日本一のトップマネージャーに弟子入りしたら人生変わってた話その2

↑の続きその2です。

60を超えるであろう眼光が只者ではない相手に
どんな話を聞かせてもらえるのか
心が躍った。

しかしその期待とは裏腹に
話をした内容はほとんど覚えていない。

理由は単純で、めちゃくちゃ退屈だったからだ。
日本の政治の話や大きな仕事の話などスケール感が大き過ぎて
当時の私にとっては微塵も興味がわかなかったのである。


はやく営業の話をして手っ取り早く稼がせてほしい。
一体なんでこんな関係ない話ばかりしているんだ?
先輩はしっかり営業のことについて聞きに来たと伝えてくれているはずなのに。
話の流れをぶった切って営業についての話が聞きたいです!
といって気分を悪くされても困ると思い
話半分に師匠の話を聞いていた。


とにかく!営業でお金の稼ぎ方!教えて!
そんな気持ちがぐるぐると頭の中で回り続けていた。

そんな中、日本の政治の話から自殺者数の話になった。
「日本の自殺者の数は異常でな、15秒に1人死んでいるんだ。」
と師匠の口から言葉が出た。

数字に非常に敏感な私は
はやく営業のやり方が聞きたくてややカリカリしていたのも相まって
俺は思わず
「それはおかしいですね。15分に1人程度ですよ。」
と指摘した。

言い方はややぶっきらぼうだったと思う。

師匠「今まで多くの人にこの話をしてきたが、指摘されたことはない。
お前の数値が間違っているんじゃないのか?」

瞬間的に脳内で計算する。
日本の自殺者は年間3万人(※当時)だ。
どう考えても15秒は無理がある。近いのは15分だと。

私「いえ、15分に1人ですね。」

師匠「そこまで言うなら、賭けるか?いくら賭ける?」

この時俺はかなり腹が立った。が同時に勝利も確信した。
どうしてここまで自分の数値を確認もせずに信じられるのかは謎だったが
勝てる勝負だ。

退屈な話の中に飛び込んできたラッキーな提案にガッツポーズした。

いいお小遣いにもなるだろうと
財布を見た。
1万円と数枚の千円札が顔を見せた
もっと財布に入れておけばよかった!
なんなら今からコンビニで引き落としたいくらいだ。

俺「コンビニで引き落とししてきていいですか?」
師匠「それじゃあ帰りの電車にも乗れなくなるじゃないか」

どうやら師匠はこちらの心配をしてくれているようだが、勝つのは俺だ。
師匠の手持ちの方が気になる。

師匠「賭けるって言って負けたとたんに支払わない奴がいるんだよ。だから俺の前に賭けた金額を置け。」

それは俺のセリフだと言いたいところだったが、
このリスクヘッジの仕方は場数を踏んでいるなと思った。

こちらもリスクヘッジをしておかねばなるまい。

私「もし俺が勝ったら2人(となりでこの話を聞いていた)にも1割ずつお支払いしますよ」

これは証言や味方を増やすという意味でもいい手だったと思う。
利益は減るが、確実に勝てて8割残るなら十分だ。

そう思いながら師匠の目の前に1万円札を置いた。

師匠はもう勝ったといわんばかりに1万円札を自分の方に引き寄せた。

師匠は近くにあった電卓を出しながら
「14分に1人じゃないからと言って細かいケチをつけて
約束を反故にするなよ~。
これ使って目の前で計算してくれ」
と電卓を目の前に置いた。

どこまで無駄な自信があるんだ・・・と心底ムカつきながら
(早く営業の話が聞きたい気持ちもあり)
年間自殺者数をスマホで出しながら
電卓で計算していく。

カタカタ・・・カタカタ・・・
ほとんど15分に1人だ。
俺の勝ちだ。

私「俺の勝ちですね。1万円ください」
師匠は俺の置いた1万円と自身の財布から1万円を取り出すと
俺に渡してきた。

そして他に話を聞いていた2人に1千円札ずつ払う。

師匠は今までこの話をたくさんしてきたが指摘されたことはなかったと笑っていた。
そして
師匠「俺は負けても勝ってもどっちでもいいんだ。なぜだかわかるか?」

俺は負けていいわけがない!
と思ったので
「わかりません」
と正直に述べた。
勝った余韻もあり、ニヤついていたと思う。

師匠「俺が勝ったら儲かるし、負けたとしてもお前を育てることができる。だからどっちでもいいんだ」

俺はこの時負け惜しみだと思った。
何しろ初対面の、しかもかなり年下の若造に負けたのだ。

しかも俺を育てるかどうかも決めてすらいない。
たかが1万円で俺が育つとも思わなかった。
なにより相手が育ってうれしいというのがどうしてもわからなかった。

この師匠の言葉が嘘ではないことがわかるのはまだ先の話だが。

このあともさっぱりよくわからないスケールの話が続いていくが
賭け事に勝ったこともあり、やや上機嫌だった。
やはり詳しい内容はよく覚えていない。
が、何かスケールの大きな話をしていたなということは覚えている。
なぜか、考え方も古臭さを感じなかったし、流暢に言葉が出てくるので
他の初老の人とは全く違うなということは鮮明に覚えている。

最初に邂逅して2時間くらい経過してから
ようやく営業の話になった。

飛び込み営業の話で具体的にいつから、どのような形でやるか
簡単に説明があった。
どうやら師匠の下に幹部のような存在がいて、その人と会えばいいとのことだった。
どうやら師匠は営業を実際に教えるわけではなく、営業のマインドや組織運営を教えてくれるらしい。
60歳の人が飛び込み営業はしないだろうことはわかっていたので
教えてもらえるだけで十分だと思った。

報酬も大学生にしてはやや大きめで、アルバイトの数十時間分に匹敵する。
ただ、フルコミッションといって成果が出なければ給料は一切ない。
現場への交通費すら出ない。
完全成果制だ。
もちろん契約がゼロなら交通費で赤字になる。
大学生にしては地味にきつい出費だが
契約が1ついただければバイト数十時間分だ。元は取れる。

心が躍った。

これからよろしくお願いします!
お互い固い握手を交わし、この日はお開きとなった。

これでやっと営業ができると
怖さ半分、わくわく半分だった。

またしてもすぐに営業できないとはすぐに知ることになるのだが(笑)

この出会いが営業だけでなく、今後の人生が大きく変わる出会いだったことはこの時はまだ知りもしなかった。

※この話は多分フィクションです。
その3につづく

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