さようなら、ナインティナインのオールナイトニッポン ~変われた自分と変われなかった自分~

20年ほど前、ナインティナインのオールナイトニッポンをよく聞いていた。テレビのゴールデン番組で活躍する若手芸人である彼らが、ラジオを通してまるで近所のお兄ちゃんのように自分にいろいろと語りかけてくれたからだ。

当時ナインティナインの二人は芸能界のスターダムに一気に駆け上がっているところで、ゴールデンタイムのテレビ番組でよく見ていた。と同時に、オールナイトニッポンではその番組の裏側でどんな事があったのか、そこで出会った芸能人がどんな言動をしていたのかを報告していた。それはまるで、自分の友達が芸能人として出世していき、今までテレビ画面のこちら側から見ていた世界の裏側を教えてくれるような感覚だった。

またラジオでは、世間への恨み言のようなつぶやきも時々聞かせてくれた。大物芸能人や女性芸能人とうまくコミュニケーションできなかったことを、ある時は笑えるエピソードとして語ってくれたが、ある時はただただ恨み言、悪口のような放送をしている時もあった。こういう発言は岡村隆史が多かったが、だいたい矢部浩之の「何言うてはるんですか岡村さん」「お爺ちゃん何言うてるんですか」というツッコミで番組のバランスが取れていた。そして当時、ちゃんと大人になれるか不安だった思春期の自分は、テレビでは立派な大人に見える二人が自分と同じような不満を抱えていることに、勇気づけられていた。

思春期・学生時代を終えるころには、生活のリズムが深夜ラジオを合わなくなったこともあり、すっかり聞かなくなってしまっていた。そのうちに、ネットニュースでナインティナインのオールナイトニッポンの発言を目にすることが多くなった。上述の岡村隆史の恨み言が切り取られて紹介される様を見て、深夜ラジオの閉鎖的な魅力を第三者が台無しにしているような気がして、不愉快な気持ちだけを感じていた。

そして、ナインティナインのオールナイトニッポンを矢部浩之が脱退するというニュースを目にした。その時、番組を終了するのかと思っていたが、岡村隆史ひとりでオールナイトニッポンを続けるという話を聞いて、おかしいなという感情を抱いた。ナインティナインのオールナイトニッポンは、ヘビーリスナーであった自分からしても、矢部浩之の「お爺ちゃん何言うてるんですか」無しには聞けたもんじゃなかったからだ。

となれば、岡村隆史のオールナイトニッポンは、ナインティナインのオールナイトニッポンとはまたずいぶん変わった内容になるのだろうな、と思っていた。そうじゃなきゃ、続くわけがないと思った。

結局岡村隆史のオールナイトニッポンを聞くことは一度もなかった。そんな中、昨年末のとある日、地元の同級生と深夜ラジオについて話す機会があった。彼は岡村隆史のオールナイトニッポンを聞いていると言い、まだまだおもしろいよ、まだジャネットのコーナーとかもやってるよ、と語った。ジャネットのコーナーといえば20年前のラジオでやっていたネタで、下ネタに大きく依存したコーナーだ。ぼくはそれを聞いて、未だに何も変わっていないのかと思った。そしてそんなコンテンツが未だに深夜ラジオの覇王であることに、ガッカリした。

ナインティナインのオールナイトニッポンは、やり場のない鬱屈とした感情を抱えた自分にとって、救いの場であったと思う。ラジオパーソナリティーと疑似的なつながりを得ることで、学校という狭い社会で分かり合える人間が見つけられない気持ちをまぎらわせたり。等身大の人間が芸能界で成長していく様を見ることで、何も成長しない自分を勇気づけたり。スターへの階段を上る人間が世間への逆恨みを語るさまを見て、みんな同じだと安心したり。

だけれども、これは今年50歳になる岡村隆史がやるべき仕事だとは思えない。深夜ラジオは日本社会に存在してほしい文化だと思う。思うけれども、岡村隆史が担うべき役割とは思えない。少なくとも、未だに20年前のナインティナインのオールナイトニッポンの焼き直しを続ける必要はない。いまの思春期向けにはいまの若い芸能人がやるべきだと思う。

ナインティナインのオールナイトニッポン、もしくは岡村隆史のオールナイトニッポンは、変わるべきだったのだ、と思う。爆笑問題の太田さんも述べていたが、今でも岡村隆史のオールナイトニッポンに救いを求めている人はいると思うし、岡村隆史はそこに手を差し伸べようとしている。そしてその需要が十分あるということは、ニッポン放送が番組を終わらせないということが証明している。(おそらく、聴取率が高いのだろう。)だけども、だからこそ、続くためには変わるべきだったのだ。

4月30日の「公開説教」で、矢部は「辞めた人間に言われたくないでしょうけど、リスナー、小西さんとかスタッフ含めて、全員がそうしたんですよ」と言った。要するに、お前らいつまで同じことばっかりやっとんねん、とリスナー達にまで言ってのけたのだ。続く5月7日の放送では、岡村「2時」矢部「まだやってんねや」というくだりがあった。この矢部のツッコミは、ぼくがもう10年ほど前から抱いていた、ナインティナインあるいは岡村隆史のオールナイトニッポンに対する印象と全く同じだ。

ブログ「ヨイ★ナガメ」では今回の炎上をうけて、「お笑いは欠点を愛す世界であって欲しい」と述べられている。ぼくも欠点を愛する世界が大好き。決して岡村隆史が、岡村隆史のオールナイトニッポンが、完璧な大人の世界を見せるようになることなんて期待していない。等身大の人間が、なんとか変わろうともがき、何かを手に入れた気になってぬかよろこびし、あるいは変われなかった自分に気づき、世間を逆恨みする様が見たい。矢部浩之が言うように、ナインティナインは「笑わせている」のではなく「笑われている」のだ。

死ぬほど努力してスターダムを駆け上がり変わっていく様と、それでも変われない人間のどうしようもない部分を見せてくれる、それがナインティナイン岡村隆史のコアであり、私が求めているものだ。そしてそのコアは変わらないまま、それでも50代の大人へと成長していく様を見せてほしいのだ。





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