名古屋の書店の思い出

 ちくさ松文館が閉店するというニュースが流れてきた。

 あーあの店、閉まっちゃうんだ、という感想。
 まあもう20年くらい行っていないわけだからなあ。あんまり残念とか何か言ってもどうもそらぞらしくなってしまうんだけれど、高校時代のことを思い出した。

 おれが生まれ育ったのは岐阜の片田舎なのだが、名古屋に出るのはそんなに難しくないので地元で買えないものは名古屋に行って探すということが習慣化していた。母親が名古屋出身だったので訪れる機会が多かったというのもあったが、中学の途中からは自分ひとりで行くことも時々だけれどあるようになった。

 高校時代、予備校や塾に恒常的に通っていたところはなかったのだけども、夏休みや冬休みには河合塾の講習を受けに行っていた。講習を受けるという名目で電車賃を出してもらって名古屋に遊びに行けるちょうどいい機会だった。あ、もちろん講習じたいはちゃんと出てましたよ。それはともかく、時期によって名古屋駅前のキャンパスに行っていたときと千種駅前のキャンパスに行っていたときがあって、千種駅のほうに通っていたときはそのすぐそばにあったちくさ正文館によく足を運んでいたのである。
 確か2階が参考書コーナーになっていて、願書もそこで買ったんじゃなかったかな。

 裏手に古本屋が1軒あって、まあ昔ながらの個人経営の店だった。そこで梶山季之が編集していたという雑誌「噂」をみかけて、結構高かったのだが、当時噂の真相を好んで読んでいたのでその類似雑誌らしいという話をどこかで聞いていたおれは1冊買ったおぼえがある。でもちょっとあてがはずれたというか、類似雑誌というのは「マスコミ業界誌だ」という意味での共通項だったんですね。

 そういえば中高時代は名古屋市内の古本屋をよくめぐっていた。自分の住んでいた町には個人経営の古本屋なんてもうなくて(昔はあったのかもよく知らない)、そういう店に行くのは名古屋に出てきた時だけだったので。当時古本屋が多く集まっていたのが鶴舞の駅前で、そこをうろうろとしてあんまり高くない本を何冊か買うというのをやっていた。噂の真相のバックナンバーを見つけてはよく喜んで買ってましたね。横溝正史とかも安く何冊も買い集めたような。
 古本屋が多めに集まってるところは他に大須や本山周辺の何カ所かもあったかな。地下鉄の一日乗車券であちこち回って、栄の丸善かMana Houseで新刊の本を見て回っていた(高いのでそんなには買えない)と思う。のちに名古屋駅に紀伊国屋書店が出来たので、そっちのほうがよく行くようになったような。

 高校を卒業して、実家を離れてからはたぶん千種駅前を訪れることは全くなくなってしまったんじゃないか。最初のころ、帰省のついでに1回くらいは訪れたことはあったかもしれないが。鶴舞の古本街も同様。まあ、進学したのが京都の大学だったので、そういう店はそっちでいくらでも行くことが出来たし。

 少し前に帰省した帰り、たまたま千種駅前を通過することがあった。車で帰省していて、名古屋に立ち寄ってから高速に入ればいいやとなんかうろうろしていた最中、ちくさ正文館の前を通り過ぎたんである。
 別になにか本を買わなくてはいけなかったわけではないのでいったんは通り過ぎたのだが、なんとなく気になって引き返してきて近くの駐車場を探して店に向かってみたら……
 ちょうど閉まってしまっていた。どうも閉店間際だったらしい。
 じゃあ裏手の古本屋を見に行ってみるか、と思ったら、こちらは店そのものがなくなっていた。あとかたもない。隣にビデオショップがあってそっちは健在だったので場所違いではない。

 その数か月後、ちょうど名古屋へ行く用事ができたのでついでに鶴舞の古本街へ立ち寄ってみた。いくつかみおぼえのある店が残ってはいたが、だいぶ店数は減っていて、残っている店もかつては2Fにも店舗があったはずなのに2F部分は閉鎖されてしまっていたり。新刊書店も一角にあったはずなんだけどそこもなくなってしまっていたり。

 ちくさ正文館の記事、20年前がピークだったと書いてあったから、その頃の話だものなあ。


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