雄弁は銀、沈黙は金 -トーマス・カーライル
0.はじめに -秘密主義YPに捧ぐ
このデッキレシピのコンセプトを初見で推察できる方は、
一体どれほどいらっしゃるだろうか。
エクストラデッキにその答えがある為、ここではあえてメインデッキのレシピのみ掲載している。
答え合わせは後々として、今回の記事のテーマは
デッキコンセプトを如何にして秘匿するか
である。
コンセプトを秘匿する理由、それは
相手を驚かせる為である。
というのも、ファンデッカーは得てして、
勝利よりも独自性やインパクトを重要視する。
デッキで自分を語りたがる。
インパクトを最大化する上で最も大切なことは、
口ではなく棋譜でデッキを語ること、
即ち、ちゃんとやりたい事が実戦で出来ることである。
そして、次に大事な事は、
デッキで語る前に、相手に悟られない事である。
魅せたいコンボが成立する前に相手に見せ場を悟られては、
インパクトは俄然落ちてしまう。
ギリギリまで息を潜め、その時を待ち、一気に開放する。
これこそが、デッキのインパクトを高める最良の方法である。
1.秘密はどこから漏洩するのか
日常生活に於いて、秘密がバレる切欠は大抵が
違和感の蓄積である。
仕事を理由に帰りが遅い日が続き、何故か酒臭い。
吸わぬ筈の煙草の匂い。スマホの確認回数の増加。
重なれば重なるほど、浮気の疑いは濃くなる。
多くの場合、インパクトの大きなデッキを扱おうとすると、
構築やプレイングの無理(="ノイズ")が生じる。
相手が聡いプレイヤーならば、そのノイズから相手のデッキや戦術の糸口を見出そうとする。
シナジーの弱いカードが併用されていれば、
それらを結ぶ共通項から答えを探ろうとする。
相手が目先の最適解を選ばぬ時は、その先に見据える最終目的を見通そうとする。
また、単純に、確定的情報が出てくることで、秘密がバレることも多い。
浮気相手からのメール、ホテルの領収書。
遊戯王で言うと、最終目的であるキーカードが、ハンデスやランダム墓地肥やしで見えてしまう事は、良くある悲劇である。
秘密主義YPにとって、ノイズやキーカードを如何に誤魔化すかは技術の見せ所である。
2.キーカードは何故バレるのか
冒頭で紹介したデッキのキーカードは、《神聖魔導王エンディミオン》と《パワーボンド》である。
今回のデッキレシピを見た時、嗅覚の鋭いプレイヤーは
この56枚の中でこの2枚がキーカードではないかと当たりをつけることができるだろう。
そうでなくとも、この2枚は、なんとなく、何故か、目立つカードではないだろうか。
デッキレシピを広げた時、キーカードというのは、どうしても目立ってしまうものである。
それには、幾つか理由はある。
ひとつ、キーカードとして著名であるカード。
パワーボンドがそれに当たる。
アニメで印象的な活躍をしたカード等、カード自体の印象が強いカードは、キーカードと見做され易い。
ふたつ、唯一性が高いカード。
神聖魔導王エンディミオンがそれにあたる。
エンディミオンは墓地の凡ゆる魔法カードを名称ターン1なく回収できる効果を持つ。
カテゴリを指定しない魔法カードのサーチサルベージ手段は片手で数えられるほどしかない為、このカードは様々なデッキのコンボパーツとして重宝されている。
みっつ、知名度が極端に低い、若しくは悪名高いカード。
これらに当てはまるカードは、要は「無理にでも使おうとしないと使えないカード」であり、物珍しさ故にどうやっても目立つ。
これらの要素に加え、「汎用性が高くないこと」もキーカードの香りを引き立たせる。
汎用性が高いカードは「パーツ」「手段」と見做されることが多いためである。
今回はデッキレシピからのキーカードの推理を例としたが、このような推察は対戦中でも同様に行われている。
パワーボンドがサーチされ、神聖魔導王が墓地に送られた時、
鋭いプレイヤーはこう思うであろう。
あ、こいつ、神聖魔導王でパワーボンドを連打する気じゃねえか?
