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時を味わう【BBG】BBG収穫祭オープンスペースレポート|GOKU

時は金なり。

 そのような感覚が私たちの生活の中で大きくなりすぎてはいないだろうか。効率的であることが最終的な目的となり、究極的にもてなすこと(受け手に不愉快な気分を与えないことが命題)が良いとされ、そしてその先にできあがった、固い石造りのような社会(そのくせ、どうせ脆い)。壁は断絶を生み、境界をつくり、中と外とを分け、明確な解答のないものは、悪しきものとされた。日々、コンクリートの建物で仕事をしている私は、それだけで息が詰まっている。そこにこのコロナ禍だ。しかも3年経っても、日本における状況は大きくは変わっていないと認識している。あくまでも私は、だけれど。しかし、その我慢の限界も近い。高まった内圧は壁を壊すことなくその内側を標的に、爆発の手はずを整えてはいないか。ところで、若者は時間の有効活用を求め映画を倍速で観るという。事前に評価を読み、評価の低いものは観ないらしい。その評価は誰が下した評価だろう。あなたの知る由もない誰かではないか。そのようなことを考えて暮らす私が、「第1回BBG(ブルーベリーガーデン)収穫祭の「オープンスペース」の記録を残す。

 収穫祭は、ブルーベリー畑に面したほぼ屋外を中心に行われた。テントのような劇場は、簡単なステージと、土間にビニールを張った客席、時にはブルーベリー畑を侵食しながら。演目は、音楽と、演劇っぽいものと、短編芝居。それぞれの作品に関連性はなく、恐らくはコンセプトなども共有されてはいなかったのではないだろうか。共有されていたのは、ブルーベリーガーデンという場と、その時という時間だけだ。そして観客も、特に目当ての演者がいるわけでもなく集まったのではないかと思われた。夏らしくよく晴れ、屋外のイベントには最高の1日だった。物々交換で得られた新鮮な食材でつくられた素材の味を存分に活かした料理が振舞われたのが午前11時30分。そして「オープンスペース」の開演が午後2時。ゆっくりと1時間をかけて食事をとっても、開演までは1時間半待つことになるスケジュール。浅間山からの風を受け、太陽の陽射しに身を焦がし、虫よけスプレーを塗って、テイクアウトの珈琲など飲みながら思い思いに過ごす。待つ。何かをするための時間ではなく、何もしない時間を得るという体験を私はいつぶりにしただろう。こどもたちは自由に遊ぶ。何もしなくていいとなれば、やはり子供は遊ぶのだな。大人は語らう。恐らくは初めて出会った者同士、あるいは久しぶりに再会した者同士、何の利害関係もない出会いの、奔放な会話は、このコロナ禍によってどれだけ失われてきただろう。そして、その失われた先で、生まれなかった作品や、場や、関係性がどれほどあっただろうかと思うと、少し苦しい。

 さて、思い思いの2時間半を過ごした後「オープンスペース」は始まる。さっとんの、暮らしの中での感情の移ろいから生まれた歌。声を張り上げるでもなく、淡々と歌われるその歌声、歌詞に、時に耳を澄まし、あるいは、ぼんやりと聴いていた人もあったろう。そもそも音楽に聴き方なぞあったろうか。続く、海の家は「演劇っぽいもの」。競りに参加したり、箪笥に見立てられたテントに入ったり、観客参加型の演劇っぽいもの。舞台も、庭からテントからブルーベリー畑までを縦横無尽に使い、マイクで、地声で、拡声器で、読まれる台詞を聴いてよし、小諸の自然を背景に動き回る役者を目で見て楽しむもよし、ただ風に吹かれているもよし、の演劇っぽいものであった。演目と演目の間もかなりゆったりめにスケジュールが組まれており、何かに追われるような感覚もない(スタッフはどうだったかわかりませんが)。そして3つ目の演目。ライブペインティングと詩吟と写真でつくられた短編芝居。登場人物の2人の関係性が会話から浮かび上がり、そしてどのような結末を迎えたかを提示しながら、写真の上にライブペインティングが施され、本格的な詩吟が披露された。いなくなった娘の痕跡とも言える絵と、母の想いに、もの悲しい余韻が残る。

 振り返ってみても、なぜこの3つだったのかはよくわからないが、それぞれの演目についてよくよく覚えているはなぜだろう。恐らくは、その時の私たちは、じっくりと時間を味わっていたのではないだろうか。スピードと正確さを求められる日常の対極とも言えるオープンスペース。時間の流れを充分に体感できるほどのゆったりとしたスケジュールと、曖昧さをよしとする演目(海の家の、演劇っぽいものに代表される)を、五感を使ってじっくりと味わう。時間をかけて味わえば、通り過ぎることなく受け取れるものがあることを、私はこのオープンスペースから感じた。時間は概念ではなく、もしかしたら食べ物なのかもしれない。丸呑みしていたら感じられない、時間を収穫するためのイベント。時間を咀嚼し、味わい、吞み込むためのイベント。だったとしたらそれは正に収穫祭の名に相応しかったと言えるのではないだろうか。

 時間は食べものなり。

GOKU

さっとん Music Live
海の家 演劇っぽいもの
小川恭未子×浅岡純子×トム宮川コールトン(写真)
詩吟×ライブペインティング×写真でお届けする
短編芝居

わかち座 open farm事業
ブルーベリーシアタープロジェクト

企画・制作:わかち座
支援:信州アーツカウンシル(一般財団法人⻑野県文化振興事業団)
令和 4 年度文化庁文化芸術創造拠点形成事業

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