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【BBG】BBGキャンプレポート(後編)|中川賢司

 前編終わりの話は、制作面と展示面でのトピックスだ。農業体験についても書こう。行なったのはブルーベリーの収穫(7/2日)、ブルーベリーのパック詰め(7/3月)。収穫ではわきあいあいと世間話をしながらの作業。途中で長めのお茶休みもあって、雑談。かと思えば、その収穫技術は初見から、それがプロの手だと悟らされて、職人技だと思い知らされた。
 パック詰めの際の最後の検品もブルーベリーガーデン黒岩のスタッフたちには、お手の物だったが、わたしはそんな一瞬で、「この実は熟しすぎ」だとか「これはジャム用かな」とか判断できなかった。
 末恐ろしいのは、どちらの作業にも《ゆとり》があったこと。わきあいあいとした雰囲気に、殺伐としたオフィス仕事には絶対ない《ゆとり》の時間が感じられた。制作には鬼気迫るものが必要だが、《ゆとり》がないと《あそび》もなくなる。つまり、それは苦しい。もちろん産みの苦しみも必要だけれど、《たのしい》がないとアート活動は続けられないとわたしは考えている。だから、ブルーベリーガーデン黒岩のスタッフさんたちには、尊敬の念を覚える。自ら《たのしい》を産み出し、演出していて、こんなふうに生きたい、こんな仲間を持ちたいと思った。

お茶っこタイムの一コマ。

 もう一度、制作の話に戻る。近所や遠方から《スタジオ》まで足を運んでくれた人たちの数は、ありがたいことに、わたしの想像を越えた。「制作の邪魔してごめんね」と言ってくれる人が皆だったけれど、貴様と対話できて、幸せだったし、嬉しかったから、気にしないでおくれ。無理やり、来た人々に朗読を一編捧げる試みもした。1時間くらい話し込むのも当たり前で、普段はアートのことについて話せないし、家族にだって執筆の悩みを打ち明けることはないけれど、がっつり話せる人ばかりだった。ブルーベリーガーデン黒岩直売所の持つ磁場みたいなものか。わたしの引力では確実にないから、やはり、あの場所は不思議な引力を持っているのだな。そういう場所を少しずつ増やして、訪れる人と喋って意気投合して酒を飲んで醜態も晒す。そんな場所をひとつでも多く持ちたい。ブラックホールみたいな好奇心をそそられる、危険な吸引する力を擁するあの場所を、大切にしたいと考えている。

書きまくって自己満足は満たされた。でもきっとひとりよがりじゃない。
芸術のすべてはひとりよがりでできていると対話の中で聞いたんだ。

 記憶に残っているのは、《自分は自分のままでいいのだ!》と思わせてもらえた瞬間で、ほかには、おむすびは人と人を結ぶから《おむすび》などと教わった雑談が印象的。この企画のホストであるわかち座の黒岩力也さんが握ったおむすびを食べた直後に、そんな会話を来訪者さんとしたから不思議な偶然だった(お味噌汁もおいしかった!)。「農業は命をいただく仕事だから、やさしくないとできない。中川さんはやさしいから農業に向いていると思う」と言われたことも記憶に焼き付けられている。あと「人の評価はアテにならないが、自分自身の評価もアテにならない」というセリフには、納得しすぎて爆笑。「優れたところは誰にだってある」という言葉には、心からすがりたい。「続けることだけが人間の持ち得る唯一の才能だよね」と話したのも耳タコなのに新鮮だった。それは何度でもわかちあいたい。「本当に自分はこの方向を目指して進んで良いのか?!」と迷いがちなわたしだけに、ブレずに歩むことの大切さを、数々の人との対話から得た。

わかち座・黒岩力也さん(写真右)の短編小説を
わたしが朗読したら面白いかもねと意見をいただいた。
障がい者支援に関わる団体さんにもお誘いのお手紙を送った。
来ていただいた団体の方に利用者さん渾身の印刷物をいただき、刺激を受けた。

 7/2(日)夜に開かれた『Farmar's Market Dialogue』も有意義な時間だった。多岐に渡る展開であったが、終始緩やかな坂道のように話は穏やかに進んだ。いつしか「褒められたことはあるか?」という話題になり、全員が「褒められるって嬉しいヨネ」ということを口々にしていて、しかもそれは大抵が子どもの頃の原体験であることが発覚。褒められることは《表現》の源になり得ることを、身を持って感じた。わたしにも娘がいるから、もっともっと褒めると誓ったナ。

『Farmar's Market Dialogue』。2時間の対話をまとめるとしたら
「子どもを褒めよう」というフレーズに行き着くかな。

 それはさておき、3日間も家族に会えない、家の猫たちと触れ合えないのが、こんなに寂しいとは想像していなかった。なんなら解放感を味わってやる!くらいの勢いだったが、それがどうしてだ、初日の夜からホームシックになった。家族というのは《くらし》には欠かせないもので、もしかしたらわたしにとっては身体の七割を占める水分以上に大切なものかもしれない。改めてここに感謝の心を記す。

左のイラストは娘が描いたわたしの似顔絵。
これを見た方に「いい娘さんだねえ」と言われてとても嬉しかった。

最後に。ホストのわかち座の理念を書き置いておこう。

『農作物もアートも育む「畑」として
自由な発想で表現を共に楽しむ空気を醸成する集団』。

 確かにこの3日間にはそんな空気がたっぷり漂っていた。何気ない対話もたくさんあった。農作業中の太陽光線が熱かった。《くらし》と《表現》がテーマなのを、すっかり忘れ、過ごした。そして何より自由にアート制作をさせてもらった。2泊3日滞在して何かを生み出すという、クレイジーな企画が立ち上がったのも、そんな《自由な発想》があったからだと身を持って確信している。
 わたしは精神障がい者である前にひとりの《中川賢司》という人間で、それ以上でもそれ以下でもない。卑下することなんてない。奢るほどバカでもない。大切なことをこの企画で教えていただいた。《人間でありたくない》という突飛な発想でさえも許してくれた。そんなわかち座に感謝。来てくれた方、気にかけてくれた方に感謝。そして浅間山、田んぼ、畑、風、土などの大自然に感謝。きっとわたしがどんなに狂っても、BBGキャンプで得たことはDNAが忘れない。
 わたしはわたしのままでいいのだ!
 シンプル・イズ・ベスト。明日もまたわたしらしく、表現し、くらす。

最終日の片付けの最後に残った今回の制作物。
たたみ三畳分、書き殴った。気持ち良かった、楽しかった。
「わたしはこんなわたしが好きだ」。日が過ぎる度に段々強く、そう思えた3日間でした!

わかち座 BBG事業
農作物とアート作品を収穫するプロジェクト

企画・制作
わかち座

支援
信州アーツカウンシル(一般財団法人長野県文化振興事業団)
令和5年度 文化庁 文化芸術創造拠点形成事業

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