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スラックスの素材選び

良いスラックスとは何でしょうか?なぜ生地によって良い雰囲気になるものとそうでないものができるのか?
上下共地のスーツではなく、独立したトラウザーズを選び始めると、このような疑問が沸々と湧き始めると思います。
そこで今回は良いスラックスとはどのようなものか、そのシルエットと素材について考えてみました。


スラックスに求められる要素

スラックスは(ブレイシーズを使わない限り)ヒップとウエストで固定され、そのまま足元まで落ちていきます。
また、膝の曲げ伸ばし、歩行や着座に対応するよう、運動性を確保するために十分なゆとりを持ちつつ、ルーズな印象を省くためにきれいで安定したドレープが必要です。

ジャケットとは異なり、芯地を入れずにこれらを成立させつつ、シワへの耐性、シルエットの保持性(膝が出ない)、自然な伸縮性が求められるということです。



これは通常、多くの糸がしっかりと織り込まれた密度の高い生地から生まれます。綾織のような密度が高い織物はその典型です。

また強撚糸と呼ばれる、強く撚りをかけて作られた糸を用いて生地の強度を増した素材も相性が良く、これを平織にしたフレスコなどは、密度を高めずともスラックス素材に求められる要素を満たすことができます。

当然ながら糸そのものの強度も大切。スーパー120以上の細番手の素材は緩いドレープが入りやすくなるため、ゆとりの多いシルエットを形作ることができない上に耐久性も低くなることから僕は好んで使うことはありません。



スラックスに適した組成

織り方だけでなく組成も重要。シルク、モヘア、カシミヤなど、動物性の素材でもウールに比べて耐久性の劣るものはスラックスには不向きな場合があります。
それでもウールでは表現できない生地の特性を発揮させたい時には、ウールとの混紡率と相談しながら良い所どりをしていく。知見のある仕立屋はその塩梅をサポートしてくれます。


最後に気を付けるべきは毛玉。スラックスに適さない生地はよく擦れる部分が毛玉になることがあります。
生地を優しく擦り毛羽が乱れるようであればその生地は使わない方が無難です。実際に着用していく上で、その毛羽の乱れが増えていくことが容易に想像できてしまいます。




素材の具体例


● ウーステッド

最も定番的なのは標準的なスーツ生地に使わることの多いウーステッド。280g/m程度の重さ(密度)があると良い雰囲気に仕上げることができます。
ただし謂わゆるスーツ素材なので、単品スラックスをイメージする場合は色柄に注意しながら作ることをお勧めします。

● 強撚糸

上述した通り、強度があり、シワになりにくするため撚りをかけた糸を使った生地(より正確には通常の生地とは異なる方向に撚りをかけているもの)。暖かい季節にフォーマルな場面で使われることの多い素材です。

● フランネル

表面に起毛をかけているため、フォーマルとカジュアルの中間に位置する便利な素材。冬場に単独で着用するスラックスの代表格です。その起毛感によりニットやツイードと好相性。


● コーデュロイ

ほとんどはコットンで作られる、縦畝が特徴の織物。表面の触り心地やコットンの素材感などにより、冬のカジュアルシーンで用いることが多い素材です。



● コットンチノ

通常はコットンツイルを使用しており、硬くてシャープな立体感が特徴。自然な光沢のあるコットンはジャケットとの相性も良く、カジュアル用途でご提案しています。しかし水分による収縮や、膝部分を中心とした形崩れは避け難く、また細かいシワが入りやすいため、綺麗に着用し続けるにはメンテナンスが必要です。


● キャバリーツイル

コートにも用いられる強度の高い素材です。高密度で織られるため見た目にもハリがあり、ゆとりあるシルエットでも優雅な曲線を描きます。やや杢調の色味を採用することが多いため、カジュアルな雰囲気で着用するのがおすすめです。

● モヘア

ヤギの毛をウールに織り交ぜた混紡素材。独特のシャリっとした冷感と光沢が出るため夏用の生地として重宝され、直立した時のクリースの立体感が魅力的です。ただし通常の羊毛と比較して耐久性が劣るのが難点。

● リネン

吸湿性と速乾性に優れる夏用生地の代表格。そのゴワゴワとした硬さにより、ゆとりのあるシルエットにも負けず生地が直立し、立体感のある男らしさが楽しめます。褪色しやすいため薄い色でご提案することが多い一方、透けやすいので色選びは慎重になる素材です。また引き裂き強度が高くないため寿命は短く、最低でも300g/m 程度の重さが必要になります。


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