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舞台少女の生まれ変わり―次の舞台へ進む少女・天堂真矢について―

わすれなぐさ
https://twitter.com/wsrngsa1899


1.はじめに

 本稿では、アニメ『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』で描かれる舞台少女の生まれ変わりについて、そして次の舞台に進む少女・天堂真矢について述べていく(劇スからのにわかファンなので、超自己流に解釈している部分も多いと思いますが温かく見守って頂ければ幸いです)。

2.舞台少女の死と生まれ変わり

 「舞台少女の死」とは、舞台少女の命である「キラめき」(舞台に立つ喜び、スタァを目指す情熱)を失うことだと考える。キラめきを奪い合うオーディションは終わったはずだった。しかし99期生は、卒業を前に自身でキラめきを失ってしまう「舞台少女の死」に直面していた。

 舞台少女の死を克服する為にキラめきを生まれ変わらせるために必要なこととして、まず「舞台で役として生まれ変わる」ことを挙げたい。舞台少女は、常に新たな作品に飛び込み、新しい名を受け取り演じ続ける運命にある。新たな舞台は未知であるがゆえに「怖い」。しかし立ち止まっていては、いつかただの少女となり舞台少女の死が訪れる。恐怖心と向き合い、自らの意思で新たな舞台に飛び込む時、舞台少女はキラめきを放って再生産する。

「傷ついても、倒れても、舞台が私たちを蘇らせる。
舞台少女は何度でも生まれ変わることができる」

TVアニメ第11話より

「奪われたって終わりじゃない。失くしたってキラめきは消えない。
舞台に立つたびに何度だって燃え上がって生まれ変わる

TVアニメ第12話より

 更に「人生という舞台で“新たな自分”という役に生まれ変わる」ことも挙げられる。大場ななは、少女たちを第99回聖翔祭という舞台で永遠にしようとした。私たち観客も物語や登場人物を愛するあまり、進まない時間の中に少女たちを閉じ込めようとすることがある。しかし、時が止まり変わらないことは死と同義である。99期生も舞台少女である以前に「人生」という舞台に立つひとりの少女だと、観客が認めて続きを望んだ時、ワイルドスクリーンバロックが開幕する。卒業後の未来と向き合い、苦しみを伴いながらも過去を燃やす。不確定な未来に進む覚悟を決め、少女たちはキラめく。

「私の再演の中にいればなにも怖くない。
成長することも、大人になることもない。
自分を追い込む苦しみ、新しいものに挑む辛さ、傷ついて道を諦める悲しみから、みんなを守ってあげる」 

TVアニメ第7話より

「囚われ、変わらないものはやがて朽ち果て死んでゆく。
だから、生まれ変われ。古い肉体を壊し、新しい血を吹き込んで」

第101回聖翔祭スタァライト台本より

3.西條クロディーヌの「舞台少女の死」

 天堂真矢について論じるにあたり、西條クロディーヌが直面していた死についても考えたい。

 クロディーヌの生まれ変わりのきっかけは真矢であり、真矢もクロディーヌの存在を糧に高みを目指し続けることができた。そして両者とも聖翔卒業後はプロの舞台人として生きる覚悟があった。一見、キラめきを生まれ変わらせる条件は揃っている。

「でも、Merci. 天才子役だの未来のトップスタァだの調子に乗ってた私を壊し、生まれ変わらせてくれた。でも、私は負けない。トップスタァになってあんたの引き立て役じゃ無いって証明する」

TVアニメ第10話より

「弱いなんて、私が言えたセリフじゃないわね。舞台が私の生きる道。とっくに決めたことだと思っていたのに、向かえてなかった。次の舞台に。あんたとのレヴューに満足して、朽ちて、死んでゆくところだった。だから生まれ変わるわ。あんたとケリをつけて、次の舞台に立つために」

劇場版より

 2人の違いは「満足」だった。クロディーヌにとって、真矢と演じたレヴューデュエットは、そしてその時に交わし合った思いは、それ自体がキラめきであったからこそ、フランスに行く決意ができた。しかし、クロディーヌは「皆殺しのレヴュー」で、この「満足」のままでは、いつか舞台少女として朽ちて死んでしまうことに気づく。「あんたとケリをつけて、次の舞台に立つために」という台詞にあるように、「魂のレヴュー」でクロディーヌは真矢にケリをつけることで、レヴューデュエット以上のキラめきを得て燃料にしようとしていた。

4.天堂真矢の「舞台少女の死」

 しかし天堂真矢も舞台少女の死に直面していた。私個人の見解だが、真矢の死のきっかけはクロディーヌのフランス行きではないかと考える。全く想定していなかった訳ではないだろうが、クロディーヌの迷いのない決断に少しは動揺したかもしれない。3月の聖翔祭でのスカウト。4月の進路相談が終わり、真矢は誰からクロディーヌが渡仏することを聞いたのだろう。本人から聞けたのだろうか。どんな反応をしたのだろうか。華恋も、香子も、ななも、レヴューで相手に戸惑いをぶつける。だが幼馴染でも同室でもない真矢は、クロディーヌにその思いをぶつけることはできない。第99回聖翔祭で握手を断られてから前を歩く「ライバル役」を演じてきた真矢は、クロディーヌがそうであるように、次の舞台である新国立だけを見つめるしかない。

