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愛城華恋にとっての舞台とは何か?

かとー
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序文

 これは『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』を浴びた上で筆者が愛城華恋にとっての舞台とは何かに迫るため「最後のセリフ」を主にひも解く文章となる。

 映画の冒頭から筆者の追体験を交えつつ論じていきたい。

1.冒頭のレヴュー

 まず、冒頭の華恋とひかりのシーンから。映画館の音響でトマトが弾ける音を初めて体感した日は忘れられない。そして上掛けを落とされた華恋の登場──脳が混乱した。レヴューが終わっている事実に驚く。何が起きたのか分からずに惹きつけられる。そして登場する神楽ひかり。ひかりはひかりなりにワイルドスクリーンバロックしたかったのだと私は思う。ワイルドスクリーンバロックとは何なのか? 取り敢えず長いので以下WSBとさせて頂く。WSBとはキリン曰く「彼女たちが作り上げた戯曲スタァライトの続き。誰もまだ見たことのない最終章」であり「あなたたちが演じる終わりの続き。わがままで欲張りな観客が望む新しい舞台」である。そしてその結果として舞台少女はWSBをすることによって過去への執着にケリをつけて前に進むのだと考える。

 ひかり曰く、冒頭のレヴューは別れの舞台である。つまりこれまで演じてきた『戯曲 スタァライト』の続きであり、キリンの言葉からもWSBの条件は満たしているかのように思う。

 しかし神楽ひかり版WSBは失敗する。何故なら観客は見逃してしまっているからだ。ひかりは冒頭のレヴューで以下のように主張した。

 ・これは別れの舞台。
 ・次の舞台へ進まなければいけない。
 ・キラめきで貫いてみせよ。

 「最後のセリフ」の時とビックリするほどにひかりの主張自体は変わっていないのである。

 しかし冒頭のレヴューは失敗に終わる──。要因としては三つ考えられる。まずは観客が不在だったこと。そして共演者である華恋が役作りに失敗(放棄)していること。最後にひかり自身も役作りに失敗していること。ことごとく失敗している。結果として二人の約束の証である東京タワーは真ん中からひしゃげて瓦礫と化す。

 ひかりは「さようなら愛城華恋」と言って去って(自主退学して)いく。WSBは失敗しているにもかかわらず──。

2.進路相談

 ここでみんなの進路相談中の舞台練習シーンに移ろうと思う。まずは華恋の役に入る姿が目につく。憑依型というか、実際に同様の事を経験しているから出来るのか? とにかく愛城華恋の成長が目覚ましいものであることが分かる。そして星見純那がそれに飲み込まれているのが悲しい。

 心情に移ろうと思う。

「私は往かねばならないんだ。あの大海原へ──」

 このセリフは純那の進路にもかかっている言葉だと考えている。演劇の第一線ではなく大学への進路。そしてこれはひかりにもかかっている。ひかりの自主退学の件もこのシーンで複層的に描かれている。華恋が「ならば僕は何を目指せばいい? 君を追って船に乗った。僕はこれから、何を目指せば──なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、行ってしまうのだ──」と言っている。

 華恋の失意は相当のものだったのではないかと考えられる。ただ、この迫真の演技は失意を舞台に落とし込める天才性を華恋が持ち合わせていることの表れとも言える。

3.回想開始

 そして回想が始まる。ひかりが愛城華恋の元を離れてロンドンに行くシーンがある。その時にTVアニメ『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』や『劇場版再生産総集編「少女☆歌劇 レヴュースタァライト ロンド・ロンド・ロンド」』と異なる点がある。それらでは、二人は滑り台の上で約束を交わしていたのだ。しかし今回は滑り台の下で約束を交わしている。このあと視点が上に移動していくと、東京タワーが現実ではない絵の世界かのよう
に滲んで見えている。私はここは華恋の心象風景の中であり、華恋にとって回想シーンは全て現在進行形で行われている役作りの一環であると考える。

4.ロンドンの地下鉄にて

 ロンドンのシーンに移る。ひかりの中ではWSBは終わったことになっているので自分の出番も終わったと思っている。しかし、実際はそうではなかった。なぜなら観客の求める終わりの続きは見せていないから。ということでひかりも舞台の上に立つために華恋の元へ向かう。

5.劇団アネモネと中学生華恋

 そして華恋の回想、もとい役作りが進んでいく。劇団アネモネでの舞台。人見知りだった華恋が立派に主演を務めている。しかし華恋としてはまだまだとのことだ。スタァには二人でなるのだ。そして華恋の叔母であるマキが神楽ひかりの写真を見る。ここで「凛々しい」と言っている事から、ひかりが何かしらの役を演じている写真を見せられているのではないのか。そしてひかりが立派に舞台女優への道を進んでいることをマキは知ったからこそ、華恋に聖翔を勧めたのではないのか?

