LinkPi ENC1を長時間使ってみた

 ネット配信が盛り上がっていて、猫も杓子も「配信!配信!」だったりするけど、相変わらずPCベースの「いつ落ちてもおかしくない」環境が多くの現場で使われている。今日はそんなお話。

ネット配信の現状

 相変わらずOBSなどのソフトウェアベースのエンコーダーに頼っている現状がある。パソコン1台で映像制作、音声制作、配信がすべて出来てしまうのでお手軽なのも幸いしているだろう。これ、悪いわけではないが、映像、音声を処理しつつ配信も、となると、PCにかなりの負荷がかかるのは否めず、コマ落ちや下手すると配信停止なんかの危険もはらんでいるし、実際そういう状況を何度も目にしている。私が担当している現場でも、Xeon+nVidiaの(導入した当時は)そこそこつよつよPCで配信をしていても、年に数回は「落ちる」のだ。これはもうPCを使う場合の運命といってもいいだろう。PCでは過負荷でなくても勝手に落ちることがあるものだ。

 私が運営している制作会社なのか販売会社なのかよくわからない任意団体(笑)「Office Stray Cat」ではもう何年も前からハードエンコーダーの利用を推進してきた。去年あたりにATEM miniシリーズというエンコーダー内蔵のバカ安な割に高機能なビデオスイッチャが登場してからは、PCを使わない配信(この場合は「エンコード」の部分を指す)が徐々に広まりつつ、なかには相変わらず「ATEM miniをPCにつないでOBSなどので配信」とか訳解んない使い方をしている人も見かける(もちろんそれなりのポリシーはあるのだろう。OBSでしか出来ない効果や処理を使うとか)。

ハードエンコーダーとは

 PCの処理能力を使って映像をエンコードする「ソフトエンコーダー」に対して、映像をエンコードしてサーバーに送り出す部分だけを担当するデバイスを「ハードエンコーダー」と呼ぶ。多くはSDIはHDMIで入力された映像・音声信号をH.264等配信に適した形式に変換(エンコード)し、RTMPなどのプロトコルで指定されたサーバーへ伝送する。民生機だとCerevo社のLiveShellなどが古くから存在するハードエンコーダーの例だ。

 ハードエンコーダーの利点はなんといってもPCの負荷が劇的に下がる事において他ならない。実際配信を始めるとPCのCPU/GPUがほぼ天井に張り付く状態になることが多いが、ハードエンコーダーを利用し、PC側では映像制作だけを担当させると、驚くほど使用率が下がる。とくにCPU利用率の降下が著しいはずだ。そうなれば、処理落ちを考慮して今まで諦めていた画像処理を更に追加するなど、コンテンツの質の向上にも寄与できるし、なにせ単機能PCであるハードエンコーダーはほぼほぼ落ちることがないので、神経を使う部分が一つ減らせる。精神衛生上も極めて有効であると考えている。

そんなわけで、LinkPi ENC1

  AliExpressとかで送料込1万円ちょっとで売ってるハードエンコーダー。おそらくこの価格帯では最強クラスといってもいい。一般的なハードエンコーダーと違うところを色々取り上げてみる。

・小型モニターで状態がわかる!

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 これ、じつは地味に便利な昨日で、一般的なハードエンコーダーはモニターがなにもなく、数個のLEDだけで状態を確認していた。しかしENC1は小型LCDモニターを搭載しており、IPアドレスや映像・音声信号の状態、CPU使用率、本体内温度まで表示される。とくにIPアドレスの表示はめちゃくちゃ便利で、これがないとDHCPでIPアドレスを自動取得した場合、どのアドレスを取ったのかわからなくなってしまうという悲惨な結果となってしまう。ENC1は本体上部のAまたはBボタンを長押しするだけでDHCPクライアントが作動し、自動的にIPアドレスをとってくる便利な機能付き。これにより、現場でまずパソコンをエンコーダーのデフォルトにあわせてIPアドレを変更して、管理画面にアクセスして・・・という苦行から開放されることになる。

・HDMIスルーアウト

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 地味に嬉しい機能その2。エンコーダーに入力する映像を確認するには、エンコーダーの前にスプリッタを挟んで、エンコーダー向けと確認用モニター向けに分岐しなければならなかったものの、ENC1にはHDMIにアウトがすでに用意されているのでスプリッタが不要。機材点数が減らせるのはそれだけでメリットしか無い。

・まさかのUSBカメラ対応

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 本体にはUSB2.0端子が装備されていて、ここにはUVC(USB Video Class)対応のカメラが接続できる。UVCとはわかりやすく言うとWindows PCでドライバをインストールしなくても動くUSBカメラのこと。実際手元にあるLogicoolのC270を繋いでみたらあっさり認識した。当然、すべてのUVCカメラが認識されるわけではないと思うが、HDMI対応機器じゃなくても取りあえず使えるというのはありがたい。とくに「本当は音声だけ送れればいいんだけどな」という現場でも、ひとまずUSBカメラを繋いでおけばなにかに使える、という安心感。まあ、映像はなくてもステレオミニジャックから音声いれれば、それだけ配信することもできるんですけどね。

・管理画面にプレビュー機能

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 LinkPiにもwebベースの管理画面があり、そこには機材のステータスの他、プレビューが表示されている。写真の例ではHDMIに何も繋いでいないのでNO SIGNALの表示になっているものの、通常はここにHDMI(ないしはUSBカメラ)から入力された映像が表示される。音声は再生されないものの、写真中画像(NO SIGNAL)の下に写っている緑色のラインはオーディオレベルメーターだったりするので、音声が入力されているかどうか、また入力前のミキサーのメーターと挙動が一致しているかどうかの確認ができるようになっている。また、画面右上のグラフは送出ビットレートの変遷を表しており、希望するビットレートが出ているかどうかを逐一チェックできる。

実際に使ってみて

 実は某コミュニティ放送殿にご協力いただいて、現在ENC1の長時間稼働試験を実施している。間にVPNを噛ましているので通信LOGは逐一把握できていて、LOGを見る限りは信号の途絶などは発生していないように見える。実際手元に受信環境を設置して長時間視聴をしてみたところ、10時間ほど途絶なしで配信できている。

 さらに、おおくのハードエンコーダーがそうであるが、このENC1にも「簡易サーバー機能」が搭載されているので、小規模・少人数への配信(身内でのモニター等)であればサーバーを設置する必要がない。またその際、高速に伝送できるSRTやRTSPといったプロトコルを利用できるので、1~2秒程度の遅延で伝送可能だ。実際前出の某コミュニティ放送(北陸地方)でも1秒程度の遅延で途切れもない(RTSP利用時)というレポートを頂いている。

 とうわけでとりわけおすすめなハードエンコーダー、LinkPi ENC1。サポートが必要なお客様向けには弊社でも販売しています(宣伝!)。が、商品がいつまで経っても届かなくても気長に待てるとか、故障時の対応がほとんど期待できないとか、使い方のサポートがなくてもなんとかなるとか、バイヤーと英語で喧嘩できるとか、クレカの情報抜かれる(私はAliExで2回ほどやられて、被害はなかったもののカードを交換したことがある)カクゴがある方は、AliExpressで直接買うとお安いです。

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