 真矢は神の器を演じることで、悪魔的存在に惑わされることなく、新たな役に生まれ変わり続け舞台で生きていくことが出来ると証明してみせる。真矢が慈愛のまなざしでクロディーヌのボタンを落とすシーンが好きだ。学園生活を彩った「ライバル役」との最後のレヴュー。神の器は躊躇いなく、新国立という次の舞台へ、新たな天堂真矢として生まれ変わることができる。今の真矢も、クロディーヌも、聖翔という舞台での「ライバル役」でしかない。神は、恐怖も執着もしない。

 真矢は「舞台と観客が望む」新たな役に生まれ変わり続け、「舞台で演じ続ける」ことのみを喜びとして生きようとしていたのではないか。舞台を愛することで、自らの魂を殺して空っぽな神の器を演じ次の舞台に進もうとしていた。

5.クロディーヌから受け取ったキラめき

「あんたは神の器でも、空っぽでもない。
驕りも誇りも妬みも憧れもパンパンに詰め込んだ欲深い人間よ」
「死んでも死んでも私はよみがえる
天堂真矢、ライバルであるあんたをねじ伏せるために」

 ボタンを落とされてもクロディーヌはお構いなく、真矢に挑み続ける。クロディーヌにとって「私たち」は「ライバル役」ではない。お互いが血の通った人間で本物のライバルだと告げて、ありのままのクロディーヌに生まれ変わってみせる。そして神の器の首を切り落とし、真矢にも生まれ変わりを迫る。

 「奈落で見上げろ 私がスタァだ」の真矢様に私はいつも拍手をしてしまう! 「やっといつものあんたになったわね」というクロディーヌの台詞通り、これでこそ天堂真矢だ。そしてその真矢を暴き出したのは紛れもなく、クロディーヌだ。

 真矢が自身を「哀れな道化」と形容する台詞に対して、クロディーヌは人間だと、ライバルだと最後まで伝え続ける。ずっと自分を認めて欲しかった相手に、ありったけの魂を込めて。お互いの名前を呼び合い、思いが通じ合った時、真矢はクロディーヌの美しさに目を奪われ、上掛けを落とされる。

 真矢の涙は彼女がまだ高校生であったことを思い出させる。魂のレヴューでの敗北で、初めて2人は対等となった。永遠のライバルとなり、友となった。舞台セットが盛大に燃える。真矢がクロディーヌから受け取ったキラめきの炎だ。「誰も見たことのないキラめき」、それは真矢がライバルに対して初めて強く感じる悔しさかもしれないし、眩しさかもしれないし、恋なのかもしれない。ライバルのレヴューは、お互いがお互いの生まれ変わりの燃料である限り、永遠に終わらない。

 真矢の台本の「最後のセリフ」が好きだ。

「愛しき日々を血肉に変えて。私は踏み出す、果てしなく続くこの道に」

 新国立という新たな人生の舞台に生まれ変わり、新たな役を受け取ったとしても、真矢自身の魂はずっと変わらない。魂が聖翔での愛しき日々を覚えている限り。天堂真矢は彼女自身の意思でクロディーヌの永遠のライバルとなり、全てを血肉に変えて生まれ変わり、次の舞台に進み続ける。

6.まとめ 私とスタァライト

 2021年の7月、たまたま劇場版に合わせて無料公開されていたTV版を観た。女の子同士の感情のぶつかり合いがレヴューという形で表現されるのが新鮮でちょっと心惹かれた。地元の映画館では既に公開終了しており、池袋の大きな映画館に滑り込んだ。気が付いたら3日後に同じ映画を観ていた。一人一人の背景を知り切らないままクライマックスを観てしまった咀嚼のしきれなさを感じて、TV 版を見返し、サブスクで楽曲を聴き、パンフレットを取り寄せ、情報を集めた。日常がスタァライトに侵食され始めた。

 地元の映画館で再上映が決まり、夏よりもずっと理解が深まった状態で映画を観た時、分からないことは分からないままだけれど、99期生の台詞が自然と心に響いた。やっとこの作品に込められたものを受け取れた気がして嬉しかった。

 私が本作品を愛する理由の1つは「永遠と終わり」が描かれていることだ。幾度となく繰り返されてきた再演と、『戯曲 スタァライト』のフローラとクレールのように離れ離れになり卒業していく永遠の約束と運命を分かちあった少女たち。ロマンティックで、人生の儚さも感じる。

 幼い頃から「終わり」がどうしようもなく苦手だった。だから、たとえ何があっても次の舞台へ進んでいく真矢様の気高さに、私はずっと憧れている。そして、劇場版で彼女が見せた涙と、キラキラのレヴューに何度も何度も勇気を貰っている。真矢様の未来に、沢山の幸せがありますように。99期生がずっとずっと仲良しでありますように。


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