3.キーカードを秘匿する:木を隠すなら森の中
最強のキーカード秘匿術は、ドロー加速などにより非公開情報のままキーカードを抱えることだ。
しかし、環境が高速化し、サーチや墓地肥やしが充実した現代において、その戦術の難易度は高い。
私が考えるキーカード秘匿術には、幾つかある。
ひとつは、カテゴリごと採用してしまうという方法。
木を隠すなら森の中、というやつだ。
そうしてしまえば、キーカードはone of them(その中の1枚)でしかない。
先程のデッキでは、神聖魔導王エンディミオンがキーカードとバレないようにする為、
デッキの軸に【エンディミオン】を据えた。
【エンディミオン】には万能サーチである《魔力統轄》が存在し、キーカードである《サーヴァント・オブ・エンディミオン》や《魔法都市エンディミオン》にアクセスできる。そしてそのサーチ先の選択肢として、神聖魔導王を紛れ込ませてしまうのである。
更に、閃刀やウィッチクラフト等、魔法を多用するカテゴリを併用することで、魔法カードや魔力カウンターを軸としたデッキとしての印象を濃くすることも出来る。
4.キーカードを秘匿する:ミスディレクション
もうひとつのキーカード秘匿術、それは、
それぞれのキーカードの活用方法にミスリードを施すことである。
人間は何かに疑念を持った時、一度その回答を見いだすことができれば、その事について再度疑うことは少ない。
つまり、相手の疑念に対する偽の回答を用意しておけば、
その点について相手に疑われる事はもうない。
ミスリードとは、そのキーカードに紐づいた、本命と別の目玉コンボに注目させてしまうことである。
手品で言うところの、視線誘導(ミスディレクション)だ。
今回の場合、パワーボンドがそれにあたる。
パワーボンドは《サイバー・ダーク・キメラ》(以下、キメラ)によるサーチを利用したが、
このサーチギミックに、私はミスディレクションを施した。
キメラはサーチ後、墓地融合を可能にする追加効果を持つ。
これにより、パワーボンドの素材を墓地から充てる、と言うのが本来のデザインであるが、
この素材代替効果は、パワーボンドに限らず凡ゆる融合カードに対応している。
そこで、《プロキシー・F・マジシャン》による融合効果にキメラの効果を併用することで、パワーボンドを温存しながらキメラの効果を活用するコンボを採用した。
その際、キメラと同じサイバー・ダークであり、序盤の準備に活用し終わった《サイバー・ダーク・カノン》《サイバー・ダーク・クロー》を素材に《ヴァレルロード・F・ドラゴン》を融合召喚することで、サイバーダークパッケージを無駄なく使うコンボとしてアピールする。
これにより、本命である「パワーボンドのサーチ」と言う動きを雲隠れさせる事に成功した。
因みに、Fドラゴンはその墓地効果により、最終盤面のキーカードである《神聖魔皇后セレーネ》のリンク素材捻出に貢献してくれる。
即ち、ただのミスリードを目的としたコンボではなく、本筋の動きに繋がる役割も果たしているのである。
5.ノイズを秘匿する:テーマ混成デッキに擬態せよ
ここまで、キーカード秘匿の極意についてお伝えしてきた。
では、無理なコンボや繋がりの悪さに起因するプレイングや構築のノイズは、どうやって秘匿するか。
複数のカテゴリやカードを掛け合わせた、テーマ混成デッキのようなデッキに擬態させるのである。
具体的には、繋ぎ合わせるカテゴリやカードのシナジーをより強固で自然にせよ、グッドスタッフを目指せ、ということである。
こう書いてしまうと、至極当たり前の主張にも思える。
冒頭のデッキはキーカードが2枚である為、話がシンプルである。
即ち、如何にパワーボンドと神聖魔導王エンディミオンを自然に繋げるか、と言う点に尽きる。
今回、この点は比較的単純であった。
何故ならば、パワーボンドへのアクセスに関する選択肢が少なかったこと、そして、その選択肢が強力であったからである。
パワーボンドを始点に考えると、そのサーチ方法は(魔法カード汎用的なものを除くと)僅か2種、《サイバー・ダーク・キメラ》と、《サイバー・ファロス》である。
サイバー・ファロスは「このカードが墓地にある状態で融合モンスターが戦闘破壊される」という厳しい発動条件がある為、キメラと比較して難易度は高い。
一方で、凡ゆる融合モンスターとの掛け合わせが検討できる為、相方となるカード次第では、ファロスに軍配が上がるケースもあるであろう。
今回、キメラが選ばれたのは、【サイバーダーク】の完成度と汎用性があまりにも高い為である。
《サイバーダーク・ワールド》により召喚権消費なしで愚かな埋葬を内蔵した2400打点が準備できるこのカテゴリは、クローを含めた初動の厚さも含め、その汎用性は最早説明不要であろう。
《神聖魔導王エンディミオン》だけでなく、《ヴァレルロード・R・ドラゴン》等、墓地へ準備しておきたいモンスターが複数あるこのデッキにとって、【サイバー・ダーク】の採用を見送る理由はなかった。
6.ノイズ秘匿の落とし穴:木を見て森を見ず
しかし、今回のケースは非常に運が良いパターンである。
大抵の場合、混ざり合わない両者を繋ぐカテゴリにはそれ程強いシナジーが見出せない。