 ここで青嵐の願書があることもニクイ演出だ。青嵐IFとか想像力を掻き立てられる。そのまま回想は中学生時代のシーンに移る。店を出てレッスンに向かう華恋。ここで信号が青なのに迂回して横断歩道ではなくて歩道橋を歩いているのは、ひかりのことを調べればすぐに分かるのに調べないことと、道路をまっすぐ歩かずに迂回していることをかけているのかなと深読みしたくなる。

6.“競演のレヴュー”

 視点はひかりに移る。SPACE CRAZY CUP。ひかりとまひるのレヴューである。さあ、日本代表露崎選手。笑顔で入場。ひかりは華恋との舞台と思っていたので終始困惑気味である。しかし、舞台は始まっている。ライバルとの競演は始まっている。あっさりと上掛けが落とされる。そしてまひるが怖い。ミスターホワイトの首がぶっ壊されるのにビビった。「大嫌いだった」というのは、まひるの本心にあったのではないのかと考える。でも、それは過去形。舞台の演技の糧。今はライバルである。だからひかりに発破をかける。ひかりの本心を聞こうとする。ひかりの感情を聞こうとする。ひかりのセリフを聞こうとする。ひかりの存在を炙りだそうとする。そしてまひるの優しさである超特大ミスターホワイトクッションの上でひかりは認める。華恋のファンになることが怖くて逃げたと白状する。そして本心を聞き出したまひるが正体を明かす。自分も怖かったと、それでも舞台に生きることを決めたと言う。そんなまひるに後押しされてひかりは華恋の元へと向かう。

7.「最後のセリフ」

 東京タワーの上にて華恋はひかりと邂逅する。そして己の役作りを披露する。「ひかりちゃんとの約束があったからここまで来れた、ひかりちゃんとの約束があったからここに立てた。やっぱり私にとって、舞台はひかりちゃん──」

 これが、華恋が回想という名の役作りを経て辿りついた答えだった。しかし、ひかりはそこに疑問を呈する。

「それはあなたの思い出? それともこの舞台のセリフ?」

 そして開幕のブザーがなる──。

「えっ──」

 舞台の幕が上がる。そこでようやく華恋はここが『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』という舞台であることに気が付く。そこで舞台が怖いところだと気が付く。ひかりしか見えていなかった華恋はどうしようか悩む。悩んで、悩んで、悩みぬく──。

「スタァライトを演じきったら何にもない。私は──」

 その果てに華恋が辿り着いたのは「再生産」だった。一度死んで、生き返り、次の舞台へ──。この一瞬の葛藤の中で華恋はWSBの本質をも掴む。それ故彼女は一度死ぬのである。ひかりが『演技でしょ──』と演技するくらいに上手に──。

 華恋が死んでから何度か顔がクローズアップされるが華恋の目は開かれたり閉じられたりしている。これはひかりがやっているとも考えられるが、やはり華恋が自分で死を表現する為にやっている「演出」なのだと考えた方が自然だ。そして死んでいる間も意識があるからこそ、ひかりの「華恋のファンになっちゃうのが怖かった」という言葉を聞くことができたので、「最後のセリフ」である「私“も”ひかりに負けたくない」(筆者強調)が言えたのではないかと考える。

 という事で華恋は一度死ぬことを選ぶ。ひかりからのお手紙と一緒に星摘みの塔(東京タワー)から落ちていく。

 ここからの映像はもう文章にすることを放棄したい。圧巻というしかなく、そして謎の高揚感と多幸感に包まれた。手紙や過去の思い出を燃焼させて更に列車は加速していき、「アタシ再生産」する。そして「最後のセリフ」である。ここでひかりのキラめきを受け取った華恋は負けを認めてしまったのだと考える。だから華恋の武器であるPossibility of Puberty(思春期の可能性)が折れてしまったのだ。これは華恋の思春期の終わりも意味していて、無限の可能性を持つ“思春期の可能性”が収束して舞台で生きていく人間になることが出来たのではないかと思う。しかしそれだけで舞台は終わらない。ずっとひかりは言っていた。「貫いてみせなさいよ。あんたのキラめきで」って──。そしてBlossom Bright(花の輝き)で介錯する。レヴュースタァライトを終わらせる為に華恋へ慈悲の心をもって介錯するのだ。

