然褒めるに値しないですけど、左翼っぽいかというとそれはそうかなあ。だって「ぼくら」シリーズで一番有名なのと言ったら親や学校に反抗して立てこもる「七日間戦争」だろうし。 「ぼくら」シリーズは自分のころにはもうすでに収束に向かっていて、というか巻数が多いわりに品切れが結構多くてどこから読めばいいかわからなかったりして何冊か読んだ程度なんだけど。

 どうも昭和の時代、西暦としては80年頃までじゃないかと思うのだけど、児童書の世界に「左傾化エンタメ」とでもいうべきものがあったようだ。宗田理の小説は角川文庫だったけど、こちらはB6サイズとかが中心のオーソドックスなかんじの児童文学。有名どころはその後児童向け文庫に入ったりして結構ながくにわたって読まれたりしていますが。
 明確な定義はない というかおれが考えたものなのでないに決まってるんだけど、左翼っぽい価値観を特に疑わず背景として物語が進行していく、でも基本的にはあくまでエンタメであることは動かない、というあたりですかね。自分のころでも読まれていたり教科書に収録されたりしていた戦争文学なんかはエンタメとしてはつらいとこがあったりするので判定微妙。

 たとえば「宿題ひきうけ株式会社」。株式取引をしてないんだけど、金を取ってクラスの子の宿題を引き受けるという子供たちの物語なんだけど、内容はけっこう多岐にわたっていて、通知表について考え合ったり、PTAのとりくみが憲法違反じゃないかと学校新聞で提起してみたり、そもそも勉強するってどういうことなんだ?という点にスポットをあててみたり。
 いまだとバッシングされそうだなあという内容。

 「チョコレート戦争」は無実の罪をきせられた小学生がお菓子屋とペンを使ってで戦うという筋立てで、ジャーナリズムは左翼とイコールではないけれど、子供ながら理不尽と戦うという話。

 たてこもる、といえば「五年二組の宿題戦争」というのもあった。宿題をださないと生徒と一緒に決め合った先生の方針について親からは不満の声が出て……という話なんだけど、たてこもりを先導する委員長が難しい言葉を使うとそれはよくないという声が上がったりするあたり、運動論が頭にある作者が書いているという感がある。

 共通していることとしては、ちゃんと勝利するってことですね。今だと叩かれそうだなあという話ばかりだし、まあ正直今の時代に生き残れる議論が含まれているかというとかならずしも多くないと思ったりするのだが。

 「七日間戦争」のころにはもう左翼は後退していたと思うけれど、筋立てとしてはこういう左傾化エンタメを最後の最後に角川商法に落とし込んだのが「ぼくら」シリーズだったんじゃないかという気がする。

 左傾化エンタメとしての児童文学。確かに権威主義者には耐えがたいものなんだろうなと思うんだけど自分は嫌な思いしないしおれが小学校のころにはすでに廃れてたんですよね(91年入学)。まあ七日間戦争の時点で、リアタイだと幼稚園(当然知るはずもなし)だし。
 じゃあこんなに詳しく書くていどには記憶にあるんだ?というと、これは小学校の図書館なんかで読んだんですよね。

 だからその頃に新たに出た児童文学ではあんまりなかった風潮だと思うんだけれど、自分が当時なんだか嫌な気分になったのは、この反対のタイプの児童文学。右傾化とはまた違うけれど、親や学校は「従うものだ」が前提にされているようなやつ。こちらのほうは新しくて、だからやや目にする機会は少なかったんだけど、たとえば「お母さん、わたし家出します」とかまあ子供がそのまま家出しちゃったらある種リアリティがなさすぎるのでそうなるのは仕方ないとは思うんだけど、いやーな感じがしましたね。
 「宇宙人のいる教室」はいじめをテーマにしているのでこれもいじめを肯定されても困るよなってのはあるんだけど、説教臭いくせに宇宙人の出身地の天体名だけへたくそなもじりでバカじゃないのかと思った覚えがある。このころにはどっちかというと4分類の本ばっかり読むようになってたんである。

 「ぼくら」シリーズを除籍にするくらい嫌いだった人なんかは、こういったあたりは好きだったりしたんだろうかね。
 子供を教え諭す、がメインテーマになってしまっているところがおれにはいけ好かなかったわけだが、このあたりは左寄りのものでもあるにはあって、「きみはダックス先生がきらいか」は苦手だったかな。

 ところでどこか納得のいかない左傾化ものとして、当時の教育学の潮流をそのまんま落とし込んだよな作品というのがある。「つうしんぼのない学校」はその名の通り、通信簿で順位分けして競争しあわない学校を舞台にした物語なんだけど、たぶんつめこみ教育が問題になった時代の問題意識に沿ったストーリーなんだとは思う。でも、子供に問題意識だけ説かれても。
 そのあたりは「宿題ひきうけ株式会社」なんかのほうが優秀かなあ。

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