コンボを秘匿したいか否かに関わらず、
構築の中でシナジーの薄さに気付き頭を抱えたことがあるプレイヤーは非常に多いはずである。
そんな時に必要なのは、一度引いて見ることである。
冒頭のデッキの場合、デッキの根幹は「神聖魔導王エンディミオンとパワーボンドを繋げる」である。
しかし、構築を進めるうちに、本質を見失う事は良く起こり得る。
つまり、いつの間にか、ゴールが「【エンディミオン】と【サイバーダーク】を繋げる」にすり替わってることがあるのだ。
元々の目的に立ち返ると、サイバーダークにもエンディミオンにも拘る必要はないのに、いつの間にかこの両者を繋ぐことが必須となってしまい、ドツボにハマる。
これはデッキ構築あるあるであり、なんなら人間あるあるである。
こんな時、解決方法は単純明快。
煮詰まった時は、本質を見極める為に、スタート地点に立ち返ろう、である。
7.落とし穴からの脱出:スタート地点よりももっと前からリスタートする
私がよくやる方法としては、レシピからキーカード以外全部デッキから取り除いてしまう事である。
本質を見失った時は、枝葉をチマチマ選定していても埒があかない。
断捨離を進め、ミニマリストになって初めて、
スタート地点に帰ってきたと言える。
何故この作業が必要かというと、デッキ構築の初回スタートは、おそらくこの形からではなかったからである。
私が初めてこのデッキをレシピに起こした時、既にこの2枚以外の採用カードも決まっていた。
つまり、スタート地点で既に視野が狭まっていた。
壁にぶつかり、スタート地点よりももっと後ろから2回目のスタートを切る事で、これまで見えなかった景色が見えるようになる。
先程、パワーボンドのサーチは2種しかない、と言った。
実はこれは、スタート地点に空いていた落とし穴である。
サーチは必須ではない。
神聖魔導王エンディミオンを使うんなら、別に墓地から回収してもいいのである。
パワーボンド(通常魔法)をサーチする方法となると限られるが、
墓地に落とす方法となるとグッと選択肢は増える。
例えば、《ワルキューレ・フュンフト》で落とすなら、天使軸にして《祝福の教会 リチューアル・チャーチ》を採用すれば墓地に溜まりまくる魔法カードを活かしやすくなるのでは、とか。
《ティンダングル・トリニティ》で落とすんならリバースや悪魔族に伸ばせるな、なんて考えもできる。
もっと言うと、特定のカテゴリに頼らずとも、ランク6が組めればベアトリーチェで落とせばいい。
もっともっと言うと、パワーボンドのサーチなんて天獄の王でもキャッチコピーでも問題ないのである。
我々ファンデッカーは、汎用カードを嫌いがちである。
何かと理由をつけて、汎用カードを避け、独自性を主張したがる。
その結果生まれる強引な構築は、ノイズにより守秘を全うできないどころか、デッキとしての質を下げ、本来の目的であるコンセプトを見せることすら叶わないことになる。
構築の壁にぶつかった時、私は木を見て森を見ずという言葉を思い出すようにしている。
そして、スタート地点をグッと後ろにずらす勇気を出せば、見える景色は変わってくるはずだ。
8.秘匿の落とし穴:パワー負け
ここまで、秘匿の秘術について諸々語ってきたが、
秘匿はなかなか難しい戦術であり、策士策に溺れるという状況も少なくない。
ここで、これまでお話ししてきたことをまとめてみよう。
「既存カテゴリを上手く活用し、メイン以外の目玉コンボもあるような、メインコンボがなくとも綺麗にまとまって見えるデッキ」こそが秘匿性の高いデッキだと言うことである。
このようなデッキを求めすぎると、
デッキの質が良くなり過ぎることがある。
そうすると、最終目的に辿り着く前にデュエルの決着がついてしまう。
実際、私もよくこの罠にかかり、「何がしたいのかよくわからんけど、なんかシナジーが色々ありそうなデッキだった(小並感)」という形で試合を終えてしまうことがしばしばある。
コンボが決まるまで、真の目的がバレなければ秘密主義YPとしてはひとつの成功であるが、
いつまでもコンボが決まらなければ、そもそもデッキとして失敗である。
この現象はなにも、採用したカテゴリやサブコンボにパワー負けしてしまうことだけが原因ではない。
秘匿しようとするあまり、ブラフのカードやコンボを入れすぎた結果、本来の目的まで遠回りしてしまう場合にも起こりうる。
こんな罠にハマった時は、やはり、
一度、デッキの本質、真に必要なカードは何かを、今一度振り返るしかない。
経験上、表面的に無駄を削っただけでは、解決しないことの方が多い。
9.おわりに -秘匿は演出の一つに過ぎない
秘密主義YPの秘密主義構築は困難な道である。
個人的に最も情けないことは、秘密主義に没頭する余り、
デッキで語ることができず、試合後に口頭でデッキを語ることである(自戒を込めて)。
忘れてはならぬ事は、
秘匿はデッキの演出手段の一つに過ぎない、ということである。
以下に、エクストラデッキを含めたこのデッキの全貌を記す。
デッキのコンセプトやコンボは、下記の動画やツイートを参照されたし。
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