 そして「最後のセリフ」が華恋の口から発せられる。

 「私もひかりに負けたくない──」

 やっと言えた。やっとレヴュースタァライトを終えることが出来た。二人の約束の象徴である東京タワーは、冒頭では無残な残骸になり果てていたが、今度はしっかりとポジションゼロを突き刺しているのである。

 ひかりが上掛けを自ら放り投げる。

 そしてみんなも放り投げる(*1)。


*1 ここではオーディションに一番こだわっていた香子が真っ先に投げ捨てているのが印象的である。

8.エンディング

 そしてエンディング。ここだけは感想にさせて頂く事を先にお詫びする。

 『私たちはもう舞台の上』は名曲です。本当に大好きです。香子、ちゃんと、免許取ったんだね。真矢様、まひるちゃん、双葉はん。新国立入れたんだね。クロちゃん。カフェで絶対モテるでしょ。あー! 純那ちゃん。純那ちゃん! 純那ちゃん~! 大学行きから進路変更したんだね。ニューヨークに舞台の勉強で留学──涙がボロボロでした。純那ちゃんは眩しい純那ちゃんだね。あー! 大場ななー、大場ななったらもうなんであなたはそんなにポテンシャルお化けなんだー!! 王立演劇学院っていう一番高い壁に挑むことが出来るんだ──。いやーここでじゅんなななの進路ががらっと変わるの本当に衝撃的で感動でボロボロ泣いてしまいました。

 ちなみにこれは余談なのですが純那ちゃんの留学先の元ネタ校と考えられるThe American Musical and DramaticAcademy(AMDA)は基本的に二年制でそこからロスアンゼルス校へ進学して四年制大学の卒業資格を取ることが出来るのです。ななの進路先の元ネタ校と考えられる王立演劇学校は三年制の学校なのですよね。付き合っているじゅんななな設定の場合。純那ちゃんは留学を二年にするのか四年にするのか妄想が膨らみますね。ちなみに私はななが「純那ちゃん。大学行きたいって言っていたじゃない──」って後押しする感じがいいなーって思います。

 そしてひかりはもう舞台の上── 「私たちはもう舞台の上」

 ということで華恋も舞台の上。華恋は次の舞台へ向けて歩みを進めます──。

9.愛城華恋と舞台

 愛城華恋にとって舞台は何なのか? それは間違いなく神楽ひかりだったのだろう。普通の女の子の喜びを捨てて、大切な燃料として燃やすためにボイトレ、ダンスレッスン、劇団アネモネでの日々、そして聖翔音楽学園に入るまでの熱量を得たのは神楽ひかりと二人で約束した一緒にトップスタァになるという約束のためだろう。しかし、『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』は今までの関係性に疑問符を投げかける映画だ。みんな、それぞれ己の将来に向けて疑問を呈し、現状にメスを入れて、血を流すことをいとわない映画だ。そんな中で華恋にとっての舞台とは何なのか? その視野が広がった映画だと筆者は思う。今まで華恋は神楽ひかりとの約束に囚われていた。言わばフローラ役でありながらも実態はクレールであったと考える。今回、神楽ひかりというフローラによって華恋は呪縛から解き放たれて星摘みの塔から降りて、一人のまっさらな少女として生まれ変わって新たな歩みを進むことが出来たのだと思う。

 願わくば、その先も見たいという筆者の強欲な願いでこの文章を締めたいと思う。

著者コメント(2022.10.10)

 初めまして。かとーです!!
 今回は愛城華恋と舞台について文章を書かせて頂きました。
 考察文を書くのは初めてだし、論文を書いたのはもう何年も前なので色々と忘れていますが、とにかく書いていて楽しかったです。
 こんなに楽しいのも劇スが熱量ある作品だからこそだと思います。
 本当にこんな機会を設けて頂きありがとうございました。
 この文章が誰かのモヤモヤを解消したり、新たな考察の触媒となることを願います。

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