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【BBG】BBGキャンプレポート(前編)|中川賢司

極端に言えば、《人間になりたくない》と思って日々くらしている。《中川賢司でありたい》と願って生きている。2泊3日の滞在型アート制作企画『BBGキャンプ』に参加し、それを通じて、その輪郭を《ぼんやり》から《くっきり》へとさせることができた。関係くださった方々はもちろん、自分自身とも《くらし》と《表現》についてわかちあえた、そんな3日間であった。

滞在を通じて、日に日に良い表情になっている言っていただき、うれしみ。
これが《農》の効能だ。

 そもそも『BBGキャンプ』と、それに紐付けされた中川の制作/展示の意図はなんだったのか? ブルーベリーガーデン黒岩直売所を拠点にして、来訪された方と対話し、また農業体験を通して《くらし》と《表現》について考え、アート作品を制作するというのが、噛み砕いた『BBGキャンプ』の目的。なので、わたしの制作/展示のコンセプトは《生活感を滲ませる》だった。まず直売所に着いてしたことは、寝泊まりする畳スペースを《部屋化》することだった。ポスターやTシャツなどの私物を飾ったり、飲みかけのペットボトルや、服とパジャマを散乱させたりした。おもむろに日記も置いてみたり。

中川の部屋を再現した直売所の空間。
無造作に置かれたお茶のペットボトルがいい味出してる。


 ここで記しておくが、わたしは精神障がい者で、人より狂っている。だけど/だから、もうひとつのコンセプトに《中川の中側を隠さず展示する》ということを念頭に置いた。畳の空間がある《スタジオ》のリノリウムの床に3畳程度の大きな黄色い紙を貼って、そこに日記や会話のメモ、思いついたことを狂ったように殴り書いていった。同時に今まで書いた長編小説30編くらいと、わたしの人生に多大な影響を与えた本と映画のDVDを陳列しレイアウトした。そうしたことでわたしの過去や狂気や、心の中側を表現できたのではないか。初日はその環境で生まれる小説を書こうと考え、2日目にはある程度、筆も進んだが完成には至らず、3日目に床に貼った黄色い巨大な殴り書きを、今回の成果とすることにした。それ相応な大きさのある紙を、文字で溢れさせられたことで満足感は得た。しかしながら、わたしが《精神障がい者》であることと、BBGキャンプのコンセプトとを結びつけられたかと言えばそうではなかった。剥離してしまったかな。とはいえ、下の展示レイアウトの写真を見ると狂っているので、わたしのなかの《狂気》は形になっていたのかもと思う。

1日目の展示レイアウト。


2日目の展示レイアウト。
3日目の展示レイアウト。

 7/1(土)~3(月)まで直売所の《スタジオ》を主戦場として、制作と展示を行なった。《スタジオ》は直売所の入り口なので、ブルーベリーを買いに来られるお客さんが多かったことを、肌感覚で、視覚で、聴覚で確認できた。平日の月曜日も午前中から客足があったので、ブルーベリーガーデン黒岩直売所が地元の人からも愛されていることを実感。そんな方たちの食卓にはもちろん、贈り物としてブルーベリーを受け取ったどこかの誰かもきっと、「おいしいねー」と言って家族と食べる光景が想像できて、農家っていい仕事だなあと感じた。《くらし》のなかでも特に重要な《食》に直結しているって素敵だよね。アートもそうなればいいと切実に思った。って、この3日間をそうするためにやって来たのは、わたしだった。

わたしの制作/展示のタイトルは
『わたしは精神障がい者、その狂気とおかしみの暮らし』。

 印象深かった出来事がある。1日目の午後に老夫婦がいらっしゃって、ブルーベリーを買い求めた。おばあさんが会計中、おじいさんがわたしに話かけてくれて、少しだけお話をさせてもらった。ほどなくしておばあさんが会計を済ませて戻ってくる。そんなおばあさんにおじいさんが、わたしが何をそこで制作しているのか説明してくれたのだが、おそらくおばあさんは認知症で、なかなか理解してもらえなかったのだが、おじいさんは憤ることなく、ほのぼのとおばあさんと話を続けた。中川家では父が認知症だ。だから、おばあさんの姿を父とシンクロさせてしまって、なんだか泣けた。その老夫婦の間に流れる空気感が、それまで生きた愛の煙のように美しくて、それが自然に漂っていて良かった。帰り際、おばあさんが「大いに頑張ってください」と言ってくれたので、大変にものすごいギフトをもらった。本当に穏やかな表情だったヨ。評価されることも大事だけれど、応援されることも制作するには必要なんだ。

本文とは脱線するが、この写真はいつの間に
撮られたのか覚えていないので、
それだけ集中していたということか。

 そういえば同じく初日に来てくれた方に、展示しているものは無作為に選んだ物か、それとも作為的に選ばれたものなのか問われた。自分では素の自分を出していたつもりだったが、「このDVDを持ってったら恥ずかしいな」とか、「この本を読んでいた頃の自分はダサいから展示しないでおこう」と実に巧妙に無意識な編集が成されていた。そのことに気づかせてもらったことには感謝したい。この文章も飾らずに書いていくつもりだが、さてどうなるだろうか。(後編に続く)

わたしの47年の人生に与えた映画と本。


2日目のブルーベリー収穫の1コマ。
親切丁寧に教えてもらった。
実を一目で、獲り頃か否かを
判断していくのがとても難しかった!

わかち座 BBG事業
農作物とアート作品を収穫するプロジェクト

企画・制作
わかち座

支援
信州アーツカウンシル(一般財団法人長野県文化振興事業団)
令和5年度 文化庁 文化芸術創造拠点形成事業

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